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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
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146 エンペラーホーク

 属性剣ライトニングを受け取った翌日、シストと待ち合わせていたギルドへとやって来た。

 テーブル席に着いて飲み物を注文し、一息ついたら出発するつもりだ。

 今後の予定としては先に王都に図鑑を取りに行くのもいいが、また王宮にも行く用事がある為、まずはラウンローヤでシストをブレイブに合流させておきたい。


「あれ?ところでシストはテイムしてるモンスターいないのか?」


「今はいないですね。以前もらったセンチュリーバフはもともと国の物資運搬に使うといいだろうとの事でしたので、国で仕事をする者に譲りました。我々派遣隊には新たにモンスターをテイムできるようギルドから協力してもらえる事になってます。いえ、なってました」


「あ、オレが引き抜いたから?」


「そうです。ですので何かモンスターを用意してもらいたいのですが」


 派遣されて来たばかりのシストを半ば強引に引き抜いたとすれば、やはりディーノがモンスターを用意するべきだろう。


「シストもサーヴァ程とは言わないがテイマーとしての実力は相当なものだぞ」


「あー、クランプスもテイムしてたしな。それならSS級でもいいわけだ。人乗せるならデカい方がいいけど……魔鏡で探すか?」


 ディーノは図鑑でモンスターの事はよく知っているものの、ギルドでの依頼は受付嬢の紹介するものだけを受注していた為、どこに何がいるかなどの詳細を知らない。

 図鑑には大まかな場所は乗っていたとしても、範囲が広すぎて目星がつけられないのだ。

 魔鏡であれば強力なモンスターも多く、巨獣系の噂は竜種以外に聞いた事はないが何かしらいるはずだ。

 フレースヴェルグの件もあり鳥型モンスターは移動が速くて良さそうではあるが、あれ程の巨鳥ともなれば以前戦ったクイーンイーグルも悪くはないかもしれない。

 機動力の低さや戦闘が得意でない事を除けばだが。

 そこへ飲み物を運んできたエルヴェーラ。


「巨獣系モンスターも紹介できますよ?討伐依頼で誰も受けてくれないハズレクエストですけど。危険度も低かったのでディーノさんにも紹介してませんでしたが」


「え、じゃあ見せて」と持って来てもらった依頼書は二枚。

 一つはブラッディホーンベアであり、ディーノがオリオン在籍中に最後に戦ったモンスターだ。

 戦闘力の高さは相当なもので、竜種すらも食い殺せるという獰猛さを持つが、縄張りをもち巣に籠もる性質がある為危険度としては低めだ。

 以前オリオンが戦った個体は、餌場を求めて人里近くまで降りて来た為討伐対象となったのだが。

 もう一つがエンペラーホークの討伐であり、こちらは戦闘力はやや低めだが討伐の難しさからSS級となっているモンスターだ。

 直線飛行の速い風属性のモンスターではあるものの、攻撃魔法が使えない事や機動力もやや低めな事から戦闘向きのモンスターではない。

 また、野生のボアを主食としている事から危険性も少ないのだが、家畜を襲われる事もあるらしく、牛一頭を獲られたとして討伐依頼が発注されている。

 牛を掴んで飛べる大きさとなれば、アリスと初の二人旅で遭遇したクイーンイーグルの上位モンスターとなるかもしれない。


「エンペラーホークいいな。餌も困る事ないし」


「鳥型は良かったもんな」


「私は構いませんが……でもディーノさんなら簡単に捕まえられそうですね」


「叩き落としてテイムするだけだしな。じゃあこれ、受注するって事でよろ……?討伐が捕獲になった場合どうなるんだ?」


 討伐依頼の条件としては当てはまらない為、達成にはならないのではないだろうか。


「こちらで交渉しますが報酬は少し安くなるものと考えて下さい。害獣を排除したという事で達成扱いにはしますので」


「じゃあよろしく」


 こうしてあっさりと捕獲するモンスターを決めてギルドを後にする。

 今後エンペラーホークの騎乗装具も必要になるが、広場の区画長にでも話を通しておけば職人さんが作ってくれるだろうと、マルドゥクの待つ広場へと向かった。


 マルドゥクを洗い終えた住民達と区画長はディーノ達を待っており、水気を払おうと身震いを繰り返している為、ウルにギフトを渡して熱乾燥をしてもらう。

 そして大量の抜け毛がまとめられており、前回と同じく抜け毛は好きにしていいと言うと洗浄してくれた人々から喜んでもらえた。

 どうやら庶民からすればこの抜け毛がいい値段になるらしく、より合わせた糸で作った衣服が耐火耐燃、さらには防刃性能をもつ薄手の装備になるという事ですでに何着かは売られたらしい。

 インナーとして重宝するとの事で鎖帷子の代わりにもなるのだとか。

 ただで洗浄してもらうのでは気が引けるとは思っていたが、利益が出るなら今後も洗ってもらう事にしよう。


 そして区画長に騎乗装具の話をしたところ、小遣い稼ぎにマルドゥク洗浄にも参加していた装具職人が快く引き受けてくれた。

 フレースヴェルグ用の予備の装具も造っているらしく、寸法を合わせて微調整すればそれ程大きさに違いのない個体であれば取り付け可能との事。

 代金の支払いも約束して出発する事にする。




 昼を過ぎた頃に出発したとしてもマルドゥクの足であれば一の時とかからず目的地に到着し、山の高い位置からこちらを見下ろしていたエンペラーホークは目視できた段階で逃げようと空へと舞い上がった。

 このまま空高く飛んで行かれては捕獲は難しくなってしまう為、今のマルドゥクの速度にディーノの加速を乗せる事で一気に距離を縮めようと少し考える。

 爆破加速はこれまで通り、歩数千歩の距離をカウントにして二十二で駆け抜けられる。

 そこにマルドゥクの今の走る速度が乗る事で約十八。

 そして今は新しく手にした属性剣ライトニングの雷属性が加わるとすれば、またさらなる加速も可能になるかもしれない。

 左右の腰に提げた魔鋼製武器により魔力の引き出す量も倍となり、威力としては以前と変わらないとしても体内へのチャージが早くなる事で魔法の回転率も跳ね上がる。

 エンベルトの戦いを思い返し、雷撃を放出するのではなく風の防壁のように全身に張り巡らせるようイメージ。

 しかし放電現象が体外で起こるだけであり、これでは素早さに活かす事はできない。

 それならば体内で……

 これまで風魔法を自在に操ってきたディーノであれば雷属性といえども魔力の使い方は造作もない事。

 出力を下げて体内から雷魔法を放出するイメージで神経伝達を高めていく。


 空高く上昇していくエンペラーホークに不安を覚えるシストだが、放電現象を起こしながらイメージを固めたディーノがギフトを発動後、助走をつけて駆け出した。

 ほぼ最高速度状態からさらに爆破で加速し、これまでにはない足の動きに驚きながらも防壁を蹴って上昇していく。

 しかし速度に乗った分だけ上昇する力は弱まり、エンペラーホークの高度まではなかなか辿り着く事はできないが、使用するのがこの日初めてである為速度を上げられただけでも充分な成果だ。

 上昇する角度をさらに上げ、エンペラーホークとの距離を次第に詰めていく。

 ここまでの速度を見ただけでもマルドゥクよりも少し速く、クイーンイーグルに比べれば二倍近い速度を出している。

 さすがにフレースヴェルグ程とまではいかないものの、さすがはSS級モンスターというだけの速度だ……と、言うよりは討伐するのはほぼ不可能なのではないだろうか。


 エンペラーホークよりも高い位置まで辿り着いたディーノは体を翻し、防壁を蹴ってその背中へと向かっていく。

 ここは地上より遥か上空となる為、一撃で沈めてしまっては殺してしまう可能性が高い。

 それならば、新しく手に入った雷撃よりも慣れた風魔法を利用するべきだろうと、威力を抑えて爆破を叩き込む。

 叫び声をあげたエンペラーホークは体を傾かせ、背中からディーノを振り落とそうと垂直に降下し始めた。

 その後機動力の低いエンペラーホークは地上からはまだ高い位置で方向を変え、地面に水平になるまで体勢を立て直す。

 しかし高度を下げるのが目的だったディーノとしては好都合。

 もう一度爆破を叩き込み、地面を滑るようにして草原へと落下したエンペラーホーク。

 あとはシストのテイムが成功するまで雷撃を叩き込めばいいだろう。


 全力で駆けていたマルドゥクがハフハフとしながら追い付き、エンペラーホークへと近付いたシストがテイムスキルを発動する。


「ディーノさんは本当、凄いですね……バランタイン王国最強というのも頷けます」


「あー、オレはまだまだ最強じゃないから。勝てる気しないけど兄貴に勝てたら最強かな〜」


「どうなってるんですかこの国は……戦争なんて起こさなくてよかった……」


 戦いにおいての最強の存在となればザックやエンベルトかもしれないが、全てのモンスターにとっての最強となればディーノかもしれない。


 その後落下しただけでは成功しなかったテイムスキルではあったものの、雷撃一つであっさりと降伏したエンペラーホークは、それ程大きなダメージを負う事なく捕獲できた為、手持ちの上級回復薬三本と下級回復薬五本を与えて捕獲作戦は終了。

 下級回復薬の効果が切れるのを待ってラフロイグへと戻る事にした。




 ラフロイグに戻るとやはり新たにやって来たエンペラーホークが物珍しく、人々が多く集まる中、職人達によって騎乗装具が取り付けられた。

 フレースヴェルグよりも一回り小さいという事で装具も二つ取り外してギリギリの七人乗りとなってしまったが、パーティー移動用のモンスターであるとすれば問題はないはずだ。

 もともと荷物の運搬なども考えてはいない飛行用装具である為、全員が乗れればそれでいい。

 できればフレースヴェルグやマルドゥクのように胸飾りがあればいいなと思っていたところ、縫製工場の職人も顔を出してこれを作ってくれると名乗りをあげた為、是非にとお願いしておいた。

 次回戻って来るまでには完成している事だろう。


 すでに昼八の時を過ぎた為この日のうちにラウンローヤに行く事はできなかったが、明日の午前中に出発すればラウンローヤまで夕方には着く事ができるだろう。

 もしこの日の昼から出発していた場合、日が暮れてからの到着となってしまう事から、真っ暗な中にやって来た巨獣に大騒ぎになっていた可能性もあったのだ。

 一日ずれ込んだのは都合がよかったのかもしれない。


 とりあえずこの日の夜はシストの歓迎と、ウルがエルヴェーラとの関係を進めればいいだろうと、ここしばらく行っていなかった【月の夜】で食事と酒を楽しんだ。

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