表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
144/257

144 派遣

 フレースヴェルグの捕獲に成功した聖銀と黒夜叉は、ジャーモニー領に戻るとすぐに駆け付けたギルド長と伯爵により、この伝説の魔鳥と巨狼の公開を頼まれる。

 手に入れたばかりのフレースヴェルグに乗る事ができないのは辛いが、約束していた為仕方がない。

 サーヴァからは餌付けでしっかりと懐かせた方が細かい意志まで伝えやすくなると説明があり、聖銀もジャーモニーにいる間は餌の確保を日課にするかとこの辺りのモンスター生息状況も聞いておく。

 また、捕獲前にはマルドゥクの色艶がいい事からフレースヴェルグを洗わせてくれないかとの要望もあったが、水浴びで清潔さを保つ鳥型モンスターである為捕獲した時点でも汚れは見当たらない。

 全身に陽の光を浴びている為か匂いもなく、強靭な羽毛の内側にあるふわふわの毛が最高に手触りがいい。

 洗浄は必要ないだろうと断り、マルドゥクもラフロイグで洗浄をしてもらう事になっている為断っておく。

 だがジャーモニー伯爵としてはフレースヴェルグに自分達の何かを残したい。

 それならばと提案されたのはバランタイン王国とルーヴェべデル獣王国の国旗を刻んだ胸飾りを作ってもらえないかというもの。

 マルドゥクにも言える事だが、どこぞのモンスターが攻めて来たのかと行く先々で騒ぎが起こってしまうだろうと、旗印を提げる事で国の人間が使役するモンスターだとわかるようにするものだ。

 この提案にはジャーモニー伯爵も賛同し、職人の手によって最高の物を作らせると意気揚々と去っていった。

 職人があとでデザインの相談しにくる予定となる。




 ◇◇◇




 フレースヴェルグ捕獲から五日が経ち、ジャーモニー伯爵への義理も果たせただろうと、この日出発する事にした黒夜叉と聖銀。

 それまでに権力者との食事会や、騎士達の訓練指導、娯楽施設に連れて行ってもらったり夜の街に遊びに行ったりと、それなりに充実したジャーモニー領での五日間を過ごす事ができた。

 フレースヴェルグの首にも紺地に金の刺繍が映える胸飾りが掲げられ、留め具として配されたボタンにはバランタインとルーヴェべデルの国旗が刻まれている。

 そう大きな目印とはならないもののどこの領地でも見張りの者がいる為、ゆっくりと近付けば騒ぎが起こる前には国旗に気付いてもらえるだろう。

 同じようにマルドゥクにも深紅地の胸飾りが提げられており、ディーノとウルはその出来に満足そうだがマルドゥクとしてはこの異物が気になるようだ。

 匂いをスンスンと嗅いだり前足でカイカイとしたり、破るまではしないものの齧ってみたりと落ち着きがない。

 慣れるまでは事あるごとに気にするかもしれない。


「じゃあ俺らもラフロイグには行くんだが、装具付けてもらったらすぐにブランディエに飛ぶからよ。たぶんここでお別れだ。またすぐに会えるだろうが元気でな。今回は世話になった」


 ザック達聖銀はこの後隣国であるブランディエに行くと予定との事だが、山脈を大きく回って行く必要がある為二十日近くかかる旅となる。

 それを今回フレースヴェルグを捕獲できた為、山を越えれば一日二日程度で着けると考えれば、このルーヴェべデルからジャーモニー領に掛けての旅を含めても、直接馬車で向かうのとそう変わらない時間で辿り着ける事になるだろう。

 帰り道の事も考えればサーヴァを仲間にしてフレースヴェルグを捕獲できた事は、聖銀の旅に大きな革命を起こす程の出来事だ。

 紹介してくれたウルにもルーヴェべデル獣王国との関係を予想以上に良くしてくれていたディーノにも感謝の気持ちは強い。


「いいように使われたような気もするけどまあいいや。オレはやる事やったら一旦王様から仕事の内容聞いてから今後の方針決めるかな〜。拠点はラフロイグだから何かあればそっちに頼む。あ!図鑑忘れんなよ!?」


「そういやそうだった。王都にも一回寄ってくわ」


 ディーノのやる事とはファブリツィオに依頼していた魔鋼製武器を受け取りその打ち上げがこの日の夕方を予定している事と、ウルの後輩テイマーにアリス達のパーティーに加入してもらい、旅の移動を手助けしてもらえるよう頼む事だ。

 毎日会えるようになるわけではないとしても、今の全く会えない状態よりも断然いい。

 国の指示だろうが何があろうがディーノにとっては最優先するべき案件である。

 そしてもちろん図鑑の事も忘れてはいなかったようだが。


 聖銀が前回と同じように縦並びに騎乗して空へと舞い上がり、フレースヴェルグが飛び立つ瞬間に立ち会った住民達からは拍手で見送られた。

 そしてディーノもマルドゥクへと乗って伯爵領を出る。

 すでに点になる程まで遠くへと飛んで行くフレースヴェルグを追ってラフロイグへと駆け出した。




 ◇◇◇




 また所々でボア系モンスターを摘みながらラフロイグへと帰って来たマルドゥクは、住民達に歓迎されながら大通りを進んで広場へと到着。

 出迎えに来た区画長には滞在が短い事を伝えると、明日の午前中には洗い終えるよう指示を出してくれるとの事でマルドゥクの事はお任せする。

 また、三の時程前には聖銀が到着しており、ラフロイグ伯爵立ち会いのもとフレースヴェルグに騎乗装具が取り付けられ、少し急ぐ用があると一の時前には飛び立ったとの事。

 マルドゥクが何度かのおやつタイムを取ったとはいえ、仮にそのまま走り進んでいたとしても二の時程の時間差があったと考えればその速度は相当なものだ。

 安定した高速飛行が可能なフレースヴェルグならではの速度といえる。


 マルドゥクを広場で休ませておき、ディーノとウルはギルドへとやって来た。

 ウルはもちろんエルヴェーラに会うのが目的だが、ディーノもアリス達がどこにいるのか情報を得る為に用がある。

 ディーノはクラリスから今の英雄パーティーの所在を聞くと、六日以上前の情報ではあるが魔鏡に近いラウンローヤの街にいるとの事。

 すでに上位竜討伐まで達成し、今は手負いの竜種が動き出すのを待ちながら魔鏡で修行中らしく、会おうと思えば今すぐ向かえるが……まずはウルにシストと交渉してもらうのが先決だ。


「ウル。明日お前の後輩ってやつに会いに王都に行こうと思うけどいいか?」


 受付カウンターごしにエルヴェーラと会話を楽しんでいたところに声を掛けたが、ウルは少し視線を逸らしつつ重要な部分を言っていなかった事を思い出す。


「まだバランタイン王国には来てないんじゃないか?グラーヴジーの部下の派遣はまだ予定の段階だったし……」


「は?ん、んん……確かに……そういえばそうだった。気付けなかったぁ」


「とりあえずルーヴェべデルに戻ったら俺が交渉するから。な?騙したわけじゃないぞ?」


「まあ、騙したうちには入んないだろうけど……」


 ルーヴェべデル獣王国に行ってすぐに帰って来れるわけではない。

 他国の者が国を訪れたのにも関わらず、挨拶も何もせず国民であるシストを連れ去って行くだけではあまりにも失礼だろう。

 落ち込んでしまうディーノだが……


「それはルーヴェべデル獣王国の方がバランタイン王国に派遣されるというお話ですか?もしそうでしたらすでにラフロイグにも何名かいらっしゃってますけど?」


 クラリスからそう告げられ、その背後でエルヴェーラもコクコクと頷いている。


「え!?どこに!?」


「今は宿舎に待機中ですね。彼らはギルド所属となりますので近々モンスター捕獲依頼が発注される予定となっています」


「それならシストはここにいる可能性もあるか。黒夜叉の所属ギルドがラフロイグだと知っているはずだからな」


「シストさんなら来てますね」


 あくまでもウルを追って来た場合ではあるがと思ったが実際来ていたようだ。

「それならすぐに会いに行こう!」とディーノから急かされたウルは、ギルドの管理する宿舎へと走って向かう。


 その後、宿舎でシストの部屋番号を聞き、ウルが事情を説明すると……


「そんなにいいパーティーを紹介してくれるんですか!?是非、よろしくお願いします!」


 交渉するまでもなかったが。


 ただし、ギルド所属となっている関係で勝手にパーティー加入を決められないとの事で、ギルドに戻ってヴァレリオに直接交渉すると、ディーノの王族にも匹敵する権威を振るえば命令すらも可能との事。

 ディーノがシストに命令を下し、黒夜叉でモンスターを二体管理する事になってしまうよりはいいだろうと、ブレイブの一員とする事を勝手に決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ