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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
136/257

136 サーヴァ

 ディーノはルーヴェべデルでは行きつけとなった酒場でウルと聖銀、獣人となったザハールと竜人となったゲルマニュートと共にとある人物を待っていた。

 酒場に来る前に国王からの使者がその人物の元へと向かっている為、まだ少し時間はかかるだろう。


「久しぶりにアリスに会いたいな〜。ってかあいつら竜種狩りはうまくいってんのかな」


「大丈夫じゃねーか?たぶん今のマリオ達なら上位竜相手にもなんとかなるだろうし、お前のパーティーも強えんだろ?そんなら余裕だろ」


 ザックの見立てではマリオの強さは下位竜にソロで挑んでも勝てると踏んでおり、上位竜相手でもある程度は戦えるとまでの評価を下している。

 今は発展途上のマリオではあるが、今後の成長が楽しみで仕方がない人物でもある。


「まぁ上位竜程度ならな。アローゼドラゴンをデカくしただけみたいなもんだし」


「そう思うのはお前とかエンベルトくらいのもんだ。普通はデカくなっただけでも脅威度は跳ね上がるんだからよ。っつかAA級と同じ括りにすんじゃねぇ」


 ルーヴェべデル国王とザハールの上位竜戦の後に、王家に近い侯爵でもあるソゾンを分離させたディーノは、初の上位竜戦だと張り切り、ギフト発動から最大加速での接近、刺突、そして爆破の一撃で瞬殺してしまった為その強さをよく理解していない。

 バランタイン王国冒険者の戦いぶりを観たかったはずのルーヴェべデルの上層部も、この一瞬の出来事には開いた口が塞がらなかったようだ。

 ゲルマニュートはただ一人だけ笑っていたが、ディーノの強さをある意味勘違いしていた為笑うしかなかった。

 ドラゴニュートを捕獲する程の強さを持つばかりではなく、まさか人外の強さを持つとまでは思っていなかったからだ。


「兄貴だってオレの事言えないだろ。オレも兄貴に結構近付けたんじゃないかかな〜って思ってたのにさぁ。まだ全然遠いんだけど」


「はっはっは。まあ戦いの質が違うからな。攻撃特化の俺やエンベルトに比べりゃオールラウンダーなディーノはその分、別の強みがあんだろ。例えばそうだな、マルドゥクなんかは〜……」


 その後は獣人への移行を躊躇っていそうだった色相竜と融合していた先代と先々代国王も心変わりしたのか、ディーノに身振り手振りで自分の意思を伝え、先に【黒竜】へとギフトを与えてフュージョンを解除。

 自我を取り戻した黒竜は怒りの咆哮をあげると、自身に融合していた六代目国王に襲い掛かった。

 ディーノが黒竜の前に立ちはだかるも、その一撃を受け止めたのはバランタイン王国最強のファイターであるザック=ノアールだ。

「ここは狭えから俺がやる」と戦い始めたザックの強さは、ディーノでさえもやはりまだまだ届かないと思える別次元のもの。

 圧壊という質量と破壊の魔法を使う黒竜ではあったものの、ザックの振るう巨剣はディーノの持つユニオンと同じく魔鋼製であり、その全ての魔法攻撃を相殺しながら半々時と掛からずに討伐してしまう。

 ザックのスキルは一般的な一撃必殺となるスラッシュではあるものの、再使用までの待機時間が驚く程に短い。

 通常の斬撃を三度振る頃には待機時間を終えて四撃目で超威力のスラッシュで叩き斬る。

 その通常の斬撃でさえも他の冒険者のスラッシュを遥かに上回るものであり、バランタイン王国最強のファイターは色相竜でさえも圧倒する力を持っていた。

 初めて見るザックの本気の戦いにディーノは身震いする程の恐怖さえ憶えた程だ。


 そしてもう一体の色相竜【赤竜】を相手にしたのは、こちらもまたバランタイン王国最強のウィザードであるエンベルト=ライアー。

 火炎竜となる赤竜はブレスが脅威ではあるのだが、雷属性の魔法スキルを持つエンベルトは雷竜である黄竜よりも魔法の使い方が上手い。

 赤竜がブレスを吐き出そうとするも、身体能力向上に加えて放電現象と磁場を利用した加速により、ディーノと同等かそれ以上の速度で眼前へと急接近。

 のしかかるように赤竜の鼻先に手を置くと、地面に叩きつける程の衝撃を持つ雷撃が打ち込まれる。

 絶叫しながらわずかに痙攣を起こした赤竜は地面に蹲り、雷撃の放出を終えたエンベルトは地面に降りて少し待つ。

 これは魔法スキルの待機時間ではあるのだが、赤竜が体に残された雷撃の相殺に手間取っている為余裕の表情だ。

 ポケットからお菓子を取り出して食べる余裕さえある。

 その後先に動き出したのは赤竜ではあったものの、あまりにも強力な雷撃であった為動きが鈍い。

 お菓子の包み紙を雷撃で塵にしたエンベルトは赤竜の動きを待ち、ブレスは隙を作ってしまうと判断した赤竜はその巨体を使って襲い掛かる。

 それを放電現象を起こしながら右へ左へと回避し続け、一瞬の隙を突いた急加速から腹部へと雷撃を打ち込む。

 これを何度か繰り返す事で赤竜の動きを鈍らせていき、最後には背後へと回り込むと弱点である翼の付け根部分へと雷撃を叩き込んで絶命させた。


 ザックといいエンベルトといい、色相竜の強みである魔法攻撃を全て抑え込んだ上で圧倒して見せたあたりは、戦い方の手本にとでも思っていたのだろう。


「まっ、そのうち追い付けるよう頑張るさ」


「俺達もうかうかしてらんねーな〜。なっ、ランド」


「評価値ではすでに俺達が追う側じゃないか?」


 パウルはシーフセイバーとして、そしてランドはランサーアーチャーとして登録している為評価値はそう高くない。

 実際のところパウルのシーフとしての評価値は130を超えており、竜種と戦う為にも攻撃力が必要だとして双剣使いのシーフセイバーとして登録している。

 現在はバランタイン国王から譲り受けた、かつての聖戦士の遺品である武器を修復、改造中であり攻撃力の上昇を図っている。

 別の理由でランドは仲間が近接ばかりを得意とするという理由で、アーチャーとして弓を使うようになった。

 ランサーとしての評価値は90程とパーティー内ではそう高くないものの、器用さを高めたアーチャーとしても同じく90程と、どちらも高い評価値を持つ。

 そして評価値90超えのアーチャーである事から、フィオレと同じクリティカルの追加スキルを持っており、ランサーとしてもクリティカルを使用できると考えれば評価値以上の実力を持つのだが、聖銀内ではそう目立つ存在ではない。

 また、この二人も色相竜と戦えるだけの実力があり、ザックやエンベルトに比べれば時間がかかる事や、周囲の被害が大きい事から今回は戦いを譲っている。


「あなた方がバランタイン王国で最強と呼ばれているのも納得できたよ」


「ディーノより強い人間が存在した事に驚きだった……」


「笑ウ事スラデキナカッタカラナ」


 結局その日のうちに全ての竜種とフュージョンを解除したルーヴェべデル王家の血筋の者達は、すでにグロウパピィを捕獲して獣人化してある。

 今後生まれるかもしれない子供の為にも必要であると数匹多めに捕まえて来ており、数年がかりで繁殖させる予定との事だった。




 この日は聖銀のもともとの目的である仲間の勧誘の為にこの場を設けており、ディーノとしても世話になってきたザックの為にもこの交渉は絶対に成功させたいと意気込んでいる。

 そして酒も注文せずに世間話をしながらしばらく待っていたところでようやく来た。


「お呼びですか、ザハール様。ゲルマノヴナ様がおられないようだが……ちっ、ウルがいるのか……」


「サーヴァヨ。久シブリダナ。私ガゲルマノヴナ、改タメ、ゲルマニュートデアル。ドラゴニュートト同化シタ為コノヨウナ姿トナッタノダ」


「私もほら、見えるだろう?この耳が。グロウパピィというモンスターと同化して獣人となったんだよ」


「なるほど。戦争を避けた事と異国の客人がおられるあたり、バランタイン王国となんらかの交渉したという事でしょう。詳細はのちほどお聞かせください。して、本日のご用件はなんでしょう」


 一般の冒険者あがりにしては真面目で堅実そうな男である。

 淡々としていて少し面白味に欠けるなとディーノは思うが……

「ではウルの紹介という事だからよろしく」とザハールから引き継ぎ、ウルが立ち上がると鋭い目を向けたサーヴァ。

 やはりわだかまりは解けてはいないのだろう。


「そう睨むな。俺もすでにティアマトを失い0級は返上した身だ。お前と同じ1級冒険者に戻ったさ」


「だがあの巨狼はお前のだろう?俺とお前とじゃやはり立場は違う」


「マァ待テ。話ガ先ニ進マヌ。マズハウルノ話ヲ聞イテヤレ」


 またも睨みつけるサーヴァは恨んでこそいないが、自分の今の立場では妬む気持ちが強いのだろう。

 しかし王家の血筋にあるゲルマニュートの言葉は絶対とばかりに気持ちを押し殺して従うサーヴァ。


「お前に依頼、というか仲間への勧誘をしたくてわざわざバランタイン王国から出向いてくれた方々がいる。紹介しよう。バランタイン王国最強のSS級冒険者パーティー、聖銀だ。色相竜をもソロで倒す程の実力の持ち主ばかりのパーティーだけに、テイマーでありながら俺が最も有能と信じたお前を紹介しようと思ったんだ。俺の事は気に入らないかもしれんが彼らの話を聞いてほしい」


 ウルが聖銀を紹介すると立ち上がり、各々自己紹介をしてからリーダーであるザックが話し始めた。

 世界規模の竜害について詳しい話は後で国から説明を受ける事とし、端的に掻い摘んで今後の危険性を訴える。

 そして今自分達の現状、移動に時間がかかり過ぎる事や危機に瀕している街への移動に間に合わない可能性がある事を説明。


「そこでウルから信頼できる人物を紹介してくれと頼んだところでお前さんの名前があがったわけだ。どうだ?うちのパーティーに参加してくれねーか」


「我が身はルーヴェべデル王国に捧げている。ゲルマノヴナ様の命令とあらば従うが……今の俺にはテイムするモンスターも手元にはない。他を当たる事をお勧めする」


 どうやら渋っているのは自分の使役するモンスターがいない事にあるようだ。

 その程度の事であればザックにとっては容易い事であり、サーヴァの欲しいモンスターを捕獲してやろうと思っている。


「豹王のサーヴァ。その名が惜しいならレオパードでも何でも捕まえてやるぜ?だが俺らを乗せられるデカいの限定だけどな。餌も用意するし報酬も支払う。何不自由ない生活、とまではいかねーがそれなりのもんは約束するぜ」


「何でも……本当に?」


「命令ダ。聖銀ノ役ニ立テ」


 最初からゲルマニュートも聖銀へのサーヴァ加入は了承しており、命令が欲しければ命令を下すまで。

 サーヴァにとって断る理由は何もない程の条件を提示されたうえでも断るとするならば、ウルとは余程の諍いがあったのだろうと思うところだが……


「喜んでパーティーに加入させてもらおう!」


 子供のように目を爛々と輝かせ、満面の笑みを浮かべてあっさりと加入を決めたあたりはなかなかに可愛げのある男である。

 獣王国特有の鋭い目つきから少しキツそう雰囲気はあるものの、見方を変えれば動物のように尻尾を振りそうにも見えなくもない。

 キザったらしいウルよりも余程可愛げのある人物のようだ。


「じゃ、お前は今日から聖銀のサーヴァだ。よーし、歓迎会だ!ねーちゃん、店にある一番いい酒あるだけ持ってきてくれ!」


「あまり酒は得意じゃないんだが?酒なら果実酒が飲みたいし肉も食べたい」


「そ、そうか。じゃあ最高の果実酒も持ってきてくれ!あと肉も!」


「ウルも悪かったな。本当は言いたい事いっぱいあったけどさ、言ったら困らせると思って我慢してた。嫌われた方がウルも自分の任務に集中できると思ったし。ゴメンな。それと紹介してくれてありがと!」


 どうやら素直で正直な男でもあるらしい。

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