135 モテ期
サガのメンバーがオリオンにも負けないパーティーに成長してみせると決意を示し、そしてロザリアとルチアも。
「なぁ、アリス。あたし達の今の実力じゃオリオンの足手まといにしかならない。本当は一緒にいてもっともっと鍛えてほしいとこだけど……でもディーノに鍛えられて、そこからパーティーと一緒に強くなっていったソーニャを見てたらさ、あたし達も……あたし達を必要としてくれるパーティーで強くなりたいって思ってさ。っていってもこれから探さないとなんだけど、強くなりたいって気持ちは本物だ。だからあたし達は少し旅に出ようと思う」
強い決意を持ってそう告げたロザリアにルチアも頷き、オリオンとしての旅はこの一度で終えてしまう事になるが、二人揃って仲間を探す旅に出ようという意志があるようだ。
どうやらジェラルドにパーティーを組もうと誘ったのはルチアをからかう為だったようだが。
「あたし達って事はルチアもよね?あるわよ。有能なシーフとアーチャー欲しがってるパーティー」
「「ええ!?」」
「SS級で男だけのパーティーなんだけど紳士的だったし私としても好印象だった人達よ」
「あ、ルビーグラスだね?」
「そう。近接戦を得意とするパーティーだけど今後も竜種と戦うなら遊撃と遠距離攻撃が必要だって言ってたのよ」
ルビーグラスはアークトゥルスとの共闘でシーフの重要性を知り、黄竜戦ではフィオレの遠距離からの援護や好機を作り出す能力に舌を巻いていた。
さすがにS級までは求めていないが、有能なA級冒険者ならパーティーに誘いたいとこぼしていたのだ。
「男嫌いのアリスが好印象……み、見た目は!?」
「どこにいるの!?」
「今はマーカーズ領にいるんじゃないかしら。見た目は私に聞かないで。私はディーノ以外どうでもいいから」
「ルビーグラスはみんなカッコいいよ。レナもそう思わない?」
「私に聞くの!?えっと、私の好みではないけど……たぶんモテると思うよ?」
レナータとしては可愛い男が好みであり、イケメンが目の前にいたところで好意を抱く事はない。
それでも少し歳上ではあるもののルビーグラスはいい男揃いの四人パーティーであり、マーカーズ領で評判だというのは実力だけでなく見た目の良さも含まれていたりする。
マーカーズ領は王都から馬車で三日程の距離にあり、海に面した観光地としても有名な場所でもある。
「かっこいいのか!その上SS級なんてこれは期待できるな!ルチアも楽しみだな!」
「私は……その……」
と、サガのメンバーとわいわい酒盛りをするジェラルドにチラチラと視線を送るルチア。
「そうだった。あんたはジェラルドにご執心だったな。でもあたしと旅に出る覚悟はできたんだろ?それならここは一発決めてこい!」
「一発!?な、何を!?」
「変な意味じゃない。気持ちを伝えて来いって言ってんだ」
パーティーの紹介から一転して突然の色恋沙汰に、アリスやレナータもニヤニヤと楽しそうに煽り始める。
しかしまだジェラルドに相応しくないからなどと、告白する勇気のないルチアはフルフルと首を横に振っていたのだが、フィオレからの一言で覚悟を決める事になる。
「ジェラルドはよく女の人に声をかけられてるよ。食事に行こうって誘われたり。モテ期は本当かも」
休暇中にはジェラルドも一人で出歩く事があり、その先で若い女性から声をかけられる事は多々あるのだ。
そんな現場をフィオレとレナータも何度か目撃しているが、ジェラルドがモテているのはイメージじゃないとこれまで誰にも言う事はなかった。
だが告白をするしないというのであれば話は別である。
「それは困る!私、ちょっと告白してくる!」
「みんなの前でよろしくね」
「ほあ!?それは無理!」
「ジェラルド〜。こっち来て!」と、隠れて告白されては困るとレナータがジェラルドを呼び付けた。
「どうした?あまり盛り上がってないようだが何かあったのか?」
「ある意味盛り上がってるから大丈夫。さっ、ルチア。根性見せて!むふふっ」
ジェラルドの前にルチアを立たせたレナータはとても嬉しそうだ。
人の恋愛を楽しむのもどうかと思うが、今この場にいる誰もが楽しみで仕方がない。
マリオとソーニャはついにこの時が来たかと立ち上がり、状況をよくわかっていないサガのメンバーも興味を示して視線を向ける。
最悪の状況で告白をする事になったルチアは顔を真っ赤にし、目を右へ左へと泳がせつつテーブルにあった酒を一気に煽って覚悟を決める。
「ジェラルド!あの……私、とロザリアとで、えっと、旅に出ようと思うの!仲間探しの、ね。その……強くなりたくて。ジェラルドの隣に立てるくらい!もし、私が強くなって、ブレイブにも負けないくらい、強く、なれたら……その……私と付き合って下さい……」
顔を赤くしたまま告白したルチアと、その瞳を見つめ返すジェラルド。
ジェラルドの表情は気の抜けたようなポカンとしたものであり、フラれるんだろうなと感じたルチアは顔を俯かせる。
「今、ルチアが俺に告白を?現実味がないんだが……」
「げ、現実です。告白しました……」
「頭にスッと入ってこなくてな。夢か?夢なら痛くはないはずだが。ルチア、頼めるか?」
「えっと……本当に?」
「ああ」と返したジェラルドに、告白直後に平手打ちする事になるとは思いもしなかったルチアは、動揺しつつも以前と同じくペインスキルで全力の平手打ちをする。
パァンッ!!と鳴り響く音と共に現実に引き戻されるジェラルド。
その表情は柔らかく、ルチアを見つめてから腕を引いて強く抱きしめた。
「結婚しよう。子供は少なくとも三人は欲しい」
「ほええ!?けけけ結婚!?気が早過ぎない!?ま、まずはお付き合いを……」
「そうだった、気が焦りすぎたようだ。ルチアが強くなれたらだったな。俺はいつまでだって待つさ。ルチアが強くなってまた会えた時、俺達は結婚しよう」
何故か話が急展開どころか、結婚まで話が飛んでしまったのはジェラルドがこれまでモテてこなかった反動か。
「あの、お付き合いを……」
「そうだな。俺もルチアの事がいつも気になって仕方がなかった。俺達、付き合おう」
ルチアの告白からジェラルドの頭を通した再変換で一つ話が先に進んだようだがまあいいだろう。
好意を抱く者同士が付き合う事に何も問題はないはずだ……と思いたい。
ルチアもジェラルドの背中へと手を回し、体の大きさから手が届かない事に、ジェラルドはまたさらに強く抱きしめる。
ジェラルドとルチアはこの日から付き合う事になるとはいえ、今後ルチアは旅に出るとすれば離れ離れになってしまうがいいのだろうか。
ルチアとしては旅に出る決心が鈍りそうだが、自分の実力次第では結婚まで行き着くのだと考えれば……
複雑な思いではあるが今は幸せを感じようとジェラルドの胸に顔を擦り付けるルチア。
嬉しそうな二人に全員が拍手して盛り上がり、お祝いの言葉を投げかけられた。
「それにしてもジェラルドの防御力はすごいわよね。ペインなんて私、指先に軽く受けただけでも叫び声あげたのに。あんなすごいガーディアンなんて他にいないわ」
「たぶん気持ち良かったんじゃない?痛みに対する抵抗力っていうか脳内変換?ジェラルドの場合は快感に変わるみたいだし」
レナータから事実を知らされてしまったアリスは口に当てたグラスから吹き出し、自分達が煽ったせいでルチアを間違った方向へ進めてしまったのではないかと、ガタガタと震え始めた。
「い、今なら考え直させる事もできるんじゃ……いや、だが幸せそうな表情を……」
「早まったんじゃないかしら……」
「私には理解できないけど大丈夫でしょ。痛みや虐げられる事に悦びを感じるだけでそれ以外は普通だから。ルチアのスキルとの相性は最高だし」
同じパーティーメンバーにいる変態の将来を心配した事もあったのだが、これ程最高の組み合わせは他にないだろうとレナータはこの二人が付き合う事に賛成だ。
イライラした時などはジェラルドを踏みつける事にレナータも悪くないとさえ思えてきており、ノーマルな自分でさえこう思えるのであれば、人は慣れれば変われるものだとしてジェラルドの変態ぶりを欠点としては見ていない。
ルチアもジェラルドに合わせて目覚めればいいとさえ思っているようだ。
「ねぇレナ。痛いと気持ちいいの?僕、そんなの知らないよ?」
「フィオレ君は知らなくていいの。本当に。ねぇ、ちょっ、そんなウルウルとした瞳で見つめないで!私はそっちじゃないから!」
フィオレは少し興味を持ったようだが、痛みを快感に変換できる人間はそうはいないだろう。
「試しに叩いてみて」と頼まれてもフィオレを叩く事も、自分が叩かれる事もレナータとしては絶対にしたくない。
人を踏む事に少し慣れつつある自分が叩く方に目覚める可能性があるからこそ全力で拒否するレナータだった。




