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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
133/257

133 上位竜討伐

 ラウンローヤから開拓村までの道中。

 共に旅に出る仲間が十二人となり、遭遇するモンスターにもかなり余裕をもって対処できるのだが、やはり実力的にまだまだ未熟なロザリアとルチアは二体一でさえも討伐する事はできずにいた。

 黄竜装備による身体能力上昇効果を得ているとしてもなお、まだまだ実力的に魔鏡では通用するものではないようだ。

 一戦交えるだけでもロザリアは息が絶え絶えになり、とてもじゃないが連戦はできそうにない。

 ルチアはアーチャーという事で体力的にはまだ問題なさそうだが、集中力が途切れてしまい矢が安定しない。


「な?わかるかマリオ。俺達が嫌われ役を買ってまで絡んでいく意味がよぉ」


「ロザリア達には悪いがおっさんに絡まれた方が良さそうだ」


 決して褒められた事ではないがチェザリオは自分達がしてきた事を誇り、マリオもそれに共感しつつロザリア達の様子を見る。

 レナータが二人の体力を回復しているものの、気持ち的に折れかけている為しばらく休ませた方がいいだろう。

 それもそのはず、魔鏡で出現するモンスターは最低でもCC級であり、少なくともA級以上のステータスはほしいところだ。

 そして魔鏡の奥へと進むという事はモンスターの遭遇率も高くなり、接敵する場合にも出現、遭遇ではなく強襲となる。

 つい先程もBB級モンスター四体の襲撃を受け、まずは三体を黒夜叉とサガ、マリオとジェラルドで対処し、残る一体をソーニャが妨害しつつロザリアとルチアに戦わせていたのだが、攻撃力不足の二人では倒す事が難しい。

 ロザリアの動きが鈍くなったところでソーニャが前に出て討伐した。

 元々はそれ程実力に差はなかったはずだが、潜り抜けてきた死線の数がここまでの差を生んだようだ。

 以前ディーノからソーニャが学んだように、今度はソーニャを見てロザリアは成長していく事が望ましい。

 同じくルチアもフィオレから学ぶ事は多いはずだ。

 たとえフィオレがクリティカルというアーチャーに最適な追加スキルを持っていようと、戦闘スタイルはほぼ同じ。

 衝撃を与えるインパクトと刺激を与えるペインではモンスターの挙動に違いがあるとはいえ、その動きに合わせた対応をできるかできないかの違いでしかない。

 仮にフィオレがペインスキル持ちであったとしても今とそう変わらない強さを持つだろう。


 体力の回復を終えてなおもグッタリとした二人にアドバイスするソーニャとフィオレ。

 次にロザリア達が参戦する場合にはある程度モンスターの体力を削ってから交代する事とした。




 ◇◇◇




 二日間の旅程を終えて開拓村へとやって来たオリオンとサガ。

 ロザリアとルチアは初日こそモンスターの強さに苦しんだものの、二日目ともなればBB級モンスター相手にも善戦し、少し時間はかかるものの二人掛かりで倒せるレベルまで上達している。

 また、ルチアに比べればロザリアの成長が著しく、エアレイドを攻撃に使用するようになってからは不足していた攻撃力を補い、敵の消耗が激しくなる事でロザリアの体力にも余裕ができた。

 器用さが必要となるアーチャーの場合は、スキルを回避から攻撃にと切り替えたりできるエアレイドとは違い、モンスターの弱い部分を狙う必要がある為成長がやや遅い。

 モンスターの性質を理解していない事や経験不足が祟り、自分よりも格上のモンスター相手に大苦戦。

 フィオレの的確な指示のもと矢を射るも、モンスターの動きを予測できていない事から狙いが逸れやすい。

 指示を受けて狙う場所はわかっても、射るタイミングがわかっても、情報の伝達に言葉では遅すぎる為仕方がない。

 そこをフィオレが先の先を予測する事で伝達の遅れ分を補正し、ルチアの技量次第で狙い通り命中するまでに至っている。

 今後はモンスターの種類や癖の見方、予備動作などを教えていく事で指示がなくとも狙えるようになるだろう。

 他にも射るタイミングや矢の速度調整、風向きに仲間の配置、状況の判断など教える事は膨大にあるのだが、知識だけ詰め込むよりは経験をもとに成長した方が自分の技術に落としやすいと、今はモンスターに興味を持つ事に集中すべきと判断。

 フィオレも自分の成長は仲間の仇であるクランプスを知る事が大きかったのだと感じているのだ。

 今後はアリスのモンスター図鑑を借りて勉強するのもいいかもしれない。


 そして今回の差し入れとして穀物や生の野菜を持ってきたブレイブのメンバー。

 前回来た際には朝食と討伐後の夕食をご馳走になったのだが、普段から野営食しか食べていないとの事だった為、気を利かせたマリオが穀物と野菜をチョイス。

 村長の奥さんは泣くほど嬉しかったらしく、「あんたウチの子にならないかい?」などと誘われる程気に入られるマリオだった。




 翌日。

 開拓村から三時程進んだ先にある山の中腹を巣としていた上位竜。

 周囲にあったはずの木々は焼け焦げており、火属性の竜種である事がわかる。

 小竜の親となる個体であり下位竜に比べても数段大きく、やや赤みを帯びた体表は赤竜になる兆候か。

 ブレイブが最初に戦った下位竜は色こそ変わっていなかったが炎を吐き出す火竜であり、二度目に戦った下位竜も同じように火竜。

 これらの事から今目の前にいる上位竜がその二体を産み出した個体の可能性が高く、二度の産卵したとすればその分成長しているはずだ。


「おいあれ色相竜じゃねーのか?お高めのいい肉みてーな色してるんだけど」


「確かに旨そうな肉色だね。じゅるり」


 このマリオとソーニャのアホな発言にジェラルドとレナータが吹き出した。


「あなた達ねぇ……あれはたぶん違うと思うわ。色相竜なんて黄竜しか見た事ないけど、もっと大きかったし黄金色って感じだったもの」


 アリスは呆れ顔でブレイブを見ているが、逃げ出したくなるほどの威圧感に恐怖を覚えていたサガのメンバーやロザリア、ルチアは、普段と変わらない自然体なマリオの姿に少し落ち着きを取り戻す。


「お前ら本気であれとやり合うつもりか?はっきり言って勝てる気がしねぇんだが」


「ま、見ててくれよ。俺は勝てる気しかしねーんだからよ」


 この旅にはサガやロザリア達を連れて来ているものの観戦が目的であり、もともと戦ってもらう必要はない。

 ここに来るまでに遭遇したモンスターを倒してくれただけでも体力を温存する事ができた為ありがたい。


「とりあえず拓けた場所まで釣りたいから前回の要領で僕とソーニャで行くね。今回は移動が終わるまで攻撃しないから安心して」


 小竜戦では予定になかったフィオレの攻撃によって群れが二手に別れてしまい、パーティーに迷惑をかけてしまった。

 上位竜は一体であり、ソーニャが引いてる横から攻撃しては計画が破綻する可能性もあるだろう。


「いや、もしソーニャが追いつかれそうならそん時は頼む」


「なんだよー。追いつかれたりしないよー」


「一応念の為にな。もしかしたらいきなりブレス吐き出すかもしれねーだろ」


「うにゃ〜……」


 長い距離を移動するわけではない為そう簡単に追いつかれるとは思わないが、相手は空を飛ぶ竜種である為、最悪は想定しておいて損はない。

 いざとなればエアレイドで逃げる事ができるとはいえ、ブレスを放たれては直線的な加速では回避するのが難しい。


 フィオレが先行してその後を少ししょんぼりとしたソーニャが追いかける。

 とはいえ今回の竜種は一体である事から、真正面の見える位置から向かえば気付かれた場合に最も距離が開いた状態から逃げる事ができるだろう。

 フィオレも一緒に向かうのは、確実に上位竜の背後に回り込む為だ。


 上位竜から約四百歩程までの周囲が焼け焦げている為、これが竜種のブレスの射程範囲となるのだろう。

 インパクトの射程よりも上回る為、ソーニャには射程外で待機してもらい、フィオレは隠蔽魔法を使って上位竜に接近して行く。


 ところがフィオレが矢を射るまでもなく起き上がった上位竜は、勘の鋭さからか口を開くと周囲に炎のブレスを吹き出した。

 すぐさま後方へと駆け出したフィオレだが、ブレスの勢いの方が早い。

 咄嗟に地面にインパクトの矢を射る事で大地を抉り取り、外套を被ってその中に潜り込む。

 熱までは防ぐ事はできないものの、炎波を浴びる事なくこの窮地を回避した。


 炎を吹き荒らした上位竜は咆哮をあげ、ブレスの届かなかったソーニャへと視線を向けると翼を広げ、跳躍して空へと舞い上がった。

 そして高い位置から滑空するようにして向かって来た上位竜に、ソーニャも全力で走り出す。

 仲間の位置からはそう遠くないが、やはり上位竜の飛行速度は尋常ではなく、身体能力を底上げしたソーニャの速力をもってしても追いつかれかねない。

 また、飛行して来た上位竜を相手にジェラルドが受け止めきれるとは限らない為、ソーニャはあえて追い付かせるという選択をとる。

 速度を落とし、地面を走るソーニャへと上位竜が襲いかかった瞬間、エアレイドによる加速で緊急回避をしつつ、空に飛び上がらないよう上位竜の攻撃が届く範囲で急停止。

 向き直った上位竜が右前足を振り上げて襲いかかって来たところでまた走り出し、届きそうで届かない距離を保ったまま逃げ続ける。


 大地を揺るがすような叩きつけを何度も躱し、ジェラルドの肩を掴んで飛び上がりながら後方へと駆け抜けた。

 振り下ろされた右前足はジェラルドの巨大な盾で受け止められ、その左後方にいるマリオ目掛けて左前足が振り下ろされようというその瞬間、ジェラルドが右前方へと踏み出し、体重の乗った右前足が左側へと刈られる形となり勢い余って顔から倒れ込んだ。

 これらも打ち合わせ通りであり、ジェラルドが接触する瞬間を狙って上位竜の左へと退避したマリオは、倒れ込んだ上位竜の脇腹を狙ってストリームスラッシュの五連撃。

 高い強度を持つ上位竜ではあるが、バランスを崩した事により左前足は投げ出されていた為かなり深い傷を脇腹に残した。

 反対側、上位竜の右方向へと退避したアリスは首筋目掛けて炎槍を突き刺した。

 最大出力の炎槍は同属性の上位竜相手にも高い威力を誇り、喉の奥まで届く大ダメージを与える事に成功し、この後はブレスを吐き出すのも困難となるだろう。

 アリスと同じく上位竜から右方向、パーティーからは左方向の離れた位置に待機していたレナータは、視線がアリスへと向かないよう矢を放ち、白目部分へと突き刺さった矢から呪闇を広げて視界を奪う。

 転倒させてからの一連の行動はほぼ同じタイミングで行われ、上位竜は一方的に攻撃を受けた形となる。


 そして地面を滑るようにして体を反転させたソーニャは元来た方向へと再び駆け出すと、地面に倒れた上位竜の鼻先を蹴って駆け上がり、翼の付け根までたどり着くと全体重を乗せてダガーを突き刺し、抉り取るように引き抜いて即退避。

 弱点を突かれた事で絶叫する上位竜だが、首から貫通して喉まで焼かれた叫び声は相応のダメージを物語っている。

 そのまま横倒しとなり大地を揺らす程に暴れ回ると、さすがに誰も近寄る事ができずに距離を取った。

 マリオ達が離れた事で立ち上がった上位竜は、この場を危険と判断したのか空高く跳躍し翼を羽ばたかせて飛行を開始。


 このままでは逃げられると思ったその直後。そこへ一撃加えたのが遅れて戻って来たフィオレだ。

 熱は浴びるも炎のダメージは受けていないフィオレは、隠蔽魔法で姿を隠しつつ狙いを定めたインパクトの一矢。

 高さこそあるものの、歩数分にして八十歩程の距離であればフィオレのクリティカルは急所を完璧に捉えられる。

 緊急回避のできない空なら尚更だ。

 マリオの斬り裂いた脇腹近くの小さな一点に突き刺さった矢はインパクトを最大威力で伝え、全身爆ぜるかの如き衝撃が上位竜の体内を貫いた。

 体を弛緩させた上位竜は地面に叩きつけられ、意識を飛ばす程の衝撃を受けたとしてもそこはある程度成長した肉色の竜。

 体を震えさせながらも起き上がり、動かない左前足にバランスを崩すも唸り声をあげてオリオンを威嚇する。


 ジェラルドが盾を構えて前へと進み、その右後方をマリオが、左後方をアリスが追い、二足で立ち上がった上位竜の右前足が真横に薙ぎ払われる。

 真横からの攻撃であればジェラルドは振り払われてしまう事になるが、爪刃を盾で受けると同時に振り上げて受け流し、左前足が振るわれる事はないと判断したマリオはジェラルドの肩を蹴って跳躍。

 低く下げられた頭に縦回転からの唐竹割りに振り下ろす。

 眉間を深く斬りつけるとさらに頭が引き下げられ、ジェラルドへのしかかろうとするも、引き戻そうとした盾で受けつつ右の拳を下顎へと打ち込んだ。

 力の限り振り抜かれた拳により上位竜の頭は右上方へと向けられ、右後足が崩れた事により横倒しとなる。

 そこに背後へと回り込もうとしていたソーニャが進路を変え、エアレイドを発動して左後ろ足の付け根を突き刺し、傷口を斬り広げてその場を退避。

 このままトドメを刺せればよし、まだ耐えられるようであれば消耗を早める事ができるはずだ。

 しかし倒れた上位竜が頭部を転がした先にいるのは、オリオンで最大の攻撃力を持つアリス=フレイリア。

 身体能力を上昇させた状態での跳躍はアリスの体を上位竜の頭上へと軽々と持ち上げ、きつく閉じられた瞼の上から刺し込まれた炎槍は眼球を貫き、脳髄を焼き焦がしてその命を奪い取る。

 倒れ込んだまま動かなくなった上位竜に物足りなさを感じつつ、無事勝利できた事に労いの言葉をかけ合った。

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