131 追加スキル
小竜の群れを討伐し終えたブレイブと黒夜叉は開拓村で一泊し、ラウンローヤへと二日掛かりで戻って来た。
行きとは違いジェラルドが覚醒した事で戦闘は安定し、それほど消耗せずに帰って来られたあたりはパーティーの成長として喜ぶべき事だろう。
御者席にはレナータが座り、荷台からはフィオレが弓矢で前方と後方を担当、モンスターが襲って来る事の多かった側にはジェラルドとマリオを配置し、反対側にソーニャとアリスを配置。
ジェラルドは馬車を守る必要がある為モンスターを受け流す事はできないが、その巨体を受け止めると力ずくでなぎ倒すという追加行動をとるようになった。
倒れたところをマリオのストリームスラッシュによりわずかな時間で討伐を済ませて先へ進む。
マリオが先に襲われた場合にも盾ではなく拳で殴りかかり、場合によっては腹部を打ち破って一撃で仕留める事もあったほどだ。
ソーニャとアリスも反対側に応援に回る必要がない為負担は大幅に軽減。
効率よく馬車を進める事ができた。
ラウンローヤのギルドで小竜討伐の報告を済ませると、フィオレに起きている現象について質問をしてみたアリス。
「こいつぁ驚きだな。若えのにもうその段階まできてんのか。あまり知られちゃいないがステータスの上昇からくる追加効果、っていうよりは追加スキルみてぇなもんだな。弱点を突けるってんでクリティカルなんて呼ばれてるもんだぜ」
「そっか。それで……」とフィオレはアウジリオの言葉に納得の様子だ。
追加スキル【クリティカル】により目が引き寄せられるポイントを弱点として突けば、ダメージが通りやすいのは当然である。
竜種の弱点は翼の付け根だけしか知られていないのだが、フィオレの目にかかれば前面側にも複数ある事がわかる。
ただしポイントが小さく、正確に狙わなければクリティカルとしてダメージが通る事はないだろう。
「弱点を突ける追加スキルってとんでもないわね……ステータスの上昇からくるっていう事は誰にでもあり得るって事?」
「たぶんあるんじゃねーか?俺はファイターだがあるのかどうかもわかってねーけどよ。あー、エンベルトの奴がなんか言ってたな……モンスターのスキルも似たようなもんとかなんとか……ステータス高えから発現してるんだったか?」
確かにモンスターのスキルは複数あるのではないかと思える場合が度々ある。
黄竜などはわかりやすく雷属性の魔法を使ううえに敵の位置を正確に察知する能力を持っていた。
「そう、だとすれば私達もステータスが上がっていけば追加スキルが発現する可能性があるって事ね」
「まあお前らはなかなかいい腕してるし今あるスキルを昇華させるのもいいかもな。場合によっちゃあステータスより重要になってくるぜ。お前ならわかるだろ?マリオ」
アリスは追加スキルの発現に期待を持っているようだが、アウジリオからすれば発現するかもわからない追加スキルに期待するよりは自身のスキルを成長させた方がいいと考える。
例えるなら今この場にいるマリオのストリームスラッシュがそうだろう。
一撃必殺としか考えていなかったスラッシュが、自身に限っては多撃必殺であると知ってからのマリオの成長は目を見張るものがあったはずだ。
「まあ昇華って言われればそうっスかね。今は連撃数増やすのに必死だし。あ、ジェラルドのもそうじゃね?耐久するスキルだとしか思ってなかったプロテクションが実は怪力スキルでもあった〜みてぇな」
「ああ。思ったより動ける事に自分でも驚いてる。ついでに言うとエンベルトさんのせい……おかげで魔法スキルにも耐性ができてるがな」
「ほぉ、プロテクションが怪力に魔法スキル耐性か。武器を持たねぇガーディアンもお前くらいのもんだが、変わった成長をしてんなぁ。だがまあ追加スキルに負けねぇ強みでもあるしステータスも自ずと付いてくる。そのまま鍛えてくといいぜぇ」
確かにアウジリオが言うように経験を積んでいけばステータスは上昇する為、ただ戦闘を繰り返すよりは今あるスキルを昇華させた方が効率がいい。
追加スキルが発現すればなお良しといったところだ。
だが追加スキルの発現にも目安がほしい。
フィオレが少し前からクリティカルを使用できるようになったとするならば、今のステータスを知れば目安となるはずだ。
「アウジリオさん。ステータス測定お願いできないかしら」
「いや、悪いがラウンローヤには測定器がねぇんだ。上位竜の討伐もそう急ぐもんでもねーし王都で測定してきたらどうだ?」
「そうなの……残念。でもそろそろ防具も完成してるだろうし戻ろうかな。ブレイブはどう思う?」
「俺らも測定してーし戻ろうか。ジェラルドなんかは今すぐにでも防具ほしいだろ」
上位竜の討伐を急ぐ必要がないとすれば一度王都に戻るのもいいだろう。
そして防具が完成していれば身体能力を強化をする事もでき、初の上位竜戦にも役に立つはずだ。
◇◇◇
そして二日掛けて戻って来た王都でのステータス測定の結果。
名前:フィオレ=ロマーノ
攻撃:1941 → 2022
防御:436 → 452
俊敏:1104 → 1281
器用:2679 → 2825
魔力:435 → 557
法力:191 → 196
評価値:73 → 79
(S級アーチャー)
名前:アリス=フレイリア
攻撃:2006 → 2081
防御:1351 → 1466
俊敏:802 → 954
器用:652 → 713
魔力:2514 → 2573
法力:176 → 181
評価値:61 → 63
(S級ウィザードランサー)
名前:マリオ=グレッチャー
攻撃:2160 → 2346
防御:735 → 752
俊敏:916 → 1123
器用:738 → 846
魔力:389 → 401
法力:123 → 121
評価値:50 → 55
(S級ファイター)
名前:ジェラルド=ウェイ
攻撃:1256 → 1432
防御:2349 → 2423
俊敏:465 → 485
器用:298 → 255
魔力:152 → 162
法力:79 → 82
評価値:52 → 58
(S級ガーディアン)
名前:ソーニャ=セルゲイ
攻撃:1537 → 1601
防御:462 → 473
俊敏:1983 → 2119
器用:702 → 755
魔力:183 → 200
法力:85 → 91
評価値:55 → 58
(S級シーフ)
名前:レナータ=ハインリヒ
攻撃:1542 → 1558
防御:468 → 470
俊敏:439 → 444
器用:986 → 1131
魔力:1003 → 1082
法力:2411 → 2510
評価値:51 → 63
(S級クレリックアーチャー)
それぞれ自分のステータスを見ながら喜ぶ者、落胆する者とでその差はあったものの、全員が成長している事は確認できた。
「皆さん、成長の速度が著しいですね。S級に昇格した後もこれ程の短期間でここまでステータスを伸ばす方を見た事がありません」
普段から冒険者達のステータスを測定するケイトも驚く程の成長ぶりだ。
「俺の評価値なんでこうもあがんねーの!?攻撃とかかなり伸びてんのに!」
「ファイターの方には申し訳ありませんが、現役最強のファイターであるザックさんのステータスが記録を更新し続けてるせいですね。まだ攻撃値の高くない方であれば影響はありませんが、S級となるとその限りではありません。ご了承ください」
評価値を前回から5もあげたというのに納得のいかないマリオだったが、ザック=ノアールの名前を出されては納得せざるを得ない。
ザックの攻撃値は5000を優に上回り、記録を更新し続けてるともなればさらに伸ばしている事だろう。
「私も全然評価伸びないんだけど!」
「アリスさんはランサーでもありますので仕方がありません。攻撃値2000程ではS級にはなれませんから。ウィザードだけで評価しますと……評価値70は超えるようです。ですがウィザードも現役最強のエンベルトさんが記録を更新し続けておりますので、こちらも見直しされていますね」
どうやらマリオ、アリス共に自分達のステータスとは関係のないところで評価値が下方修正されているようだ。
評価値を算出するシステム上仕方のない事なのだが、最強冒険者にはこれ以上ステータスを伸ばしてほしくないとさえ思えてくる。
「ちなみに、現役は引退していますがランサーの記録保持者はラフロイグのギルド長さんですよ」
そして意外と身近なところに記録保持者がいたアリスだが、ディーノにさえ怖いと言わせるヴァレリオであれば、ランサーとして最強と言われても納得できる。
「それにしても……驚くべきはフィオレさんですね。アーチャーの攻撃力はせいぜい1500を少し上回る程度が限界のはずですが、2000を超えるとなると矢の威力だけではないという事でしょうか」
「工夫と思考かな。モンスターを相手にどう牽制するかを考えて戦うのと、どうやって殺すか考えて戦うのだと矢の質も変わってくるからね。たぶん僕がクランプスを狩ろうとし続けていた事が影響してるんだと思うよ」
黒夜叉結成時のステータス測定でフィオレが最も伸びたと感じたのが攻撃値だ。
それ以前の測定値では1300台だったと記憶している。
「ま、目的だったフィオレのステータスは確認できたし、私達も最も高い値で2800以上を目指しましょう」
追加スキルの発現にステータスが関係しているとするならば、このフィオレの器用値を目安にすれば発現の有無を判断できる。
竜種討伐には高い報酬が約束されている為、今後は定期的にステータス測定をしようと決めた。




