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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
130/257

130 覚醒

 小竜を引き連れたソーニャは走りながら矢継ぎ早にフィオレの状況を伝え、ジェラルドの頭上を飛び越えて小竜の群れを引き渡す。

 そのまま着地したソーニャは地面を滑りながら方向を転換し、まずは自分が相手にする小竜を求めて再び駆け出した。


 小竜四体にも速度に差があり、その最後尾を走る一体に狙いを定めたレナータは呪闇を発動して矢を放つ。

 長弓ルナヌオーヴァから放たれた矢は真っ直ぐに小竜の目元に突き刺さり、呪闇が顔を覆うと突然視界が奪われた事で地面に倒れ込んだ。

 ソーニャが狙うはこの最後尾の一体であり、レナータが足止めしたところで戦う予定となっていた。


 そして他の三体が向かう先に立つプロテクションを発動したジェラルドは、最初の一体の体当たりを受けると同時に盾を振り上げ、勢いのままアリスのいる左後方へと小竜を弾き飛ばした。


 続く二体目がジェラルドの目の前に迫り、振り上げた盾を引き戻すには間に合わない。

 口を開いた小竜の顎下に潜り込み、右腕で首を掴んで背負い投げ。

 元々プロテクションは体を硬化するスキルではなく肉体を保護する能力ではあるのだが、モンスターの持つ体重にも耐えられる力があるとすれば実際には腕力や肉体性能も大幅に増幅されているということだ。

 自分の十数倍もあろうという小竜を持ち上げ、力の限り地面へと叩きつけた。

 最後の一体がジェラルドの背後に迫っているものの、仲間に信頼を置いたジェラルドはこの叩きつけた一体に固く握り締めた拳を振り下ろす。


 マリオはジェラルドの背負い投げの下を潜り抜け、最後の一体へと逆風に斬り上げてからのストリームスラッシュ五連撃。

 その質量から後方に押し退けられつつも振るい続けた斬撃は傷を深くし、耐久性が高いはずの上半身をズタズタに斬り裂いた。

 左前足は皮一枚となってぶら下がり、すでに満身創痍となった小竜は体を仰け反らせながら叫び声をあげる。

 スラッシュ後のわずかな膠着時間を終えたマリオは体を回転させて腹部を斬り裂き、通常の斬撃のみで小竜と戦い始めた。


 呪闇を払い除けようともがく小竜に駆け寄ったソーニャはエアレイドを発動し、弾丸の如き勢いでその腹部へとダガーを突き立て、体を捻って深々と刺さったダガーを振り抜く事で傷口を大きく斬り広げる。

 悲鳴をあげる小竜を見てレナータは呪闇を解除し、ヒールを発動して自分の体力を回復。

 内蔵を斬り裂かれた小竜であればソーニャの俊敏性能をもってすれば耐久戦でも問題なく勝てるだろう。

 口から血を吐き出しながら立ち上がった小竜と向かい合うソーニャは、獰猛な笑みを浮かべて駆け出した。


 弾き飛ばされた小竜を受け持つのはパーティーでも最大攻撃力を持つアリスだ。

 腹部を炎槍で貫くと、地面に倒れ込んだ小竜の弱点を突くように攻撃を始めた。

 一体の受け持ち、それも隙を見せたところからの戦闘であれば、小竜程度のモンスターはアリスの敵ではないようだ。


 そして初の耐久するだけではない戦闘を始めたジェラルドは、地面に体を沈めた小竜をその異常なまでの力を持って叩きのめす。

 一撃一撃が鉄槌のような攻撃力を持ち、抵抗を許さない勢いで小竜の骨を粉砕していく。

 プロテクションが途切れれば今程の力は得られないと、頭蓋骨を潰すつもりで拳を振い続けた。




 程なくしてアリスとマリオの戦いが終わり、ソーニャも急所を突いてトドメを刺すと、今も拳を振るい続けるジェラルドに視線を向ける。

 小竜はビクビクと痙攣し、すでに絶命しているようだが倒した事に気付かないジェラルドは今も拳を振り下ろし続けている。


「おい!ジェラルド!もういいぞ!グッチャグチャじゃねーか!」


「フン!フン!ヌゥゥゥッフンン!!……ん、んん?もう、いいのか?これは倒せているのか?まだ動いているようだが」


「死んでんのにお前がぶん殴るからビクビクしてんだろ。っつか今まで見た中で一番悲惨な死体だわ」


 見るも無惨に潰れた小竜の頭は地面に埋まっており、初めてモンスターを殺したジェラルドはどうやらいつから死んでいるのかわからなかったようだ。

 血に塗れた拳を見つめ、初めて自分が奪った命に胸が締め付けられるような思いになる。


「まぁいい気分じゃあねぇよな。けどこれが俺達冒険者の生業なんだ。慣れるしかねぇよ」


「ああ、わかってはいるんだがな……」


 これまでは盾職としてモンスターからの攻撃を請け負う代わりに、他の仲間達が敵の命を奪う事を肩代わりしていてくれただけなのだ。

 今更自分自身の手で命を奪おうとも、今まで自分達がしてきた事と何も変わらない。

 自ら手を下した事で罪の所在を自分の中に見つけてしまっただけだ。


「それよりフィオレだよ!助けに行かなきゃ!」


「そうだな、急ごうぜ!って……あれ?レナは?あ、いた。追い掛けるぞ!」


 どうやらレナータはマリオが小竜を倒し終えた時点で走り出していたようだ。

 随分と先まで走り進んでおり、今にも見失いそうな為急いで後を追う。




 小竜を見つけた場所まで辿り着くと、そこには倒れ伏す小竜を見下ろすフィオレの姿があった。

 周囲を見回すと他にも三体の死体が転がっており、フィオレはたった一人で小竜四体を討伐したという事だろう。

 移動に多少は時間がかかったとはいえ、これほどの短時間で四体も倒したとすればフィオレがアーチャーとは俄かには信じ難い。

 駆け寄ったレナータに抱きしめられ、笑顔をこぼすフィオレには傷の一つも見当たらない。


「フィオレ君、大丈夫!?どこも痛くない?怪我とかしてない?ごめんねぇ、一人にして……」


「んーん、僕は平気。それに謝るのは僕の方かな。せっかくの群れなのに四体も僕が取っちゃった。みんなごめんね」


 心配するレナータをよそに、フィオレは小竜八体のうち四体も自分が倒してしまった事に申し訳なさを覚えていた。

 実際はもっと早くに討伐を終えており、申し訳なさから戻るに戻れずにいたりする。

 ブレイブとしてはアリスから心配ないとは聞かされていたのだが、これ程までに圧倒的な実力を持つとは誰も思っていなかった。


「フィオレが問題なく勝てたなら別にいいんだけど……あなた、また強くなったんじゃない?」


 フィオレの実力はアリスもよく知るところではあるのだが、耐久力の高い竜種を相手に弓矢で挑んだとしても通常であれば倒せるものではない。

 インパクトが如何に高威力だとしても所詮は矢による一撃であり、絶命させる為には衝撃だけでは難しいはずなのだ。


「うん、そうかも。なんかね、ちょっと前から僕の目が少し変なんだ。前は矢でどこを狙うべきか考えて射ってたんだけど、少し前からは狙うポイントがわかるっていうか……目がそこに引き寄せられるんだよね」


「狙うポイントがわかるねぇ。何かしら。そこに攻撃するとどうなるの?」


「たぶんダメージが通りやすいんじゃないかな。インパクトなしでも当たるとすごく苦しんでるみたいだったし。だから今の戦いでも……」


 フィオレもよくわかっていないようだが目が引き寄せられた先に矢を射ると、小竜は叫び声をあげて転倒していた。

 ダメージとしては低いはずの顔や上半身でさえ絶叫して悶え苦しむほどに。

 その結果、三体に囲まれたとしても通常の矢を射る事で小竜を次々と足止めし、インパクトの待機時間を終えると一撃で仕留めていったのだ。


「なるほどね。ステータスによるものなのかスキルによるものなのかはわからないけど、フィオレの能力を引き上げる何かがあるのは間違いないわね。ラウンローヤに戻ったらアウジリオさんにでも聞いてみましょ」


 フィオレのこの変化にはアリスも興味があり、冒険者として高い能力を持つであろうアウジリオであれば何か知っているかもしれない為、是非とも聞いてみたい。


「まじかよ。今回ジェラルドが覚醒したと思ったらフィオレまで何かあるのかよ」


 自身の成長を期待しているマリオとしては、この二人の成長は嬉しくもあると同時に羨ましく感じてしまうようだ。


「んん?ジェラルドが覚醒?たしか受け流しの……なんだか血まみれだね」


「ああ、これは返り血でな。俺も今日初めてモンスターを殺したんだ」


「ナイフで?」


「いや、素手で」


「え……竜種って殴り殺せるものなの?」


「頭を潰したら殺せたな」


「すごいねっ!」


 そんなフィオレとジェラルドのやり取りに嬉しさ半分、妬ましさ半分と、素直に喜べない自分に落胆するマリオだった。

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