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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
122/257

122 聖銀も来た

 ザックと再開してから五日後の夕方。


「すっげぇなマルドゥクは。今朝出たばっかだってのにルーヴェべデルまでもう着いちまうとはよ」


「まぁな。それより兄貴は国王様の前では言葉遣い気を付けてくれよ?バランタイン王国じゃねーからな?」


「なあに任せておけって」


 と、ルーヴェべデル王国に戻って来たディーノ達だったが、いろいろあって聖銀も一緒について来た。

 帰り道の途中でスリーガル方面へと向かい、パピィを何匹か捕獲したうえでの日暮れ前には到着する事ができたのだ。

 脅威の速度と言ってもいいだろう。


 パピィ捕獲にはディーノだけでなく、ゲルマニュートと素早さのあるパウルにも手伝ってもらい、ディーノとパウルで三体ずつ、残る二体をゲルマニュートが戦って捕獲する事に成功。

 以前とは違うディーノの超加速からの戦闘は聖銀のメンバーも驚く程の実力となり、パウルも負けられないとばかりにエアレイドを多角的に発動させる事でディーノとそう変わらない時間で倒して見せた。

 さすがは魔法系スキルをなしに竜種とソロで戦える程の実力者であり、ステータスでは上回るもののディーノの技量ではまだ通常戦闘では勝てないと思える程の実力差を見せつけられた。

 ゲルマニュートはドラゴニュートとしての初の戦闘という事で体の動きに苦戦しつつ、ディーノの真似をした爆破加速からの打撃技でリカントロープを叩き伏せる。

 しかし爆破加速ですらも初見殺しとしかならずに、二体目ではその加速を利用したカウンターを受けつつ、ボロボロになりながらもなんとか勝利する。

 とはいえドラゴニュートの体の頑丈さからそう大きなダメージは負っておらず、下級回復薬を飲む事であっさりと癒えたのだが。

 しかしゲルマニュートもまだ巨大な竜種としての戦闘しか慣れておらず、人間よりも一回り大きいだけのドラゴニュートの体での戦闘には今後多くの経験が必要となるだろう。




 まだ日が沈む前という事もあり、また、ゲルマニュートが同行している事もあり、王宮での国王との謁見はすぐに叶う事となり、多くのパピィを連れたディーノ達一行はこれまで王宮に姿を見せる事のなかった王族に迎えられて歓迎を感じさせる笑顔を向けられる。


「バランタイン聖王国の聖戦士達よ、俺はルーヴェべデル王国八代国王【ミロスラーヴォビチ=ルーヴェべデル】だ。まさかバランタイン王国の最強パーティーが来るとは思わなかった故驚いている。が、友好国として互いの力を知る事も必要であろう、歓迎するぞ。そして我々の要求に対するバランタイン国王の配慮、寛大な心に感謝し、ルーヴェべデル国王として其方等に礼を尽くそう」


『国王様。バランタイン聖王国ヨリ、近日中ニグラーヴジー等モ多クノ食料ヲ持ッテ戻ル予定トナッテオリマス』


 ゲルマニュートが言うように、ディーノ達がバランタイン国王に謁見した三日後には出発したグラーヴジー等巨獣テイマーの一団は、およそ四日程の時間を掛けてルーヴェべデルまでたどり着く予定となっており、現在はジャダルラック領を通り過ぎて道なき道を突き進んでいるはずである。

 実のところグラーヴジー等が捕獲したモンスターはセンチュリーバフであり、以前マルドゥクが住んでいた地域に冒険者団と共に遠征して全員分のバフを捕獲して来たとの事。

 素早さはそれ程ないものの、力強い足腰により荷物の運搬に向いたモンスターと言えるだろう。

 草食系モンスターであり、肉食系モンスターをテイムする者の多いルーヴェべデルにおいては餌に困る必要もない。

 また、危険度としてはそれ程高くはないセンチュリーバフではあるのだが、討伐難易度はAA級となり他のモンスターでは体当たりで跳ね除けられ、踏みつけられる事で圧死するという危険性がある為、ほとんど襲われる事はない。


「そうなのか。ふむ。そこまで気を回してもらってはただでは帰せんな。帰るまでには土産物を用意させよう。ゲルマよ、頼めるか」


 これにゲルマニュートは了承し、何か土産物を用意してもらえる事になるようだ。

 数日間バランタイン王国に滞在したゲルマニュートであれば土産物として喜んでもらえそうな物も思い付くはずとの判断からだろう。


「してディーノよ。どうやらまたグロウパピィを連れて来てくれたようだが」


「はい。バランタイン国王様からグロウパピィの譲渡許可をもらったんで今回は八匹捕まえて来ました。ルーヴェべデル王国側の望む数を捕獲するというクエストも受けてますから、残り何匹欲しいか教えて欲しいです。あとは……これ」


 ディーノはマルドゥクから降ろしていた箱を開け、一振りの剣を取り出してその煌びやかな宝飾を見えるようにして差し出し、話を続ける。


「リカント化すると魔法が使えるって話したら国王様がこれ用意してくれたんです。バランタイン王国でもいろいろと事情が変わったから今までの属性武器が要らなくなったみたいなんですよ。いっぱいもらってきたんで良ければどうぞ」


 現在ではバランタイン王国の貴族が振るう武器も出力の高い噴出系の武器に切り替えられ始めており、放出系の属性武器の価値が大幅に下がってきている。

 そこで国王が貴族達からそれぞれの持っていた属性武器を安く買い取り、ルーヴェべデルへの土産物としていいだろうとディーノに持たせていたのだ。


「それは実にありがたい。ザハールの炎の剣には皆も興味が惹かれておってな。今後バランタイン国王と交渉して手に入れたいと思っていたところよ。俺も先日リカント化に成功してからは職務も手に着かんのだが、これでは益々訓練に精が出てしまうやまもしれんな。はっはっはっ」


 そのままグロウパピィとの融合から今に至るまでの話を始め、次第に話に熱がこもり出すと、通常状態でも上昇した身体能力を遥かに上回る変身は獣王国における奇跡の所業であるとし、今後王族はグロウパピィを国の神獣として祀ると宣言。

 竜の顔を彫り込んだ紋章も今後はリカントロープの顔に変更するとの事。

 これに左右に立つ黒竜と赤竜は地面を揺らす程にビクリとした反応を見せ、あまりの衝撃に口を開けて驚く姿はなかなかに面白いものだった。


「よって我らフュージョンを持つ王族はグロウパピィと融合し、モンスターと区別する為にも今後は我ら王族の変身後の姿をライカンと呼ぶ事とする」


 これに人間として立つ王族の全てが拍手で喜び、竜種と融合中であるエレオノーラも涙を流しながら拍手する。

 戸惑うのは黒竜と赤竜、そしてもう一体の上位竜と融合する王族のみであり、貴族の者達は喜ぶ者とそうでない者とで表情に違いは見られるが、国の戦力が高まると考えれば悪くはないのかと思考を巡らせながら拍手している。

 竜種と融合する三人は明日以降の国王と上位竜との戦いを見てどうするか考えればいいだろう。


 ディーノからすれば色相竜と融合する事にメリットはなく、今後世界規模の竜害が起こるとすれば同じ色相竜を相手に魔法スキルなしで挑む必要がある。

 上位竜とでさえ勝てるかは不明であり、色相竜相手でははっきり言って勝ち目はないだろうと考える。

 巨大な竜種と融合しながらも魔法スキルを使えれば対等な存在であると認識できるのだが、ディーノ達がバランタイン王国に戻る前の日に会ったエレオノーラで魔力を引き出そうと実験し、それが不可能であるという事は確認済み。

 おそらくは体積の大きい竜種と体積の小さな人間であった場合、巨大な肉体の支配がフュージョンスキルでは限界であり、体積の近いもの同士であれば支配する範囲が狭い為、または魔力を引き出す位置が人間としての位置に近い為に魔法スキルとして発動する事ができるのだろう。

 また、ウルのパラサイトの場合は肉体の支配ではなく脳の支配に近いものらしく、普段は肉体の操作が限界ではあるもののディーノのギフトでパラサイトを強化する事で魔法スキルの発動も可能となるようだ。


 今ここにいる王族と思われる者達は十三人であり、グロウパピィの数は残り十体。

 エレオノーラには悪いがこの日はこの十三人でくじ引きをする事でそれぞれパピィを選んで融合してもらい、魔力を引き出すのは明日以降にしようという事になった。

 これは国王とザハールからの提案であり、魔力の操作はパピィとの融合が少し馴染んでからの方が簡単だとの事。

 他の巨獣と融合した王族も四人いたのだが、エレオノーラのフュージョン解除日に合わせてスキルを解除する予定とする。

 その後すぐにパピィと融合したいのかもしれないが、長くモンスターと融合していたとすればスキルの発動限界をむかえている可能性が高く、解除後数日休んでからパピィと融合するべきとして話はまとまった。

 その休みの期間中にパピィ捕獲に向かえばいいだろう。




 国王との謁見を終えたディーノとウル、聖銀のメンバーにザハールを加えた七人で夜の街に出て食事を楽しむ。

 残念ながらゲルマニュートはバランタイン王国の報告がある為参加できなかったが。

 食料事情が厳しいとはいえ、国からの接待を指示されている店では多くの食料と酒を振る舞い、客人を喜ばせようとルーヴェべデルの音楽や踊りなども披露してもらいながら酒の席を楽しんだ。

 ウルが言うように精鋭な顔立ちをした者達が多い獣王国ではあるが、やはりそこは好みの問題でありそれ程キツい顔立ちの者がいるわけではない為違和感はない。

 料理はやや豪快な作りをした物が多いものの、冒険者であるディーノ達にとってはそう抵抗のあるものではなく、香草の効いた肉料理がなかなかに美味い。

 酒は基本的に果実酒ばかりではあるが、酸味の強いものが多くそう美味しいものではなかったが。

 試しに他国の酒の味を店の者にも知ってもらおうと、ディーノが持って来ている酒を何本か店に提供すると、強い風味と深みのある味わい、強めのアルコールに目を輝かせて他国の酒を楽しんでいた。

 今後交易が始まれば他国の酒や食材も運び込まれ、ルーヴェべデルの料理も変化していく事にもなるだろう。

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