120 バランタイン王国へ
国王がリカント化できるまで数日間の暇ができたディーノだったが、グレゴリオから一度バランタイン国王に話をしに行きたいとの事で、急遽バランタイン王国に戻る事となった。
ルーヴェべデル王国側からもバランタイン国王に挨拶がしたいとの事で、外交官であるスチェパンを筆頭とした使者団が組まれ、両国の使者団三人ずつと名ばかりの護衛役としてゲルマニュートが同行する。
グロウパピィ捕獲作戦以降はディーノに絶対の信頼を置く事となったザハールも一緒に行きたいと申し出たものの、国王の魔力操作訓練およびリカント化のサポート役にと同行する事は許されなかった。
朝には出発した一行はウルの証言が真実である事を確認せよとの国王の命令から、ジャダルラック領危険領域内でティアマトの死骸を見に向かい、周辺の警戒ついでにマルドゥクには適当な巨獣で食事を済ませてもらう。
すでにティアマトの体も食い荒らされた後であり、腐れ落ちた臓腑で周囲には悪臭が漂うものの、素材として使えるであろう牙を全て回収してから王都へと向かう事とする。
ティアマトはディーノが倒したモンスターという事で素材を回収したとしても誰も文句はないだろう。
爪も武器素材として使えるとは思えるが、また必要となれば取りに来ればいいだろうとこの日は牙だけ回収して出発する。
その後順調に走り進んだマルドゥクはバランタイン王都に昼八の時には到着し、多くの人々に見守られながら王城へと向かって歩き進み、急な来訪であったにも関わらずあっさりと国王との謁見を許された。
「まずはグレゴリオよ。使者としての務めご苦労であった。良い結果である事を期待しよう。そしてルーヴェべデル王国からの使者団には国王として歓迎の意を示そう。我こそは……」
相変わらず長い名前を披露してから自由に発言する事を許し、グレゴリオのルーヴェべデルでの会合の結果と、スチェパンからはルーヴェべデル王国からの要望とバランタイン王国側の望む協力関係についてここ数日話し合った内容を国王に説明した。
「ふむ。食料事情については急務であろう、すぐにでも手配させる故、貴国の【グラーヴジー】らにある程度持たせて帰そうか。あの者も頭は堅いが貴国の良き忠臣であると私も感じている。罰せられるような事がなければ良いのだがな」
グラーヴジーとはディーノが捕らえたルーヴェべデルの貴族の男の事であり、現在は王都の冒険者と共に捕獲したモンスターを操り、いつでもルーヴェべデルに向かう事ができる状態にある。
「バランタイン国王様のご配慮、ルーヴェべデル国王に代わり心より感謝を。また、貴国のディーノ殿の交渉によりグラーヴジーもウル=シュミット同様罪に問われる事はありません」
ルーヴェべデル王国としても捕獲する事が難しいどころか不可能とさえ考えられていたドラゴニュートである為、捕獲に成功したとなればティアマトを失った以上に利があるとさえ考えられている。
「さらにはディーノ殿の提案により我が国の在り方も変わろうとしており、彼らを罪に問うどころか現在のバランタイン聖王国との関係を良好なものに築けるよう導いたとして、それ相応の地位を与えようとさえ考えていると申しておりました」
「む?ディーノの提案とな?」
国王が問えばスチェパンは六神獣のフュージョンについてモンスターと融合する能力であると明かし、本来であれば国の管理する竜種と融合して理性のある竜種となるのが本来の六神獣の在り方だったと説明。
しかし竜種を二体失った事で新たな個体を探していたところ、今回のバランタイン王国の使者団として来たディーノによりルーヴェべデル王国でも捕獲不可能とされていたドラゴニュートを捕獲に成功し、六神獣ゲルマニュートとなったゲルマノヴナが言葉を発する事をヒントに、小型のモンスターと融合する事で理性のある獣ではなく獣の力をもつ人間となる事ができるのではないかと提案。
実際に六神獣の一人がそれを証明し、その能力の高さから今後は六神獣全てが竜種である必要はないとして国の方針を変えようという動きがあると語る。
実のところフュージョンスキルは王家の血筋にある者に発現するらしく、六神獣以外にもまだ十数人がスキルを保持しており、巨獣系モンスターと融合する者も数人いるものの、他の者達はやはり獣となるのを嫌がり、王族の血筋とはいえ国の上層部としても弱い立場にあるのだとか。
そして国王は国に二体いる色相竜の融合者が寿命をむかえた際に、入れ替わる形で六神獣となるのが使命という事でこれまで他のモンスターと融合する事はなかったのだという。
この事から、二代の国王が現在も黒竜と赤竜として存在しており、六神獣全てが王家の血縁者である事が判明した。
「なるほど。ルーヴェべデル国王の血筋はそのようなスキルを持つとは思わなんだ。優れたスキルである反面、人としての在り方を失う辛いものでもあると」
「そこで我が国からお願いがございます。バランタイン聖王国では巨獣をテイムする者をお求めであるとの事ですが、国力が低下してはお聞きしている世界規模の竜害に備える事ができません。よってこの度ディーノ殿が捕獲して来たグロウパピィを我が国に譲っては頂けないかと」
王家の血筋にあるというフュージョン持ちにグロウパピィを与えるつもりなのだろう、十数人もの人獣が国の力となるのであれば、巨獣のテイマーをある程度派遣しても問題ないと判断しているようだ。
これに「グロウパピィ?」と国王が把握していないモンスターだった事から側に控えたパピィを知る者から説明を受ける。
特殊なモンスターとはされていないのだが、バランタイン王国内でも珍しい個体ではあるのだ。
「ふむ。捕獲できれば譲っても構わんが、SS級でも討伐すら難しいとなると……ディーノが捕獲に向かうのが早いかもしれんな。要望数を捕獲するクエストを発注しようか」
「クエストなら喜んで」とディーノはただ働きより余程いいとあっさりとこれを了承。
ルーヴェべデルに戻る際にドラゴニュートにも手伝わせようなどと勝手に思っていたりもするのだが。
それからしばらくはグレゴリオが話し合ってきた内容と、両国の主張や要望をすり合わせながら話をすすめ、今後は貴族団も合わせて話し合おうとこの日の謁見を終える事となった。
スチェパン達ルーヴェべデル使者団はグレゴリオ使者団と共にしばらくバランタイン王国に滞在する事となり、ゲルマニュートは旅の護衛に来ただけだとしてディーノと行動を共にするとの事。
いつものように南区へと宿を借り、宿の店主がマルドゥクを空き地に休ませていい、むしろ預けてくれと懇願してきたので、マルドゥクが嫌がるようなことだけはしないよう注意して三人で街を歩いていく。
まずはギルドに顔を出そうとしたところでゲルマニュートが王族である事に気付いたディーノ。
「バランタイン王国の庶民の生活も見ておきたい」
ゲルマニュートがそう望むのであれば構わないだろうとは思ったが、風呂では翼や尻尾を洗う必要もある事から、宿の風呂ではなく大衆浴場に連れて行く事にした。
当然誰も竜種が大衆浴場に入ってくるとは思わない為、軽く騒ぎにはなったのだが。
風呂の後は街で買い食いをしながらディーノは気になる事が一つあった為、防具屋へと立ち寄って装備を選び始める。
「ゲルマニュートさんは竜種生活に慣れてるから気にしないかもしれませんけどね。やっぱ人間のように生活するなら服とか装備は着た方がいいと思うんですよね〜」
と、ゲルマニュートの装備選びをしているようだ。
現在は背中に装飾された大剣を背負っているものの、衣類は何も身につけていない為完全な竜種にしか見えないのだ。
周囲からも警戒の目が向けられている為少し居心地が悪い。
これがルーヴェべデルであれば六神獣様であるとすぐにわかるのかもしれないが、ここは人間の住むバランタイン王国である為警戒色が強い。
装備を着たところで奇異の目で見られる事にはなるかもしれないが、全裸の竜種よりは幾分かマシだろう。
ゲルマニュートは竜種の姿をしているとはいえ貴族、それも王族の血筋を引く者とするなら安物を着せるわけにもいかず、良質なものを選んで購入する。
その辺の防具よりもドラゴニュートの鱗は防御力が高い為、耐火耐刃素材で黒地に金の装飾が入ったワイドパンツを選んで尻尾の部分を加工してもらえるよう採寸して注文。
他には魔核を大量に溶かし込んだ金属製のブーツを選び、分解して皮ベルトで固定できるよう改造するようこちらも注文しておく。
また、少し長めの首元が気になりモフモフの黒い毛皮も選んで巻き付ける。
注文したものはこの日装備する事はできないが、今日着る分として普通の布素材のワイドパンツを購入して尻尾の部分を簡単に加工してもらった。
その後は装飾品があった方がカッコ良さそうと、宝飾品店に入って両手首に宝石の散り填められた金の円環と、女性物かもしれないがゲルマニュートに似合いそうと金のティアラを購入。
ついでに金のブローチを購入して首元の毛皮を固定する事とした。
こうしてディーノ的になかなかにカッコいいドラゴニュートのおっさんが完成し、ゲルマニュートも満足そうに街を練り歩く。




