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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
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118 グロウパピィ

 生息地とされる岩場へと到着すると、小型犬のものと思われる甲高い遠吠えが聞こえ、マルドゥクの周囲を取り囲むようにして四体のグロウパピィが姿を現した。


「あー、あれは可愛いな。飼いたいくらいだ」


「今現在マルドゥクを飼っているようなものでは?」


「飼ってるのはウル……オレがウルの飼い主?」


 などと会話をしているとマルドゥクがブルブルと小さく頭を振るった。

 どうやらウルはディーノに飼われているつもりはないらしい。

 群れのボスと思われる少し大きめのパピィが一吠えすると、全ての個体から黒い霧が立ち昇り、霧が集束して形成していくとリカントロープとしての姿へと変貌を遂げる。

 体長は人間より二回り程、ドラゴニュートよりも大きい。


「ウルはザハールさんを守りながらリカントロープを牽制しててくれ。オレは何体か捕まえてみる」


 これに唸り声で返したウルはいつでも動けるように身構え、ディーノは刃を立てては殺してしまうだろうとユニオンに鞘を固定してリカントに挑む。

 マルドゥクの装具から飛び上がったディーノはボス個体に目掛けてユニオンを振り下ろし、それをリカントは威力を殺そうとしたのかディーノの体に飛び掛かる。

 ディーノは咄嗟に打ち付ける威力を抑えて前方に転がるように力を加え、ボスの背後へと着地。

 ボスの掴みかかりに合わせたかのように他の二体(A・B)も飛び掛かっており、ディーノが回避行動に出なければ今頃三体に噛みつかれていた事だろう。

 そして最も離れた位置にいた個体(C)はわずかに遅れて着地したディーノへと飛び掛かり、ボスの陰に隠れる形でそれを回避。

 そのままユニオンを振り抜いてボスの腹を打ち据える。

 前傾に倒れ込むボスと組み合っていた二体も地面へと着地し、リカントAがディーノ目掛けて飛び掛かり、それをボスの背中を蹴って回避したディーノ。

 それに追従したリカントBは風の防壁を拡大する事で跳ね除け、隙だらけのところに小規模な爆破を食らわせる。

 しかし爆破を受けたにもかかわらず体勢を立て直したリカントは身を翻して着地。

 勢い余って駆け抜けたリカントCが向き直り、駆け出した後を追ってリカントBもディーノに向かう。

 ここでディーノがリカントAに向かったところでボスが再び襲い掛かり、加速する事で着地点から回避すると同時に体を横回転させて爆風を巻き起こす。

 ボスは風に煽られて横倒しになり、そこに向かって来たリカントBとCは巻き込まれて転倒。

 リカントAは身構えていたものの、吹き上げられた事により腹部を晒して隙だらけに。

 ディーノは爆破を利用して加速し、リカントAの腹部を左逆袈裟に打ち付け、マルドゥクの方へと弾き飛ばす。

 マルドゥクは右前足を挙げて飛んで来たリカントAを地面に向かって叩きつけ、起きあがろうとしたところをもう一度叩くと動かなくなった。

 ディーノは襲い来るボスやリカント二体を躱しながらその光景を見つめ、ユニオンで痛めつけるよりも簡単だろうと隙のできたリカントBをマルドゥクに向かって弾き飛ばし、叩き伏せられたところにリカントCも弾き飛ばす。

 やはり巨獣の質量からくる一撃は凄まじく、ディーノの全力の打撃よりも威力は高いのではないだろうか。


 残るボス個体と思われるリカントは他の個体に比べて素早さがやや劣り、どちらかといえば力の強い個体と思われる。

 群れの中では最も強いのかもしれないが、素早さに特化したディーノからすれば一方的に嬲れる的である。

 ボス個体であれば戦闘中に感じた違和感を確認するのに丁度良さそうだ。


 ディーノは向かってくるリカントの動きを観察しながら、自身の防壁の境目に触れる瞬間を見極め、状況を把握しながら思考を巡らせる。

 普段は敵を極端に接近させないよう柔らかい防壁を張り巡らせているのだが、今回はリカントのスキル性質を把握しようと足場として使用する硬質な防壁で耐えてみる。

 硬質な防壁の場合は空気を圧縮している為全身に張り巡らせる事はできないのだが、正面から向かってくる敵に対しては小さな面の防壁でも充分に耐えられるだろう。

 ところが予想とは裏腹にリカントの振り下ろした右爪が防壁を切り裂き、ディーノは咄嗟にユニオンでガードして後方へ退避。

 追従して来たリカントに今度は柔らかい防壁を張り巡らせて弾き飛ばすと、思った程の効果は得られず仰反るのみ。

 そこへ少し強めの爆破を浴びせるも、後方へと飛ばされながらもすぐに起き上がって向かって来る事から、どうやら風の事象の威力が半減しているように思える。


 図鑑に記載されていたグロウパピィのスキルは魔法無効とあったのだが、実際は軽減するスキルなのか……

 しかしグロウパピィの巨大化はモンスターの持つ特性というにはあまりにも大きな変化であり、変身する過程を見る限りではリカント化するスキルのようにも思える。

 これらを合わせて考えた場合、魔法を軽減できるとすれば同属性の魔法であり、魔法の元となるのは魔力そのもの。

 変身する際には黒い霧を発生させる事から、魔力を実体化させるスキルではないかと予想する。

 そしてディーノのユニオンによる攻撃では魔力を霧散できない事から、魔法には当てはまらないスキルのようだ。

 あくまでも魔力の実体化であり、魔力を操作する事で自身の体をリカントロープとして再現する能力と考える。


 ディーノは爆破による攻撃を諦め、直接打撃を与える事でリカントを打ちのめす。

 やはり爆破よりも打撃の方が効果がある事から、ディーノの推察もある程度正しいだろう。

 横たわったボス個体は意識を残したままグロウパピィの姿へと戻り、ディーノからの敗北を認めたのか抵抗する様子はなく屈服の姿勢を見せていた。




 グロウパピィに回復薬を掛けてやり、ディーノから受けたダメージが癒えると呼吸が整うも、起き上がる様子はない。

 服従したのだろうとディーノはグロウパピィの頭を撫でてやり、マルドゥクが叩き付けた個体も回復しようと歩き出すと、その後に続いてボス個体もついて来る。

 ペットのようでなかなかに可愛い奴である。

 他の三体はマルドゥクの叩き付けがあまりにも強すぎた為か意識を失っており、上級回復薬を使って癒やしてやった。


 四体全てが服従したようで尻尾を丸めてディーノの様子を見守り、ザハールもマルドゥクから降りてグロウパピィに近寄ってみる。

 少し警戒の色を見せつつもディーノの前という事で暴れる様子はない為大丈夫だろう。


「ザハールさんは本当にこいつらで良いんですか?オレが提案しておいてなんですけど」


「んん、パピィは巨獣とはまた違った強さがあるね。ディーノ殿の魔法のダメージにも平気そうだしモンスターとしては悪くないと思う。ただあの強さが全てスキルとなればまた話は変わってくるよね……」


「身体能力はこのままでもそこそこ高いとは思うんですけどね。それともしかしたらスキルも何とかなるような?」


「スキルを?どういう事だい?」


 と、質問を受けたのでディーノは先程の考察を話し、ライカン化するのが魔力によるものだとするならば、単純に魔力を引き出してやればいいだけではないかと説明する。

 通常は測定することもないのだが、モンスターにもステータスは存在する為、ルーヴェべデルの者にも同じようにステータスは測定できるだろう。

 モンスターと融合したとすれば魔力値もそこそこ高くなるのではないだろうか。

 パピィと融合したザハールは魔核を宿す事にもなり、スキルも再現する事ができるかもしれない。


「通常スキルだと魔力操作によるものじゃないので使用はできないかもしれませんけど、魔法系とかの魔力使用するものなら発動できると思いますよ。オレが魔力引き出すんで魔力操作の訓練はしてもらう必要ありますけどね」


「これは迷っている場合ではないね。我が国としても是非とも試してみたい案件だ……うん、よし、この個体にしよう」


 ザハールは覚悟を決めて自分が気に入ったパピィに手を伸ばし、フュージョンスキルを発動する。

 ドラゴニュートとの融合の時とは違い、ザハールの体に流れ込むようにして融合したパピィ。

 小型犬程度の大きさのモンスターが融合した後のザハールの姿は……

 毛髪が今までよりも倍程も厚くなった以外に見た目としてはそれ程変化はなかった。

 自身の体を確認するザハールだが、いくつかの変化があったようでそれを全て説明。

 手のひらや足の裏が肉級のように隆起し、爪も黒く尖った硬質なものへと変化。

 口の中にも犬歯が少し増えた事と音や匂いに鋭くなったとの事で、外見的な変化はやはり少なかったようだ。

 試しに少し走ってもらったところ、筋力の質も変化したのかかなりの速度で駆け回る事ができるようだ。

 ディーノから見ても俊敏値1500以上はありそうだ。

 近くにあった木を爪で何度も引っ掻き、複数の深い爪痕を残した後に蹴り倒してディーノに向き直る。


「人間のまま超人になったような気分だよ……モンスターを相手にするにはどうかわからないけどそこそこには戦えそうな気がするね」


 今のザハールであれば獣と人との融合した獣人というよりも、人間が獣の能力を手に入れた人獣と呼ぶべきかもしれない。


「武器持って戦えばバランタインでもA級くらいにはなれそうですね。もし魔力値も高いようなら属性剣も使えるでしょうし、まずは魔力引き出しますか」


 ディーノはザハールの腹部にユニオンを当てて魔力を引き出し、その引き出した魔力を少し移動してみる。


「今魔力を引き出してるんですけどわかります?」


「何か、うん。腹部からムズムズとするものが引き出されてる感じはするね」


 という事で一の時程掛けて魔力の感覚を掴んでもらい、自分で少し引き出せるようになったところで後は自主練としてもらう。

 他の三体もマルドゥクの装具に乗せて足を括り付け、ジャダルラック領を目指して移動を開始した。




 ジャダルラック領に到着すると街の多くの人々に歓迎され、ドルドレイク伯爵夫妻に招かれて伯爵邸へと向かう。

 王都からジャダルラック領に戻って来たセヴェリンは、いつでもディーノ達を迎え入れられるようにと巨獣を従えたディーノがこの街に来る事を街の者達に伝えており、マルドゥクの姿を知らなかったとしても知性のある巨獣の動きは街の者でもすぐにわかる。

 以前通りすがった際にも騒ぎになる事なく受け入れられ、エンリコに挨拶だけしてルーヴェべデルに向かう事にもなったのだ。

 マルドゥクを邸の庭に伏せさせて、グロウパピィはテイムしたわけではない為すぐ側の杭に繋いでおく。

 リカント化してしまえばあっさりと逃げられてしまうものの、ウルが寄生していなくともマルドゥクはある程度自分の意思で動く事もできる為、パピィが暴れようとした場合には叩き伏せるよう意思を伝えておく。

 この事からウルのパラサイトは寄生するスキルであると同時にテイムするスキルでもあるようだ。


「こちらはジャダルラック領の伯爵であるセヴェリン様。そしてこちらはルーヴェべデルの六神獣の一人であるザハールさん。今回ルーヴェべデル王国との会談で友好国になるって事で話は進んでます」


 ディーノがそう話せばセヴェリンとザハールは貴族の堅苦しい挨拶を交わして笑顔を向け合う。

 ウルもこれに満足したのかディーノに拳を向け、互いに望んだ形で友好国となれた事に嬉しそうに拳を打ち付ける。


「ディーノよ。ザハール殿の歓迎をせねばならん。部屋を用意する故しばらく泊まっていくといい」


「あ、じゃあ二日でお願いします。グレゴリオさん達も心配すると思うので」


 ディーノは久しぶりに会ったセヴェリンに安心したのか、以前よりも砕けた話し方をしている事に本人は気付いていない。

 セヴェリンとしては少し嬉しくもあり、同時に義息子となった際には注意してやらねばと微笑ましく思っていたりもする。


 ザハール歓迎の宴にはソフィアの側近となったヴィタも招かれており、ディーノはその誘惑にグラグラと揺らされながらもアリスとの約束を守ろうと必死で耐える事にもなったのだが。

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