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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
116/257

116 六神獣ゲルマニュート

 再び王宮に呼び出されたのが二日後の朝。

 ルーヴェべデル側の話がまとまり、六神獣とするモンスターが決定したようだ。


「バランタイン聖王国の使者、グレゴリオよ。ルーヴェべデル王国国王として貴国に敵対する意思はなく、友好国として協力関係を築く事をここに宣言する」


 ルーヴェべデル国王の宣言により、これで戦争の回避はできたと胸を撫で下ろす思いのグレゴリオ。

 ルーヴェべデル王国としても戦争で大国を侵略しようとするよりも、困窮している民の為にも支援を受けられるならその方がいいと判断したのだろう。


「ありがとうございます。我が国でも貴国の力をお貸しいただきたく思いますので、良い関係を築いていけるようよろしくお願いいたします」


 バランタイン聖王国としては広大な土地に、点在する領地との移動に多くの時間を有してしまう。

 もし今後竜害が起こるとすれば戦力が偏ってしまう事も考えられ、移動時間を短縮する事で防衛に苦戦する土地への応援を急がせたい。

 馬よりも速く体力のあるモンスターを移動に使えればこの問題も解決するのだ。

 ルーヴェべデル王国のモンスター使役能力はバランタイン聖王国側としては是非ともほしい。

 また、土地が広大である事から野生の獣も多く、食糧難にあるとしても害獣として処理するだけでもある為、必要であればいくらでも差し出して構わない。

 国王からルーヴェべデルの食糧難についての話を聞き、やはりモンスターの餌が足りずに人間の食事分の肉も回しているとの事で、両国を繋ぐ街道を整備して運搬する事となった。

 バランタイン王国側ではジャダルラック領が最もルーヴェべデルに近く、両国の窓口として交易の中心地になっていくものと予想する。


 国王とグレゴリオの話し合いがある程度まとまり、昨日他領から戻って来たスチェパンを含めた国の貴族団と会合しようという事でこの場を収めた。




 次にディーノとウルによるモンスター捕獲作戦について話が始まる。


「六神獣のうち二人が竜種を失っているが、公爵である【ゲルマノヴナ】の為に一体捕獲してもらう事とする。目的とするモンスターは隣国【グラニエ】にいるとされる【ドラゴニュート】だ。グラニエには既に話を通してある故捕獲に向かってくれ」


 グラニエとはグレゴリオの知識が正しければルーヴェべデルの植民地となっている国のはずだ。

 小国でありルーヴェべデルからの多くのモンスターが攻め入った事で、争いが大きくなる前には降伏。

 食肉用のモンスターや獣を提供するよう強要されているのだとか。


 ドラゴニュートは小型の竜種であり、上位竜や色相竜程の危険性はないものの、機動力の高さから討伐の難しさは竜種の中でもトップクラスとなるだろう。

 ウルの話からすればディーノは素早さに特化した冒険者という事は明白であり、もしドラゴニュートの捕獲に成功すればルーヴェべデルとしてはこれ以上にない収穫となる。


「ドラゴニュートですね。わかりました。ゲルマノヴナ様、一緒に行きましょう」


 ディーノが声を掛ければ階段の左側に立っていた四十代と思われる男が前に出る。


「六神獣が一人、ゲルマノヴナ=ルーヴェである。ウル、貴様には言いたい事もあるが国王陛下の決定だ。せいぜいこの作戦を成功させて失態を挽回する事だな」


「はい、ゲルマ様。必ずや成功させてみせます」


 そう応えたウルだが、おそらくはディーノが一人で戦うんだろうなと視線を向ける。

 するとやはり嬉しそうにニヤリとしたディーノにウルも苦笑い。

 小型の竜種であるドラゴニュートの捕獲となればマルドゥクで挑んだ方が殺してしまう可能性は高い為、ディーノが一人で挑んだ方が捕獲に成功する確率は高い。


「それとウルの話が真実か見極める為にも証人として何人か連れて行く。ドラゴニュートと融合して言葉を発せなくなっては報告できんからな」


「じゃあモンスターは置いてってもらってもいいですか?ついて来れないと思うので」


「……うむ、よかろう」


 多くのモンスターを引き連れた状態でドラゴニュートに接近しては逃げられてしまう可能性もある為、一気に距離を詰めるとすればマルドゥク一体の方がいい。

 これに同行するのがもう一人の六神獣と文官をしている貴族が二人。


「私は六神獣【ザハール】だ。あのティアマトを倒したという貴殿の戦い、見せてもらうぞ」


 ゲルマノヴナからは強い警戒心を感じたものの、ザハールからは友好的な印象を受けたディーノは少し気持ちが軽くなる。

 ドラゴニュート捕獲に際して気負いは一切ないものの、やはり警戒や敵視を向けられればディーノとしても居心地は悪いものだ。


 ゲルマノヴナに続いて国王に一礼して出発する。


 グレゴリオ達はこれからバランタイン王国とルーヴェべデル王国の協力関係について話し合いがある為、ここからは別行動になる。




 マルドゥクに乗り込んだゲルマノヴナ達とディーノは、隣国であるグラニエに向かって移動を開始。

 人間としての身体能力が高くはないルーヴェべデルの者にとって、マルドゥクの走りはいつ振り落とされてもおかしくないものであり、走り出してすぐに失神した文官に合わせて速度をある程度落として走ってもらう事にした。


 それでも隣国であるグラニエはマルドゥクが走って二の時程の距離にあり、ドラゴニュートがいるという山を目指してまた走り進んでいく。


 山や谷を越えて到着したのは自然豊かな山々を見下ろせる、グラニエで最も高い山の中腹だ。

 ここからドラゴニュートを探して捕獲するとなれば文官二人は邪魔になる。

 周囲に危険なモンスターがいないか索敵し、安全を確認できたところで岩場の上にザハールと文官二人を下ろしてドラゴニュートの姿を探す。


 荷物の中には使者団が必要になるかもしれないと、遠見筒を五つ持ってきていた為全員で探す。

 この山のどこかにいるはずとの情報だが、少さな個体を探すとすれば一苦労。

 逆にマルドゥクがこちらにいる為、向こうが先にこちらを見つけている可能性の方が高い。

 逃げる気であれば存在を隠そうとするが、小さいとはいえ竜種に分類されるドラゴニュートであれば敵意を向けて襲って来るはずだが。


 少ししてマルドゥクが鼻でスンスンと匂いを嗅ぎ始め、ある一点を見つめて目を凝らす。

 ウルの話では巨獣である為かはわからないが、小さなものには焦点が合いにくいとの事。

 ディーノも同じようにマルドゥクの視線を追い、遠見筒でその周辺を見回していると。


「いた。結構小せぇ。人とそんな変わんないかも」


 ディーノの声に全員がその方向に視線を向け、発見すると誰もがこの距離ではっきりと見える遠見筒に驚いていた。

 ルーヴェべデルには遠見筒はないのだろう。


「よし。ザハールさん達はここで見ててくれ。ゲルマさんはマルドゥクの上で待機な。行くぞウル!」


『ゴアォッ!!』と返事をするマルドゥクが山から一気に駆け降り、ドラゴニュートが突進を避けようと空に飛翔したところでディーノが飛び掛かる。

 マルドゥクのあまりの速度にディーノの体も前方に流れてしまうものの、風の防壁を足場にしてドラゴニュートに追従し、背後から爆破を浴びせて飛行を阻害する。

 霧揉み状態になって地面に落下していくドラゴニュートだが、軽量である為か大きく広げた翼で体勢を立て直して再び空を舞う。


 ディーノは自由落下で下降しつつ、防壁を蹴って再びドラゴニュートを追い、背中から斬り掛かろうとしたところで体を翻したドラゴニュートからの右の蹴りを食らう。

 咄嗟にガードしたディーノだったものの、さすがは人間を遥かに超越する竜種の蹴りであり、左腕の骨から嫌な音が響く。

 防具の耐刃性能により腕が引き裂かれる事はなかったものの、そのあまりの威力にディーノの体は弾き飛ばされ、翼を羽ばたかせたドラゴニュートは追い討ちを掛けようと加速する。


 地面に叩きつけられそうになったディーノは逆手に持ったユニオンで小爆発を起こして衝撃を緩和し、地面に立って振り返ると向かって来るドラゴニュートがすぐ側まで距離を詰めていた。

 両手両足を使って叩き潰そうとしたのか着地体勢にあるドラゴニュートから二歩分前に出る事でそれを回避し、振り返り様にその背中に爆破を叩き込んでからさらに追い討ち。

 転がっていくドラゴニュートに対し、順手に持ち直してその腹部を斬り付け、両手足を抱え込むよう防御態勢に入った為少し距離を取る。

 どうやら鱗の大きな通常の竜種に比べ、密度の高いドラゴニュートの鱗は刃を受け流す程の硬度を持つようだ。

 立ち上がった状態であれば斬撃や刺突も下からの攻撃であれば通るかもしれないが、低く前傾姿勢となったドラゴニュートに対してはどれも通用しない。

 打撃や爆破でダメージを与える必要があるだろう。


 そう思った瞬間。

 口を大きく開いたドラゴニュートからのブレスが吐き出され、ディーノと同じような爆破が目の前で発生。

 ユニオンでそれを斬り裂き、変換された魔力でリベンジブラストを発動する。

 二撃立て続けに起こった爆破でドラゴニュートとディーノは弾き飛ばされ、その速度を利用してドラゴニュートは飛翔。

 ディーノは失った魔力をチャージしようと木々の間を駆け抜けながらドラゴニュートの動きに備える。

 ディーノも爆破の余波で大きなダメージを負ってしまったが、リベンジブラストで返されたドラゴニュートのダメージはそれ以上となるだろう。

 回復薬を飲みつつ体力と魔力の回復を待ちながらどう決着をつけようかと考え走る。


 全身から血を流しながらディーノ目掛けて加速するドラゴニュートに、わずかにチャージした魔力で空を駆け上がるディーノ。

 速度はディーノに分があるものの、飛行するドラゴニュートは体力を失わずに追従できる為、身動きできなくなるよう消耗させたいディーノとしては、このまま追われ続けるのは不利でしかない。

 それならば風の魔法スキルを消耗させてマルドゥクで押さえ込めばいいかと防壁を蹴って急停止。

 目の前で停止したディーノに向かって再びブレスを吐き出したドラゴニュートに、ユニオンで相殺しつつ回復した分の魔力でリベンジブラストを食らわせる。

 速度が乗った分ドラゴニュートのダメージは大きく、ブレスを相殺して余波により後方へと飛ばされるディーノはダメージが小さい。

 これを繰り返せば体力もスキルも限界を向かえる事になるだろう。

 ディーノとしてもかなりの衝撃と痛みはあるが、回復薬は大量に持って来ている為問題はない。




 それから何度かのブレス相殺を行ったところ、スキル発動限界よりも先に体力が尽きたドラゴニュート。

 小さな個体である為か、通常の竜種よりも体力はないのだろう。

 ブレスは風の事象として発動する前にユニオンで相殺すれば問題ない為、マルドゥクの前足で押さえ付けてゲルマノヴナがスキル【フュージョン】を発動。


 ウルのパラサイトと同じように目の色が変わるとの事で、赤黒かった目が青く変化したところで融合が完了し、人間とドラゴニュートとの体積がそれ程変わらない事が原因か髪の毛が生え、手の指が伸びるといった変化も現れた。

 マルドゥクが押さえていた前足を退けて、全身から血が流れ出ているドラゴニュートの傷を回復薬で癒す。

 人間よりも一回り大きいだけのドラゴニュートである為、全身に上級回復薬を三本噴射し、一本を飲ませたところで起き上がる事ができた。


『ヴァァ……ア?ア、ア、アー。ヌウ。ドウヤラ言葉ガ話セルヨウダ』


 少しくぐもった声ではあるが、モンスターらしからぬ人語を話すドラゴニュート。


「おお、すげぇな。ハハッ。ドラゴニュートっていうか喋れるんならゲルマニュートさんだな」


 威厳ある人間の姿からモンスター姿になった事でディーノの言葉遣いも少し雑になっているが、本人は全く気付いていない。


『グッハッハッ。ソレハイイ。今後ハソウ名乗ロウデハナイカ。シカシディーノヨ。其方ノ実力ヲ見誤ッテイタヨウダ。バランタイン王国ノ戦士ニ敬意ヲ評シタイ』


 そしてゲルマノヴナもこの予想外の結果に気分良さそうにそれを受け入れている。


「その感じなら酒も飲めそうっスよね。今夜一緒に飲みませんか?せっかくだしオレもルーヴェべデル満喫したいんで」


『ヨシ、ザハールモ連レテ酒ヲ飲交ワソウデハナイカ!ウーム、フュージョンニ目覚メテコレ程気分ガ良カッタ事ナドコレマデナイ!最高ノ気分デアル!』


 ややテンションが高いゲルマノヴナだが、知性のある獣になるスキルであるだけに人語が話せるというのが余程嬉しいのだろう。

 そして人よりも一回り大きい程度の体躯であれば、人間とそう変わらない生活をおくる事も可能だ。

 テンションが上がるのも当然と言えよう。


 その後ゲルマノヴナは体の状態を確認し、以前上位竜と同化していただけあり尻尾や翼も問題なく動かせるようだ。

 ザハール達の元へと戻り、マルドゥクの背に乗って王都へ帰る一行だった。

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