115 ルーヴェべデル国王
べデル王宮は元々辺境伯の邸を改築したものである為か、王宮というよりは石造りの少し立派な倉庫のようにも見えなくもない。
縦にある程度高さがあるとはいえ平家造で入り口も大きい事から、巨獣がそのまま入られるよう作られており、やはりバランタイン育ちのディーノとしては倉庫のように見えてしまう。
巨大な扉の前にも見知らぬ巨獣が控えており、そのすぐ側にある見張り台に立つ者達が巨獣のテイマーという事だろう。
開かれた巨大扉から王宮内へと足を踏み入れたドロフェイの巨獣に続き、マルドゥクも入ろうと前に進むと、両脇に控えていたモンスターは尻尾を丸めて震えていた。
テイマーに操られている為逃げられないとはいえ、本能からくる恐怖には勝てないようだ。
王宮内謁見の間はやはり広い倉庫のようで、玉座は数十段にもなる階段の上に設置されており、獣王国ならではの造りと言えるだろう。
壁際の両脇には赤と黒の色相竜、その手前には一回り小さい上位竜が一体ずつ。
玉座から下がった階段の両脇には二人の男が腕を組んで仁王立ちしている。
その背後には椅子に座った貴族と思われる者達が十数名。
マルドゥクが姿を現すと謁見の間が騒めきだす。
玉座の前まで進んだドロフェイの巨獣が少し右側に寄って伏せ、同じようにマルドゥクもその隣で身を伏せる。
ドロフェイが巨獣から降りるのに続いてディーノとグレゴリオ達が梯子を使って地面に降りる。
飛び降りてもよかったのだが、王宮という事であまり派手な動きをするべきではないと判断した為だ。
「バランタイン聖王国の使者達よ。俺はルーヴェべデル王国八代国王【ミロスラーヴォビチ=ルーヴェべデル】だ。何用かは知らぬが歓迎しよう。それよりまずはそこの巨獣がウル=シュミットであるならば姿を現すがよい」
国王から声を掛けられたウルはパラサイトを解除してマルドゥクから姿を現し、梯子を降りて来て跪く。
「国王様。0級冒険者ウル=シュミット、バランタイン聖王国より戻り参上いたしました。我々の与えられた任務に失敗し、神獣ティアマトを失った事、心よりお詫びいたします……」
任務に失敗しただけでなく、国を挙げて捕獲に成功したティアマトを失ったウルの責任は大きい。
その際に失われた六神獣のうち二人が同化する為のモンスターは、今現在でも手に入れる事ができていないのだから。
「ふむ。しかし貴様が俺の命令に背いたとは思えん。弁明できるのであれば申せ」
ウルに弁明の機会が与えられたのであれば、バランタイン王国での任務を全て話すべきだろうと、作戦中の内容からディーノに捕らえられるまでを明確にして説明した。
もちろんティアマトでの戦闘に際して、隠れ潜んでいたディーノにバランタイン王国との戦争に備えている事も聞かれてしまったと話し、自分の罪がどれ程重いものかを知ったうえで全てを語り明かす。
死罪は免れる事はできない事もわかっている為、この後のバランタイン王国との関係次第でウルの生死が別れる事になるだろう。
「ティアマトを一人の冒険者が倒したと?バランタイン王国の使者よ。それは事実か?」
発言する機会が与えられたディーノは立ち上がり、ウルも引き起こして国王に返答する。
「バランタイン聖王国S級冒険者ディーノ=エイシスです。この度は使者に同行させてもらう形で貴国に参上しました。ウルの話は全て事実であり、我が国に他国の兵がいた事、巨獣を操り近隣の領地に危険が及ぶ可能性があると判断した為、私がこの手でティアマトを殺しました。また、貴国の兵士が操っていたモンスター、捕獲していたものも全て処分したのは私です」
「たかが人間一人にそのような事……俄には信じられんな。それをどう証明する」
自分の肉体のみで戦う事を基本とするバランタイン王国の者でさえ、ティアマトと一人で戦ったと聞けば信じられる者はそうはいない。
王国内でも上位にいる一握りの人間達だけが知る最強に近い存在。
そのうちの一人がディーノであり、どれだけ強いモンスターを使役できるかが強さの決め手となるルーヴェべデルの者では理解ができないのは当然だろう。
「国王様。発言をお許しを。わたくし外交官のグレゴリオと申します。我がバランタイン聖王国では冒険者ディーノを始め、竜種と単独で戦える者が複数おります。いずれも国内で名を轟かせる剛の者達であり、こちらのディーノはその中でも若輩者。しかし世界の未来を左右する、バランタイン聖王国でも最も重要な人物でもあります」
「竜種と……ふぅむ。して、その世界を左右するとはどういう意味か」
ティアマトを単独で倒したディーノが若輩者であるとするならば、複数いるという竜種と戦える者はそれ以上と見るべきと考える。
しかしやはりディーノ個人がティアマトを倒したとはどうしても信じらないのだが、グレゴリオの語る世界の未来を左右する重要な人物という部分について質問する。
もちろんバランタイン王国側としてはそちらに話を持っていくつもりであった為、ここからはバランタイン国王の意思を伝えようと、グレゴリオの任務である世界規模の竜害に備えた友好国となる為の外交を始めた。
グレゴリオはおよそ二の時程も語り続け、バランタイン聖王国における過去の伝承と友好国の伝承をわかりやすいよう説明し、今後起こり得る世界規模の竜害の恐ろしさをルーヴェべデルの上層部にも知らしめる。
およそ二百年あまりと歴史の浅いルーヴェべデルでは一千年も前の記述など残っているはずもなく、それらの話全てを信じる事はできないものの、ここしばらくのルーヴェべデルでの異常も関連があるのではないかと貴族達も騒めきだす。
「竜害については一千年も過去の事であれば我々に知る術はない。しかし貴国の聖戦士が調べた二千年前の遺跡、他国の歴史と重ね合わせれば信憑性も出てくると言うものか。だが一国の言葉を鵜呑みにするわけにもいかんのでな。こちらでもその件については調べさせてもらう」
「構いません。歴史の長い国であれば他にも伝承はあるでしょう」
バランタイン聖王国でも友好国のみの情報である為、他の伝承がわかれば今以上に確信が得られるだけである。
「事実はどうあれ竜害が起こる可能性があるという情報を得られただけでも其方らを迎え入れた意味はある。しかし貴国に戦争を仕掛けようと目論んでいると知って、バランタイン国王は尚も我が国と友好を結びたいと?」
「もし戦争となれば……迎え討つ覚悟はあるとは申しておりましたが、我が王は国の仲間を思いやる優しき心を持つウル殿に感銘を受けまして。そのようなウル殿が生まれ育ったルーヴェべデル王国とは敵対したくはないと申しておりました」
ウルは元孤児であり、食糧難にあるルーヴェべデルでは孤児達の飢えも相当なものだろう。
それこそ木の皮をかじるような生活を送っているのかもしれないと、バランタイン国王に支援をしてもらえるよう必死で頭を下げていたのだ。
「そうか。ではウルと共にいた他の者はどうしたのだ?」
「彼らは現在バランタイン王国で移動用のモンスターを手に入れるべく、国から指定された冒険者達と共に活動しておられるはずです。我々が無事バランタイン聖王国まで戻る事ができれば彼らも解放される手筈となっております」
これに関してはディーノもウルも知らなかったのだが、国の捕虜として捕らえられていた為モンスターが与えられるとは思ってもみなかった。
「なる、ほどな。あの者共も処罰せねばならんが……まずはウル=シュミットからだ。作戦の失敗は不問とするがティアマトを失った事と戦争の用意がある事を知られてしまった事は許されぬ。よって……」
「待って下さい。戦争の用意があるというのをバランタイン側は戦力を高めていたとだけ解釈してはいけませんか?こちらとしては協力関係が築ければそれに越した事はありませんし。それとティアマトを失った事が問題なら今はマルドゥクがいますし、もしそれで足りないならオレが、私が六神獣用の二体の捕獲を協力しますよ」
「ふむ。我が国にだけ都合の良い解釈だが一度話を先に送ろう。して、六神獣用のモンスターを捕獲ともなればディーノ=エイシスのその実力を知る機会にもなるという事か。ウルの話が真実か見極める事もできるしな。よかろう。こちらが指定した一体の捕獲に成功すればティアマトの件を不問にする」
ルーヴェベデルにとって利益しかない提案だった為かあっさりとディーノの案が受け入れられた。
「もしかしたら殺してしまうかもしれないのでウルにも手伝ってもらっても?」
「構わん。後日指定したモンスターの捕獲に向かってもらう。こちらも準備がある故しばらく宿で待ってくれ」
元々戦争を予定していたバランタイン王国からの使者団の話に、ルーヴェべデル王国側にも話し合いが必要なのだろう。
この日は一方的にバランタイン側の話を進めてしまったが、今後のルーヴェべデルの回答により今後の両国の関係が決まってくる。
ディーノとしては今よりも高い実力を身につける必要もあり、ルーヴェべデルから紹介してもらえる強力なモンスターとの戦闘は都合のいい話でもある。
国王からは一体とは言われたものの、できる事なら何体か紹介してもらえたらなと期待していたりもするのだが。




