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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
109/257

109 パラサイト

 フィオレが目を覚ますまで半時以上もの時間を一人で戦い続けたディーノ。

 無理に攻撃を仕掛ける事なく魔力を抑えながらの戦闘であれば、動きの鈍ったマルドゥク相手にも充分な対応が可能だった事もあり、息は乱れるものの大きな怪我を負う事なく消耗戦を続けていた。

 ただしディーノの内包する魔力の総量も無限ではない為か、体力的な疲れとはまた違った脱力感を覚えつつも、風の防壁とユニオンでの刺突をメインに炎波を相殺しながらの戦闘だ。

 攻撃の決め手には欠けつつも、マルドゥクのスキルと体力を消耗させる事に成功している。


 起き上がったフィオレは火傷が癒えている事を確認し、まだ痛みが残る部分にはまた上級回復薬を塗り込んで残った分を飲み干した。


「アリス、戦況はどうなの?」


「このまま任せてもいいんじゃないかな〜とも思うけどそうもいかないわよね。あともう少し追い込めればこの戦いも終わりじゃない?」


 マルドゥクも相当消耗しているのか、動き回るような事もなく魔法スキルでディーノを払い除けようと抵抗するのみであり、自ら襲い掛かろうという意思は見られない。

 炎を吹き荒らしながら抵抗する様は災厄そのものと言っていい程に凶悪な存在ではあるものの、空を駆け回り魔法スキルをも相殺するディーノであればそれ程強敵とはなり得ないようだ。

 それでも全ての炎を相殺する事はできず、焼けた大気の熱も防ぐ事ができない為、下手に飛び込んではディーノもダメージを負い体力も自分が思う以上に消耗する事になる。

 フェイントを入れながら炎波を無駄撃ちさせ、スキルの待機時間を狙って刺突を繰り返すディーノの姿を見守っていた。


「もう動き回らないみたいだしお腹狙いでいこうかな」


「私はフィオレのサポートに回るわね。火球で正面の炎くらいなら防げるだろうし」


 同属性での魔法スキルがぶつかり合った場合魔力量の多い方が威力で上回る事ができる為、拡散する炎波であればそれ程魔力量は多くない。

 アリスが加減しているとはいえ固定した火球の方が出力が高くなる事は確実だろう。

 ぐにゃりと折れ曲がった魔鉄槍バーンに少し落胆しながらも、この戦いに決着をつけようとフィオレと共に駆け出した。




 空中を駆け回るディーノもアリスとフィオレの動きに気が付き、マルドゥクの意識が向かないよう上方へと駆け上がりながら引き付ける。

 首を上げて襞の一本一本から別々に炎波を放つ事でディーノの動きに追従するマルドゥクだが、直撃しそうな一撃のみを相殺して魔力を温存するディーノ。

 そこへ射程内へと駆け込んだフィオレからの矢が射られ、全出力のインパクトが隙だらけのマルドゥクの腹を打ち抜いた。

 上方を見上げていたマルドゥクもこの衝撃に耐えきれず、下腹部から折られるようにして上半身を地面に叩き付けた。

 さらに上空から落下してきたディーノからのリベンジブラストが背中に叩き込まれ、口内から大量の血を吐き出して地に伏せる。

 やはり隙だらけだったところに打ち込んだインパクトとリベンジブラストのダメージが大きかったらしく、マルドゥクもすぐには立ち上がれずに唸り声をあげて震えている。


 しかしまだ諦めてはいないのか襞を煌々と輝かせると炎波を放出し、前方にいたフィオレとアリスへと炎が襲い掛かるも、アリスの火球が小規模な爆発を起こして炎波を遮った。

 そこへフィオレ達を叩き潰そうと体を引きずって前へと出たマルドゥクだったが、前足を振り下ろすもその距離は届かずに地に伏せたまま目を閉じる。

 最後の抵抗だったのだろう、グルルと唸り声をあげたまま動きを止め、命を刈り取られるその時を待っているようだ。


「よし、ウルを連れて来るから少し待っててくれ。まだスキルも残ってるだろうし油断は禁物な」


 そう言い残してディーノはウルの待つ岩の上へと駆け出し、アリスとフィオレはマルドゥクの様子を見守りながらこの戦いの勝利を確信して拳を突き合わせる。

 竜種をも超える存在に三人だけで勝利した事に嬉しさを噛み締めつつ、ほぼ一人で体力のほとんどを削りきったディーノにこれまで以上の畏怖の念を覚えていた。

 全力で戦闘していたとはいえ、最大の攻撃であるリベンジブラストを体内に叩き込む事なく体力を削るにとどめており、これが討伐であればディーノ一人で倒す事も可能だったはずなのだ。




 ウルを背負い、大量の上級回復薬を詰め込んだ皮袋を持って戻って来たディーノ。

 マルドゥクの頭の上にウルを下ろして、抵抗されても叩き伏せられるよう魔力を体に巡らせる。


「じゃあウルはこれに寄生してみてくれ」


「デカいな……こんな化け物をこの短時間で倒すとかどうなってるんだよお前ら」


「最初結構やばかったけどな。でもほらっ、まずいいから暴れ出す前に早く寄生しろ!」


「ああ、わかった。目の色が俺と同じになれば寄生できたって事だからあとは回復頼む。少し時間掛かるかもしれないがな」


 ウルはマルドゥクの頭に手を伸ばし、スキルを発動して体内に侵食を始める。

 指先がマルドゥクの体内に潜り込んでおり、少しずつ全身を埋めていく事で寄生するスキルがパラサイトの能力のようだ。


 ディーノはウルを残して地面に降り、アリスとフィオレに拳を合わせてこの戦いを労い合う。

 ただ途中で失言してしまった事からアリスに質問責めにあったのは言うまでもない。

 フィオレもそんなディーノの話に興味を持ち、今度娼館に連れて行ってほしいとも言い始めたのだが、残念ながらそれをアリスは許してはくれなかった。




 一半時程経った頃、ウルの姿が完全に沈み込むとマルドゥクの目が見開かれ、パラサイトによる寄生が完了したのか震えながらも上体を起こしたマルドゥク。

 琥珀色だった目の色もウルと同じ薄緑色に変化し、狼のその表情にも知性が見てとれる。

 そんなマルドゥクの変化にディーノ達も驚いていると、早く回復薬を掛けてほしいのか無事な左の前足でテシテシと地面を叩いて急かしてくる。

 そのテシテシもあまりの巨体の為か地面に振動が起こるのだが。


 まずは外傷の深い部分として右前足と左後足に上級回復薬を十本ずつ回し掛け、炎槍によって穿たれた穴を塞いでいく。

 シュウシュウと音を鳴らしながら傷が癒えていく様はなかなかに気持ちの悪い光景だが、人間であればこれだけ大きな傷は致命傷となる為癒える事はない。

 珍しい傷の回復状態を見守りながら右前足、左後足と順番に癒やしていく。

 次にリベンジブラストを浴びせた前面側はマルドゥクを仰向けにさせて、上級回復薬の容器内に風魔法で圧を掛ける事で薬液を噴射させ、霧状にして広範囲に振りかける事で時間を短縮。

 背面側にも同じように噴霧していき、五十本以上もの上級回復薬が空瓶になった。

 そして血を吐き出していた事から内臓にも相当なダメージを負っているだろうと、三十本もの上級回復薬を飲ませ、体力の回復用にと下級回復薬も残っていた分三十本を全て飲ませた。

 これを全て金額に換算すれば白金貨二枚以上にも相当するのだが、ジャダルラック領で下級貴族の財産を上回る程も稼いだディーノにとってはそれ程大した出費ではない。

 この程度でマルドゥクが手に入るのであれば破格とさえ思っているだろう。


 それから二時程は休憩としてディーノ達は食事をとり、ウルはマルドゥクに体を馴染ませつつ回復薬の効果を得られるうちはじっとして傷が癒えるのを待つ。

 下級回復薬は効果が薄れてきたとしても一時以上は続くのが知られている為だ。




 その後二時を過ぎて起き上がったマルドゥクは、最初に叩き潰したセンチュリーバフの元へと向かって食事を始め、寄生したウルが生肉を食べるのをどう感じているのか、後で聞いてみようと思うディーノだった。


 マルドゥクが食事を始めた為ディーノ達は野営していた場所まで戻り、フィオレに野営の後片付けを頼んで、ディーノはアリスの髪を少し整えようと散髪する事にした。

 ディーノのダガーは頑丈さも求めた業物である為か、髪を切るような繊細な作業には向いておらず、アリスがファブリツィオに造ってもらったナイフで焼けた髪を切り落としていく。

 極端に短くなるような事にはせず、焼け落ちた左側の毛先を整えてチリチリになった毛を梳く事で不自然さを無くしていく。

 しかし左右で全く違う長さになってしまった為、右半分も短く整える必要があるものの、ディーノに髪を上手く切るような技術はない。

 少しずつ丁寧に左側の長さに合わせて削ぎ落とすように整えていき、毛先が肩に届くくらいのミディアムヘアに収まった。

 髪が焼けたままよりは随分と見た目も良くなり、街に着き次第理髪店で手直ししてもらえばいいだろう。

 短くなった髪型をナイフを覗き込んで確認し、頭を撫でられて嬉しそうな表情を浮かべていた。

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