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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
107/257

107 マルドゥク戦

 マルドゥクまで歩けば半時程も掛かる距離を、アリス達が準備を整えるわずかな時間で走り切ったディーノ。

 獲物に襲い掛かった瞬間にマルドゥクの顔に向かって飛び上がったディーノは耳元まで来ると風魔法を発動して爆破。

 爆音を轟かせて鼓膜を破り、咄嗟に回避行動をとったマルドゥクだったものの爆破の衝撃波までは回避できずに咆哮をあげて飛び退る。

 マルドゥクに襲われたのは巨獣系の草食モンスターであるセンチュリーバフ。

 噛み付く前にディーノが攻撃を仕掛けたはずだがマルドゥクの爪による一撃で背骨を粉砕されたのか、口から血を吐き出して身動きとる事ができないようだ。


 唸り声をあげるマルドゥクは小さな存在であるディーノを視界に収め、赤い襞を広げて威嚇すると、咆哮と同時に一直線に駆け出した。

 同じくディーノもマルドゥク目掛けて駆け出すと互いのあまりの素早さに一瞬で距離が縮み、右爪による叩き潰しを潜り抜けたディーノは跳躍して後足へと刃を振るう。

 しかし前足を地面についたマルドゥクは体を捻って斬撃を躱し、空中に浮き上がるディーノに向かって再び距離を詰める。

 しかしディーノは風の防壁を足元に展開して空を駆け、マルドゥクの狙いよりも上昇すると首筋に刃を突き立てようと急降下。

 しかしマルドゥクもそれを許さず首を下に向ける事で赤襞をディーノに叩き付ける。

 わずかに体が浮かされたディーノだが頭部の針のように固い毛に掴まり、もう片方の耳を潰そうと体勢を立て直したところでマルドゥクの身震い。

 あまりの勢いにディーノも空中へと投げ出されてしまった。


 地面へと着地したマルドゥクは空を駆けるディーノを目で追い、初めて見る小さな強敵にどう襲い掛かろうかと思考を巡らせているようだ。

 走り出せばディーノよりも遥かに速いと思われるが、戦闘であればマルドゥクが駆け回る事ができずに速度はある程度抑え込める。

 ここまでの戦闘で初速の素早さではマルドゥクに分があり、ディーノは常に動き回る事で足りない素早さを補うつもりだろう。

 空を駆けながらマルドゥクに揺さぶりをかけようと速度を微調整。

 するとこれまで明滅を繰り返していたマルドゥクの左右三枚ずつ対になった襞が輝きを増し、花弁のように広げたかと思うとディーノを中心に炎の波が押し寄せる。

 爆破の如き広がった炎波はディーノを包み込み、この絶体絶命の危機にディーノはユニオンを凪いで炎を相殺。

 ユニオン内に膨大な魔力を取り込み、周囲に還元された魔力を霧散させると同時に、自身の体内に溜め込んでいた魔力で風魔法を発動。

 リベンジブラストとして発動された風の事象はこれまでの威力とは比べ物にならない程に威力が高く、マルドゥクが炎波の追い討ちにと振るった右爪をも弾き飛ばしてその体ごと後方へとなぎ倒した。

 しかし弾き飛ばされたのはマルドゥクだけではなく、リベンジブラストを目の前で発動したディーノも例外ではない。

 マルドゥクが小さく見える程まで上空に打ち上げられたディーノは全身に痛みを覚えつつも、落下しながら鞄から取り出した下級回復薬を一気に飲み干してから体勢を整える。


 そして右爪を弾かれた事でその痛みに震えるマルドゥクだったが、戦闘中という事もあってか唸り声をあげながら遠く離れた空を落下していくディーノへと目を向けると怒りのままに駆け出した。


 マルドゥクが向かって来るとディーノもわずかに引き出せた魔力で空を駆け、速度に乗ったまま地面へと着地。

 魔力を貯めようと地面を走り出すと、ほんのわずかな時間で距離を詰めたマルドゥクが地面を滑るようにしてディーノへと左爪で薙ぎ払い。

 跳躍して躱したディーノだがすぐさま振われた右爪がディーノを捉え、ユニオンでガードするも後方へと弾き飛ばされる。

 さらに体勢を立て直す間もなく飛び掛かってくるマルドゥクに、爆風を放って後方へと逃れたディーノ。

 再び追い縋ろうとするかと思いきや、炎波を放って追撃とする。

 地面を転がりながら体勢を立て直したディーノはユニオンで炎波を相殺するも、マルドゥクの右爪が炎を纏って振り下ろされる。

 炎は相殺できるとしてもその一撃に耐え切れるはずのないディーノは、わずかにチャージされた魔力でリベンジブラストを発動。

 右爪が地面に叩き付けられる前に炎波を相殺しながら左方向へと突き抜けた。

 叩き付けられた右爪により火柱があがり、視界を遮られたマルドゥクはディーノの姿を追ってはいない。

 この間に距離をとろうと駆け出した。


 真正面からでは魔法なしに攻撃ができないディーノは魔力をある程度体内に溜め込む必要があるものの、マルドゥクの素早さはディーノをも上回るものである為距離をとろうとすぐさま追い付かれてしまう。

 またも追いつかれたディーノはマルドゥクの左右爪の連撃をぎりぎりのところで受け流し、噛み付こうと口を突き出した瞬間を狙って鼻先を駆け上がり、頭部から襞の間を抜けて背中側に回り込んで刃を突き立てる。

 しかし強靭な体毛が針のように突き出している為ディーノも深く刺し込む事ができず、刃先にわずかに血が付着するのみ。

 それでも背中に立たれる事を嫌がったマルドゥクは後足で立ち上がり、ディーノを払い落とそうと体を捻る。


 するとそこへ、駆け込んで来ていたフィオレが姿を隠したまま左後足をインパクトで射ち抜き、バランスを崩したマルドゥクが後方へと向かって倒れていく。

 マルドゥクの背中の毛に掴まっていたディーノは今がチャンスと飛び降り、「フィオレ!」と一声上げてから距離を取ろうと駆け出した。

 フィオレはディーノの合図に矢を番え、空中に投げ出された匂い袋に向かって矢を射る。

 例え姿を隠そうとも匂いによりすぐに見つかってしまうだろうと、フィオレには合図に合わせて匂い球を射ち落とすよう頼んであったのだ。

 狼型のマルドゥクの鼻であれば強い匂いにより一時的にでも嗅覚を奪う事ができるだろう。


 ディーノは足の長い草に隠れて魔力を溜め込み、フィオレもスキル待機時間を待ちながら光魔法で周囲に溶け込むよう擬態する。




 起き上がったマルドゥクは強い刺激臭に苦しみ顔を押さえ、匂いを消そうと炎波を放って周囲の大気を焼き焦す。

 しかし一度麻痺した嗅覚はそう簡単には戻る事なく回復までにはしばらく掛かるだろう。

 嗅覚と片側の聴覚を奪われたマルドゥクは視界を頼りにディーノの姿を探すものの、動かずに潜まれてはそう簡単に見つける事ができない。

 また、予想外の位置から攻撃を受けた事から、敵となる人間が二人いる事も把握しているはずだ。


 そして目を凝らして探し続けるマルドゥクの目に映ったものは遠く離れた位置を走って来るアリスの姿。

 アリスはマルドゥクに狙いを定められた事に気付いておらず、草葉に身を隠しつつもマルドゥクとの距離を詰めている。


 周囲に目を向ける事をやめたマルドゥクが自分を探すのをやめたと判断したディーノはその視線を追い、同じようにフィオレも何かに狙いを定めたマルドゥクに警戒して矢を番え

 た。

 マルドゥクが身を伏せ狙いを定める先にいるのがアリスである事に気が付いたフィオレは立ち位置を変え、タイミングを見計らって転ばせようと身を潜める。


 巨大な尻尾を振るマルドゥクにアリスも自分が狙われている事に気付き、立ち止まってバーンを構えて迎え討つ準備を整える。

 自分が狙われたとしてもディーノとフィオレがいるのだ。

 この場にたどり着く前にマルドゥクを抑えてくれるだろうと信じて、自身の仕事をしようと構えるアリス。


 一気に加速したマルドゥクは速く、フィオレの反応も少し遅れてしまうが全力で放ったインパクトがマルドゥクの下腹部に直撃し、前足を地面につく前に打ち上げられた事により前方に転がるように倒れ込んだマルドゥク。

 アリスの前方に投げ出された後足に炎槍を撃ち込み、足底球を貫く大きな穴が穿たれた。

 マルドゥクが滑り込んで来た事でアリスは跳ね除けられてしまうものの、風の防壁によりダメージはない。

 立ち上がろうと足を動かされては潰されてしまうと、急いでその場から離れようと走り出した。


 そしてマルドゥクと同時に駆け出したディーノは少し遅れて追い付き、仰向けに転がったマルドゥクの腹部へと爆破を叩き込む。

 体内に直接風魔法を発動すれば大ダメージが与えられるのだが、今回は討伐ではなく捕獲が目的だ。

 大きな傷を残す事なく捕獲する為、体の表面で爆破する事で内臓を圧迫し、体力を奪うに止めた。


 大きな唸り声をあげて苦しむマルドゥクと距離をとる黒夜叉の三人。

 ディーノが一人で戦うよりも安全に戦えている事に嬉しさを覚えつつ、次の攻撃に備えようと各々離れた位置で待機する。

 ディーノは二人の位置を把握してから魔力を溜め込む為に少し身を隠し、マルドゥクの様子を見ながら二本目の回復薬を口にする。

 下級回復薬は即効性はないものの、持続性という利点がある為体力の回復にはこちらがいい。

 別々に隠れているフィオレとアリスも回復薬を口にしている事だろう。




 内臓にダメージを負ったマルドゥクはわずかに血を吐きながら立ち上がり、後足の痛みに震えながら怒りの咆哮をあげる。

 嗅覚もまだ回復しないのかまた目で黒夜叉を探し、魔力のチャージが終わったディーノが姿を現すと唸り声をあげて威嚇する。

 赤い襞が煌々と輝きを放ち、炎の巨獣がゆっくりと歩みを進める。

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