103 知らぬが仏
翌日はラフロイグで買い物や食事をしながら観光を楽しみ、ウルはディーノとの戦い以降少し傷が多くなった装備を買い替えて、白いインナーに青く染色された革鎧を身に纏い、紺色のズボンをはいたシーフ系の装いを選択。
黒夜叉のメンバーに合わせて黒めのフード付き外套を羽織る事にした。
また、これまで持っていなかった武器には巨獣系モンスターの牙を元に造られたダガーを装備し、金属を一切使わない暗殺者よりな装備としている。
話によると金属系の装備はパラサイトスキルとは相性が悪く、モンスターの動きが悪くなる傾向にあるのだとか。
アリスも装備のベースはそのままに、インナーを何着か別の色の物を購入して着回しできるようにしたようだ。
同じ装備でもインナーで色違いが楽しめるのは上級女性冒険者にはよくある事でもある。
店内で赤いインナーに着替えて支払いを済ませ、ディーノに褒められて嬉しそうに店を後にする。
この日の夜は熱い一夜となるのは間違いない。
そしてフィオレはナイフを購入しようと店先を覗いていたものの、欲しいと思える武器がなかった事から少し特殊な属性剣を購入した。
短剣ではあるものの長さや形状が気に入って購入したのだが、光属性の魔核が埋め込まれており自身が反射する光を周囲の色に同化させる能力を持つ。
属性剣購入後にディーノから魔力を引き出してもらうと周囲に溶け込むように色が変化し、アーチャーのフィオレには最適とも思える能力に満足そうな表情を浮かべていた。
夕方になるとウルがエルヴェーラを誘いたいとギルドへと向かい、ディーノ達はロザリアとルチアを誘って食事をとる事にする。
エルヴェーラはディーノの視線を気にしつつもウルの誘いが嬉しかったらしく、頬を赤くしながらもラフロイグでも人気のある店へと入って食事を始める。
少し離れた位置ではディーノ達が食事をしていたものの、ウルがルーヴェべデル王国出身者である事や敵国となる可能性もある事も聞いていたのか、何故ディーノ達が同じ店にいるのかを問い詰める事はなかった。
それぞれ国が違う事もあり会話も質問ばかりであったものの、お互いを知ろうとする会話は楽しいものであり終始笑顔で幸せそうな二人のようで、離れた位置から見ていたアリスも少し嬉しそう。
これでエルヴェーラがディーノからウルに乗り換えればアリスにとってはそれでいい。
そしてディーノ達のテーブルではロザリアとルチアからの質問責めが始まっており、ディーノとアリスが付き合い始めていた事が嬉しいのか、その進展について様々な質問が飛び交っていた。
そんな中、ディーノとアリスの顔にキョロキョロと視線を向けるフィオレは可愛らしく、ロザリアとルチアはキャーキャーと騒ぎながら抱き着いたりもしていた。
間違いなくフィオレは女性と勘違いされているのだろうと思いつつ、本人が嫌がっていない事からまあいいかと放っておく。
そんな盛り上がっている中でルチアが切り出したのは。
「ねぇ。ディーノが元オリオンだから聞くんだけど……ジェラルドってどんな人?」
「ん?ルチアも前に一緒したんじゃなかったか?」
ロザリアとルチアもアリス同様にブレイブと共にクエストに臨んだ事があったはずだ。
その際には悲惨な目にあわされたと怒りの形相をしていたはずだが、何故かここにきてジェラルドの話が出てきた。
「うん。そうなんだけど私とロザリアで少し前に王都までの護衛任務に就いた事があってね……」
と、説明を始めたルチア。
どうやらその時にギルドでブレイブに再会したそうだが、ロザリアとルチアに気が付いたマリオとジェラルドが以前の行いについて詫びてきたとの事。
以前とは別人のような真摯な態度の二人にロザリアとルチアも許したそうだが、王都滞在中に共に過ごす事で少し打ち解けるようにもなったらしい。
その時のお詫びにと食事や買い物、観光にも付き合ってもらい、臨時のパーティーメンバーとしてもクエストに同行させてもらった際に見たブレイブの成長。
AA級クエストであるにも関わらず完璧な連携とマリオの的確な指示。
ルチアのペインスキルによりヘイトが向けられるも、それを難なく受け止めるジェラルドは頼もしく、その両脇からはソーニャとロザリアの遊撃が加えられ、モンスターが怯んだところにマリオの鋭いスラッシュの連撃。
一度のターンでは倒しきれなかったものの、同じように繰り返された戦いで余裕をもって勝利できたとの事。
以前アリスと共に挑んだアローゼドラゴンの時とは全くの別物であり、完璧なパーティーの連携がブレイブにはあったと言う。
「とまぁそんなわけでその時からルチアはジェラルドにご執心なんだよ」
「ちょっとロザリア!?ご執心とか言わないでよ!」
ロザリアに掴み掛かるルチアだが顔を真っ赤にしている事から実際にそうなのだろう。
「ジェラルドもマリオも調子に乗ってなければいい奴らだよ。仲間を絶対に見捨てたりしないしな」
「そっ、か。うん、そうだよね。それにあんなに完璧な連携だったのに少し反応が遅れたからって反省して……この失敗を繰り返さない為にも叩いてくれって。自分は鈍いから叩いてでも覚え込ませないとダメなんだって。私達が完璧だと思った戦いでも妥協をしない真っ直ぐな姿勢はすごいと思ったし感動したもん」
ジェラルドの性癖を知らないディーノは、ルチアの言葉が心に響く。
「ジェラルド……あいつそんなに仲間の為に頑張ってるのか……やべ、感動して涙が出そう」
「よかったわねディーノ。別々になったとしてもディーノの大切な仲間だもの」
アリスも知らないジェラルドの性癖に、嬉し涙を浮かべるディーノに優しい表情を向ける。
「でね、彼には悪いと思ったんだけど頬っぺたをパーンって叩いてみたんだけどね、ガーディアンだからこのくらいじゃ効かないなって苦笑いされちゃった。ふふっ。だから今度はスキル発動して叩いてみてくれって言うし本当にペインスキルで叩いたの」
ペインスキルともなれば痛みを与えるスキルであり、モンスターでも痛みに苦しむ恐ろしいスキルである。
そのスキルで叩いたともなればその痛みは想像を絶するものであり、黒夜叉三人もゴクリと唾を飲んでルチアの言葉の続きを待つ。
「でも全力のペインだったのに彼は平気だったの!笑顔でいいスキルだって。こんなに効く攻撃はそうそうないなって褒めてくれたの!ガーディアンってすごいなって……か、かっこいいなって思って……その……」
「すげぇ……ジェラルドの奴スキルにまで打ち勝つ程の防御力あるのかよ」
「あの頃の彼とは全然違うって事ね……」
ペインスキルにも耐えられる防御力ともなれば並大抵のモンスターではジェラルドにダメージを与えられないだろうと考えられる。
それにも関わらず自身の防御力に慢心せず、仲間の為にも研鑽しようというジェラルドの姿勢にディーノは涙を拭い、アリスは感動を覚え、フィオレとロザリアも最高のガーディアンであると感心する。
「やっぱかっこいいとか思ってるんじゃないか。いいね〜、ルチアの色恋沙汰なんて今までなかったしな。そんなわけでディーノ達もルチアの事応援してくれないか」
「ジェラルドの好みにもよるかもしれないけどルチアも美人だしな。もちろんオレは応援する」
「私も応援するわ。以前どうだったかよりも今どうあるかよね」
ジェラルドが仲間の為に努力している事を知り、好意を抱くルチアを応援しないわけがないだろう。
もちろんジェラルドの意思にもよるかもしれないが、ルチアが好意を抱く以上はジェラルドも意識せざるを得ないはずだ。
互いを知り歩み寄る事ができればいつか結ばれる日がくるかもしれない。
「私、王都に行こうかな」
「それならあたしも着いて行くよ。もしかしたらあたしにも良い人見つかるかもしんないしさ」
仲のいい二人はパーティーではないものの、よく一緒にクエストに向かうソロの冒険者だ。
自由な冒険者は気の向くままに拠点を変えるのも悪い事ではないだろう。
明日以降、王都までの護衛依頼を受注して旅立とうとロザリアとルチアは手を取り合っていた。




