102 魔鋼製武器発注
ヴァレリオは体が大きい為か二人掛けのソファーに座り、ディーノは促されるまま正面にアリスと共に座り、両脇にある一人掛け用のソファーにはフィオレとウルが座る。
今回客室へと案内されたのはギルド長室には接客するようなソファーやテーブルがない為だ。
ヴァレリオは国からの資料をもとに現状の把握と今後の黒夜叉の活動について確認を行い、ウルが寄生する為のモンスターを紹介してもらえるよう話を進める。
「お前、狙ってるSS級がいるとは言ってたがどこからそんな話を聞いたんだ?エルヴェーラにだって教えてなかったはずなのによぉ」
ディーノは以前から狙っていたモンスターがいたのだが、今回はそれを討伐するのではなく捕獲するのが目的となる。
「んー、こいつがモンスター図鑑に載ってるって事はどこかに存在してるって事だろ?それでエルヴェーラに王国中の今発注されてるSS級討伐依頼の位置を全部調べてもらって、この地図に書き込んでもらったんだよ。そうするとほら……ここだけ空白になってるし人里も何もない。竜種をも超える最強最悪のモンスターの居場所っていうならここかな〜とね」
「モンスター図鑑か……確かに載ってはいるがそこにいるとは書いてなかったはずなんだがな。ま、討伐依頼にもなってねぇし無償で倒す分には問題ねぇ。場所もそのあたりの山中に生息してるとかで、餌時には荒野のモンスターを狩るとか報告書には書いてあったな」
ヴァレリオも場所まで特定されていては隠すつもりはないらしい。
紹介してもらうつもりだったのだが、討伐依頼にもなっていないとなれば紹介する事ができないとしても、場所の確認が取れただけでも良しとする。
そして今回はディーノとアリスの二人ではなく、黒夜叉というパーティーでの戦闘となれば引き止める理由はない。
それどころか討伐依頼にもなってないという事は、以前から場所を特定していたディーノが勝手に討伐に向かったとしても文句を言えないモンスターでもある。
パーティーで臨むならソロで挑むよりも遥かにマシと言えるだろう。
「じゃあやるなら荒野の方がやりやすいな。今回は捕獲が目的だしいろいろと勝手が違うけどまあなんとかなるだろ」
捕獲となれば致命傷を与えるわけにもいかず、アリスの火力はある程度抑える必要が出てくる。
フィオレには足止めの為にもインパクトによる足元への攻撃。
ディーノは撹乱とある程度消耗させる為の戦い。
ウルは寄生する為の条件を整えてからの捕獲となる。
バランタイン王国における最強最悪のモンスターともなれば、以前ウルが寄生していたティアマト級のモンスターである事は間違いないだろう。
「本気でこのメンバーだけでやるのか?モンスターを抑えきれないと俺が逆に取り込まれる可能性もあるんだが」
ウルのパラサイトは寄生する能力ではあるのだが、体が動いてしまえば対象とのリンクができずに体の支配権が奪えない。
そして全く支配権が奪えないような事になればウル自身がモンスターの体内から出る事もできなくなり、意識はあるもののモンスターの一部となってしまうというリスクがある。
「それなら身動きできないくらいまで消耗させればいいだろ。回復薬ぶっかければ巨獣も復活するだろうしな。上級回復薬も買い占めて行こう」
回復薬はモンスターにも効果がある事は知られており、家畜の怪我などは基本的に回復薬で処置するのが一般的だ。
クレリックによる回復スキルも効果はあるものの、人間に使用する回復よりも効果が薄い事も知られている。
「討伐じゃねぇって事で素材が手に入らないのは少し残念だがまあいいだろう。王国の為にも頑張ってくれ」
その後少しジャダルラック領での活動を話しつつ、ヴァレリオとの話を終えてギルドを後にした。
ギルドの次に訪れたのは鍛冶屋ファイス。
ディーノの左用の武器作成を依頼する為だ。
「ファブ爺さん元気にしてたか?ほい、これお土産だ」
そう言って大きな麻袋をテーブルに置き、ファブリツィオが袋の中を確認すると大量の魔核が入っていた。
「こいつぁ見た事もねぇ魔核が随分と入ってやがるな。こんだけの手土産となりゃあ次の依頼はうんと負けてやらねぇとなぁ、ガハハッ」
魔核を次々と拾い上げては何の魔核かと首を傾げ、ディーノはその一つ一つを覚えているらしく全てモンスターの名前を答えていく。
黄竜やティアマト、イスレロにクランプスなど珍しい魔核も多く入っている為ファブリツィオも驚愕の表情をしながら様々な質問をぶつけてきた。
その戦いを楽しそうに語るディーノとアリスに「またさらに成長しやがったんだな」と、驚きよりも少し呆れさえも感じられる表情を向けるファブリツィオ。
ディーノ達がパーティーを組んだという事もあり、ステータスと評価値を聞いて天井を仰いでいた。
しばらく魔核を確認しながらジャダルラック領での戦闘の話をし、ディーノは今後必要となるであろう左手用武器について説明を始めた。
「そんなわけで国王様から魔鋼石をもらってきたからさ。こいつでオレ用の武器を作ってほしい。デザインや寸法なんかも全てファブ爺さんに任せるし金額も言い値を払うつもりだ」
「おうおう、ついに俺も魔鋼製武器を手掛ける日がきちまうたぁな。正直な話俺ぁまだ一度も魔鋼を鍛えた事ぁねぇ。まともな武器になるかも保証ぁできねぇぜぇ?」
魔鋼は超希少素材であり一般には出回らないどころかその産出場所さえ不明とされている為、ディーノが持って来た魔鋼石さえもファブリツィオにとって初めて見る代物だ。
しかしディーノは自分で触れて魔力の流れから本物である事を確認しており、加工が難しいとされる魔鋼石である事は間違いない。
ファブリツィオがこれを武器に加工できるかは職人としての腕の見せ所でもあるだろう。
「頼むよ。最高の一振りを期待してる」
「ガハハッ!保証はできねぇって言ってんだろが!そんでもお前さんが本気でこいつを依頼しようってんなら俺も死ぬ気でこの仕事に当たらせてもらうぜぃ。鍛治師仲間集めての大仕事だぁ!燃えるなぁこいつぁよぉ!」
どうやらファブリツィオ一人での加工は難しいらしく、鍛治師を何人か集めての作業となるようだ。
魔鋼は数日間も鉄の溶けるような温度で熱し続けてようやく加工できる柔らかさとなる為、それも当然と言えるだろう。
魔鋼製武器を手掛けた鍛治師など現代では存在しない事から、鍛治師仲間達も喜んで協力してくれるだろうと言う。
その後はディーノとユニオンの採寸をし、ファブリツィオは伝説に残る剣を造る為にも二月以上は掛かるとしてディーノの依頼を受注した。
今後しばらくは魔鋼資料を集めての仲間達との討論、その後は熱を入れて加工に適した温度、時間なども把握しながら素材をよく知ったうえで武器造りに入るとの事。
ファブリツィオの腕があればユニオンにも劣らない最高の剣が出来上がるだろうと、ディーノは期待しながら店を後にする。
この日はディーノがラフロイグで利用していた宿に部屋を借り、二日ほどゆっくりと休む事にしてその後は捕獲作戦へと向かう事となる。
夕食は四人でとったものの、エルヴェーラと食事をしたかったというウルはどこまで本気なのだろう。
もし今後戦争が始まってしまえば敵同士となってしまい、決して叶わぬ恋となってしまってもいいのだろうか。
とはいえその敵になるかもしれないウルに、バランタイン聖王国でも最強最悪とされるモンスターを与えようと考えているのだからディーノからも何も言えない。
そのうえ下手にやめろと言おうものならまたアリスが泣き出してしまうかもしれないのだ。
ディーノは口を紡ぐしかなかったりもする。
しかしアリスはウルのエルヴェーラへ向けた好意に悪い気がしないらしく「今からエルヴェーラを呼びに行く?」などとも聞いていたが、二人で食事をしたいから今夜はいいと断られていた。
翌日は二人で食事をするとは言うものの、一応ディーノはウルの監視も申し付けられている為同じ店で食事をする事になるだろう。
別の席で食事をする分には問題ないだろうと、久しぶりにロザリアとルチアを誘って食事をするつもりだ。




