101 ラフロイグへ
国王との謁見、勲章授与から三日後、ラフロイグ伯爵の護衛依頼の為一度王都を離れる事になった黒夜叉のメンバー。
二日前には獄中から出されて黒夜叉に同行する事になったウルを交え、食事や買い物をしながら今後のパーティーの方向性を話し合っている。
バランタイン聖王国で勝手に決められてしまった親善大使としての役割もウルは快く引き受け、ルーヴェべデル王国への使者を必ず守ると約束してくれた。
もともとディーノとは打ち解けていた事もあり、互いの国の平和の為に尽力しようと手を取り合い、今後どんな事があろうと自分達は敵対する事はないとしてアリスやフィオレからも受け入れられている。
商業都市ラフロイグまでの道中は伯爵の子であるダリアンの希望もあってディーノがこれまであった三月の話をしながらの旅となり、全員が半日交代で冒険譚を話して聞かせる事で話題の尽きない馬車の旅に伯爵方も満足してくれたようだ。
以前と同じようにロバートも伯爵の馬車に乗り込んでおり、以前とは違いその全てが事実なのだろうと、冒険者の強さに憧れめいたものを感じていた。
ラフロイグに到着後は人間のみならずモンスターとの戦いも想定して訓練を積むのだと意気込んでいたのが印象的だった。
そしてラフロイグ伯爵にもルーヴェべデル王国、竜害についての話はすでに国王からされており、ロバート達騎士団にはこれまで以上の力を身につけて欲しいとして、冒険者と共に訓練やクエストにも同行するよう指示を出し、今後は都市の軍備に力を入れていくそうだ。
ラフロイグのギルドにやって来た黒夜叉一行。
受付カウンターには笑顔を見せるエルヴェーラが待っているのだが、以前から好意を向けられていたディーノとしては少し後ろめたい気持ちもしなくもない。
「ただいまエル。ジャダルラック領の緊急クエストと護衛依頼の達成報告、あとは以前から狙ってたSS級モンスターの情報が欲しいんだけど……」
「おかえりなさいディーノさん!と、おまけのアリスさん。パーティーを組んだとは聞いていましたが……そちらのお二人ですか?」
「誰がおまけよ!私達は三人で黒夜叉!こっちのウルは今のところ臨時で入ってもらってるけど」
ディーノとしてはウルを黒夜叉のメンバーに迎え入れてもいいのだが、今後ルーヴェべデルの親善大使となるのであればパーティーメンバーとするわけにもいかず、今は臨時のパーティーメンバーとして同行してもらう事になっている。
「ウル……さん?ええと……どこかで聞いた事があるような?」
「はじめまして、ルーヴェべデル王国の0級冒険者、ウル=シュミットと申します。貴女のような美しい令嬢にお会いできた事、嬉しく思います」
誰もが(なんだこのキザな男は)と思う中、当のエルヴェーラは驚いたような表情と少し恥ずかしそうな表情を混ぜ合わせ、興味ありますよと言わんばかりの勢いで身を乗り出しながら挨拶する。
「獣王国でも屈指の実力を誇ると噂されるウル=シュミット様でしたか!こちらこそお会いできた事を光栄に思います!ラフロイグギルドの受付嬢をしておりますエルヴェーラです!よろしくお願いしますね!」
「元気な方ですね。お話できれば楽しそうですし、今度一緒に食事でも如何ですか?この都市に詳しくないのでいいお店を紹介して頂けると助かりますが」
明るく活発なエルヴェーラは人を惹きつける魅力的な女性であり、対するウルもすれ違えば誰もが振り返るであろう物腰柔らかそうな美形の男性だ。
元気に挨拶をしたエルヴェーラをあっさりと食事に誘ってしまうあたり、ウルは女性の扱いに長けた男なのだろう。
周囲にいるエルヴェーラに好意を抱く男達が立ち上がるも、美男美女の集団に近寄れずにいるようだ。
「お誘い頂けるのは嬉しいのですが……少し恥ずかしいですね。こんな時どうしたらいいか、私……」
赤面して俯きつつもチラチラとウルに視線を送るエルヴェーラ。
「うわ、尻軽ね。ディーノが騙されなくてよかったわ〜」
冷たい目でエルヴェーラに毒を吐きつつディーノに腕を絡めるアリスは以前の仕返しとばかりに楽しんでいるのだろう。
「ちょっ!?尻軽とかってええ!?どうしてディーノさんにくっ付いてるんですか!?」
叫ぶエルヴェーラを見て満足そうにディーノの腕に頬擦りするアリスは勝ち誇ったように笑みを浮かべて煽り立てる。
「ディーノと私は付き合ってるの。だからもう色目使ったらダ・メ・よ」
「なっ!?ディーノさん!?冒険者仲間には手を出さないって言ってましたよね!?」
これに苦笑いで頬を掻くディーノはただただ「我慢できなかった」と答えるしかない。
しかし我慢できなかったという事は我慢しなくてはならない状況になったという事であり、その状況を作ったのがアリスであればエルヴェーラも黙ってはいない。
「ぐぬぅ……やっぱりアリスさんが誘ったんですね?男が苦手と言いながらこのエロ女は……」
「エロ女って失礼ね……まあ確かに誘ったのは私だけど。それよりエルはどうだったのよ。貴族の男性を紹介してもらったんでしょう?」
あの時アリスは誰から何を言われても構わないとは思ったものの、直接言われるとやはり突き刺さるようで渋い顔をして否定する事はできないようだ。
しかしジャダルラック領出発前にはエルヴェーラはミラーナの主人であったエドモンドから貴族を紹介してもらっていたはずであり、そこを突く事で話題を逸らそうと考えたようだ。
「ええと……三人程紹介してもらいましたが……ちょっと好みではないというか、ですねぇ。あ、いえ、とても素敵な方々ではあったんですよ?でもあまり体をジロジロと見られては気分のいいものではありませんでしたし」
「どうせ貴族が喜ぶだろうってエロい格好していったんでしょ。このエロヴェーラ」
「んなっ!?マルティーナさんが用意してくれたドレスで行きましたよ!すっごく素敵なドレスで!」
「胸元は?」
「それは……まあ……開いてましたけど……」
アリスも貴族の娘であり、大人の女性達のドレスもよく見てきた事からある程度胸元を曝け出したようなドレスだったと予想する。
エルヴェーラも美しいドレスに満足はしていたものの、改めて問われると胸元の露出が多かったと言わざるを得ない。
「やっぱりねぇ〜」と勝ち誇ったような表情をするアリスはマウントをとれて嬉しそうである。
「そのドレス姿を俺も見てみたいな。貴女は冒険者ギルドに咲いた一輪の花。ドレスを身に纏い貴族という花園にあろうと、その魅力は俺を惹きつけ心を捕らえて離さないだろう」
歯の浮くようなセリフでエルヴェーラを褒めちぎるウルに、ディーノもこんな男だったかと首を傾げてしまう。
「あの、そのぉ……お褒めに預かり光栄です……」
顔を赤くしたエルヴェーラに普段の勢いはなく、しおらしく女性的に見えるあたりはウルに脈はありそうだ。
と、そこへ。
「おうディーノ、アリス。帰って来たんだな。国からの要請もあってお前らに依頼を紹介してやんねぇといけねぇからよ。客室に来い」
カウンターの奥側の部屋から出てきたのはギルド長であるヴァレリオ。
ディーノが拠点にしているのがラフロイグという事で、国の上層部からラフロイグギルドへと何か通達があったようだ。
黒夜叉四人はヴァレリオに続いて客室へと足を向けた。




