深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人が来すぎて続けていける自信がない【コロナウイルス編】
お久しぶりです
皆さんが自粛中に何かできないかなと思い書きました。
初めての方も前作から読んでくださっていた方々も来店してくださりありがとうございます。
短編ですが少しボリュームがありますので楽しんでいただけると嬉しいです。
俺、村松晴はとある町のとあるコンビニで副店長をしている。
今日は、張山店長いわく、新人さんが面接に来たらしくこの忙しい時期に本当にありがたいと思う。
ただ、このコンビニ、基本的に店員もお客さんも変わった人が多い。
大丈夫なんだろうか。
「働ける期間が一週間だけらしいんだけど、それでも助かるからね」
「1週間ですか。何か訳アリなんですか?」
「うん、元いた世界に帰らないといけないらしいんだ」
アッ・・・はい。普通の人じゃないことが確定した。
「どんな感じの人だったんですか?」
「割と変わった子だけど、正直でいい子そうだよ。世界を作り変えたいんだって」
いや、意味わかんない。
コンビニの面接で世界を作り変えたいっていうやつ壮大すぎるだろ。コンビニで何をするつもりだよ。ってツッコミたくなったけど、張山さんも俺もこのコンビニで変な人の接客をしすぎて慣れてしまっている。どんな人が来ても驚かないだろう。
「昼はかなり忙しいから、深夜担当村松君色々教えてあげて」
そう言われてしまった。
俺は、いつもより早く出勤して新人さんを待った。
ピロリロピロリロ。
あ、新人くんかな。
見ると、ロングヘアーの銀髪に銀色の目、白い布を体に巻き付け、リュックを背負ったとても可愛い顔をした青年が立っていた。
あ、変な人だ。客だ。
そう思った。そう思いたかった。
「我は神ゼウスの子孫。名はゼフィルス。来てやったぞ人間」
「神・・・ぜふぃ・・・え?」
見た目のインパクトと意味が分からな過ぎて頭に内容が入ってこなかった。
「我は神だ」
神様来ちゃった。
前の俺だったら、コスプレの痛い子来ちゃったっていうんだろうけど、魔王や河童の横行するこのコンビニでもはや『神であること』にしか驚かない。
とうとうコンビニに神が来ちゃったよ。
待って恰好。まさかそれで面接来たの?片方の乳首丸出しなんだけど。っていうかここまでその恰好で来たの?
「さっさと始めるぞ、人間」
「え・・・・ええ・・・」
ゼフィルスさん、いやゼフィルス様?は、手際よくコンビニの制服を着て長い髪をポニーテールにした。
「あ、これもつけてください」
俺は、マスクと薄い手袋を渡した。
ゼフィルス様は、大人しく従った。
最初の登場からかなり高貴というか偉そうだと思っていたけど、そんなこともなさそうだ。
お客様も来ないし、俺は商品を前に出しながら彼と少し話をすることにした。
「あの、聞いていいですか?」
「許す」
「どうしてコンビニでバイトしようと思ったんですか?」
「下界勉強である」
「下界勉強?」
「神になる者は、一度人間に扮し、下界を経験しなくてはならんのだ」
そ、そうなんだ、このコロナウイルスが流行っている時期に大変だな。
ん?今神になるものって。
「あの、聞いていいですか?」
「許す」
「今日本でコロナウイルスっていう凶悪なウイルスが流行っているんです。ゼフィルス様のお力でなんとかなりませんか?」
ゼフィルス様は、眉をひそめて腕を組んだ。
「できる。元々我はそれを目的としてきたのだ」
え・・・すごい。すごいぞ。
今日本を騒がせている凶悪なコロナウイルスを、神の子孫でありバイトの新人である彼が消滅させてくれるとは。
「我は天候を操りし、神。地球より巨大な雷で世界を焼きつし、世界を作り変える」
「まって」
魔王かよ。可愛い顔して超凶悪だよこの子。
世界を作り変えるってそういう?一旦世界を滅ぼすってこと!?
「あの、それはやめましょう」
「何故だ」
「あなたは神様なんでしょう?世界を滅ぼすのは流石にダメじゃないですか」
「神?」
ゼフィルス様は不思議な顔できょとんとした。
「はい」
「何故バレた・・・人間。まさか貴様、ただの人間じゃないな」
「いやいや入店してきたときから言ってましたよ」
僕が逆にきょとんとすると、ゼフィルス様は、汗をだらだら流しながらリュックサックへと走っていった。
そしてリュックサックから、『にんげんかいのしおり』という付箋だらけの分厚い本をめくると、勢いよく俺を振り返った。
「・・・・・」
そして、じーっと俺を見つめたかと思えば、またキリっとした顔に戻った。
「忘れろ、命だけは助けてやる。我は人間だ。下界見学で神だとバレると、失格で最悪堕天させられる。先生にまた怒られる」
「先生?」
「天界学校の先生だ。凄く怖いんだ・・・前も雷の授業で失敗して地獄に突き落とされて、血の池地獄に1週間沈められたんだ」
体罰どころの話じゃない。
「そうなんですね。じゃあ、ゼフィルス様は神様というか、神になるための学校に通っている神様見習いってことでいいですか?」
「なんで知っているんだ、人間。さては貴様・・・」
「人間じゃありません」
俺は面倒くさいからもういっそのこと人間じゃないことにした。
「そうか、人間じゃないなら神だとバレても問題ないな。今日面接をした張山という男も人間じゃないといっていたぞ」
張山さん、慣れてるな。
「でも、もし俺や張山さんが人間だったらどうするんですか。こんなに喋っちゃって大丈夫なんですか?」
「ああ、口が軽そうな軽薄なヤツは雷を撃ち落として記憶を消せとしおりに書いてある」
よかった本当に。
いやよくないな。教育がよくない。
「ちなみに下界見学っていつまでなんですか」
「1週間だ。全部シフトは深夜で村松さんに教えてもらうように張山という男から言われている」
張山という男って・・・一応このコンビニの店長さんなんだけど。
「そうなんですね」
成る程・・・まあ確かに。色々教えることは多そうだな。
俺は、レジへと移動して挨拶の練習から始めた。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
ゼフィルス様は意外に素直で、敬語のことはしっかりメモをとり、何度も繰り返して覚えていた。
コロナ対策の為透明のフィルムが張られたレジで、俺たちは接客の練習をした。
ピロリロリロリロ。
「あっ、お客様ですよ。ゼフィルス様」
俺は、扉を見ながら小声で言った。
お客様は、俺のよく知っている人だった。
「いらっしゃいませ」
「ハル!」
「ああ、綾女さん」
綾女さん、口裂け女でありお客さんであり俺の恋人だ。
「どうしたんですか?」
「今日コンビニに新人が入ったんでしょう?女?男?」
後ろに鎌を隠しながら曇った瞳で俺を見つめている。
綾女さんは、巷でいうヤンデレというやつらしい。
綾女さんは、普通にお客さんだが、何故か俺のことやこのコンビニのことをよく知っている。新人が入った情報なんてどこで仕入れてきたんだろう。
「男ですよ。ほら、隣に」
俺が隣を見ると、ゼフィルス様は、レジの下に隠れていた。
「何してるんですか?」
「いっ・・いら・・いらしゅ・・いらっしゃお・・しゅ・・・」
ゼフィルス様は、震えながらレジの下に隠れていた。
「え・・・?」
「そこに女が隠れているの?」
綾女さんは、鎌を振り上げレジに足を乗せようと近づいた。
「ソーシャルディスタンスですよ綾女さん」
「私とハルを隔てるこんな薄い壁、引き裂いてやるわ。毎回ムカついてたのよ」
「だめです。だめです綾女さん!!」
「今リモートワーク中なの。ハルとデートできなくて寂しいのよ!本当はハルを自粛期間中監禁して誰の声も届かない閉め切った部屋で一緒に過ごしたいのよ!」
「密です!!」
俺はレジから飛び出して必死に綾女さんを止めて、なんとか緊急事態宣言も解除されてコロナが治まったらデートをするという約束をして帰ってもらった。
問題は、ゼフィルス様である。
「どうしてレジに隠れてたんですか」
「き、緊張してしまって」
「緊張!?」
俺は、たまげた。
驚いたのではなくたまげてしまった。あんぐりと口を開けて目を見開いた。
ずっと俺の前では威厳ある姿を見せていたのに、初めてのお客様でどうして緊張してしまうんだろう。
「さっきまで普通に俺と話していたじゃないですか。どうしたんですか」
しゃがんで話を聞くと、ゼフィルス様の目はうるうるしてきた。
「うっ・・・ぼく天界でも劣等生でバカにされててぇ・・・にんげんだけにはバカにされないようにしようって思ってて・・・緊張しいで、予習は完璧なのに、上手くいかないんだ。『神の威厳』の授業だけは満点だから・・・それでぇ・・・」
レジの下で、ゼフィルス様はめそめそし始めた。
ザーーーーーっと雨が突然降ってきて、雷が鳴り始めた。
「張山さんにも村松さんにも正直・・・緊張しててぇ・・・上手く喋ろう上手く人間のフリをしようと頑張るけどぉ・・・からまわりばっかりでぇ・・もし2人が人間じゃなかったら・・・うっ・・・ぼ、ぼくどうなっていたか・・・さっきもお客さんに・・・人間じゃないって・・ばれないよう話そうと思ったらぁ・・・緊張しちゃってぇ・・・」
雷の音は徐々に大きくなっていく。
「ぼくは・・・ぼくはしっぱいばかりで・・・ぐすっ・・・なにもできなくて。ほんとは地球を滅ぼすなんてできなくってぇ・・・せいぜい日本を・・けしとばすことくらいしかできなくてぇ・・・」
「え?まって、ねえまって」
店が雨と強風でがたがた揺れているような気がするんだけど。
「こんなぼくは・・・にほんごときえたほうがいいんだぁ・・・うわあああああん!」
「まてまてまてまてまって!!!!!日本と心中しようとしないで!!!!!」
俺は、叫んでゼフィルス様の肩をがしっと掴んだ。
「一回失敗したくらいでなんですか。俺だって失敗しますし、誰だって、神様だって最初から上手く何かをこなすことは難しいんじゃないかと、俺は思います。だからもう少し頑張ってみましょう、大丈夫。きっとゼフィルス様ならできますよ」
「・・・」
「まだ1週間あるじゃないですか。一緒に頑張ってみましょう!」
俺がそういうと、ゼフィルス様はごしごし目をこすった。
「ゼフィーでいいよ。村松さん」
「へ?」
「ゼ、ゼフィーでいいっていってるんだ。人間村松」
小さい声だったから聞き返したら、ゼフィーさんはまた神の威厳スキルを発動していた。
俺はなんとなくだけど、下界見学でこのコンビニにやってきた天界の神見習いがゼフィーさんでよかったと思う。
俺は、それから1週間ゼフィーさんにコンビニでの業務を色々教えてあげた。
ゼフィーさんは予習をしてくるし、メモもしっかりとるし本当に真面目でいい子だ。
ただ、お客様がくると隠れて泣いてしまうのでそれを毎回なだめつつ、教えていった。
4日目くらいで、ゼフィーさんはお客様の前に立てるようになってきた。
よかった本当に。
「村松、村松、村松、村松、村松」
「はいはい」
「品出し一人でやったぞ」
ゼフィーさんは、俺より早く出勤して準備して、こうして何かと終わると報告しに来る。
「はやいですね。もう終わったんですか。ありがとうございます」
「ふふっ」
ゼフィーさんは、天界で褒められたことが今まであまりなかったらしい。
天界では『神の威厳』の授業だけ点数がよかったらしいが、それ以外が悪いので偉そうなだけのポンコツだと馬鹿にされてきたらしい。
こんなに真面目なのに。こんなに頑張っているのに。
少しずつ教えてあげればできるのに。俺は、それを聞いてとても悲しくなった。
人間界の社会は、悲しいことにどれだけ頑張っていても1回大きな失敗をしたり、緊張して間違えてしまったりすると、駄目なヤツだと思われたりする。
失敗を許さない人もいる。
一生懸命頑張ったって、褒められはしないのに、1度の失敗で凄く怒られることだってある。そんな社会でも、お金を稼ぐために、家族を支えていくために働かなくてはならない人がいる。
コロナウイルスが怖いのに、一生懸命働いてくれる人がいる。
ゼフィーさんが来てくれて本当に助かっている。
僕が副店長になって思ったのは、バイトの子がいないと店は成り立たない。だからこそ、彼らを大事にしなくてはならないということだ。
お客さんに酷いことを言われていたら庇ってあげる。何か困っていたら声をかけてあげる。それは、僕が前の店長に託された、副店長としての仕事だと思っている。
「村松電話だ」
「ありがとう、すぐ行くよ」
こういうことは最近よくある。
マスクがあるかどうかの確認の電話だろう。
「ゼフィーさん、ちょっとレジにいてくれますか?何かあったらすぐ呼んでください」
「わかった」
ゼフィーさんは、あれから接客もうまくできるようになってきた。
これなら、天界に帰っても自信がつくだろうと思える程に、成長していた。
「もしもし」
電話に出ると、向こうで来店のチャイムが鳴った。
ゼフィーさん、あれから一人で接客こなしていたし、俺がいなくても大丈夫だろう。
電話はやはりマスクの在庫の件だった。
マニュアル通り返事を返していると、、向こうが少し騒がしいような気がした。
幸い、すぐわかってくれる人だったので電話を切り、すぐにレジの方へと向かう。
「おい!マスクはないのかよ!どうせ店員が買い占めてんだろ!!」
「も、申し訳ございません・・・マスクは、在庫切れでして」
ゼフィーさんが、マスクをしていない40歳くらいの男性客に怒鳴られていた。
僕は急いでゼフィーさんと一緒に頭を下げる。
「大変申し訳ございません」
「お前ら店員はマスクしてるだろ!どこで買ったんだ!ここで仕入れたマスクはどうせ店員が買い占めてんだろうが!!」
ゼフィーさんは、僕の隣で涙をこらえて震えていた。
僕は、彼の背中に手を添えてすぐに背後に下がらせた。
「また在庫が入り次第ご来店いただければと思います」
「いつ入るんだよ」
「それがまだ未定でして」
「未定だとぉ!?お客様は神様だろうが!」
「ええ!!」
振り返ると、ゼフィーさんは、素直にびっくりして両手で口を押えていた。
「神様なのぉ!?」という顔をしている。
「何でお前ら店員が得して俺たちがマスク買えねえんだよ。ふざけんな」
「お客様の不快なお気持ちには、私どもではおわびする以外にお応えする方法がございません。大変申し訳ございません」
「ぼ、ぼくの至らない対応で、お客様を不快にさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
僕の横から、泣きながらゼフィーさんがまた頭を下げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
返事はない。
顔をあげると、男性は大きく目を見開いて驚愕した表情でゼフィーさんを見つめていた。
そして、一瞬目を潤ませると、くるりと背中を向けて、
「合格」
一言だけぽつりといって去っていった。
なんだったのだろう。
俺とゼフィーさんは顔を見合わせた。
***
ゼフィーさんは、最終日。
僕に何度も頭を下げてにっこり微笑んだ。
「台風を起こしてほしければいつでもいってくれよ村松」
「ありがとうございます。気持ちだけ受け取っておきますね」
俺は笑顔でそう返した。
ゼフィーさんが退職していった後、俺は張山さんに聞いた。
「どうして俺に彼を預けたんですか?」
「あぁ、彼が面接に来た時、たまたまバイトの子がお客様に怒られていたんだよ。俺はすぐ間に入ったんだけどさ。それを見た彼は酷く怯えていて、あんなことが毎回あるのか?どうして同じ人間なのに、透明の向こう側にいる奴は偉そうなんだとか、店員は奴隷なのか?とか」
「そうだったんですか」
「あぁ、この子は怒られることに酷く恐怖心を抱いているんだなってその時思ったんだ。だから、俺は村松君がいいかなって思ったんだ」
「どうしてですか?」
「部下に優しい人間というのは大体仕事で沢山怒られてきている人だと俺は思っている。君はバイトの子たちにも人気があるし、何より優しいからね」
「ありがとうございます・・・」
張山さんはにっこり笑って俺の背中をたたいた。
張山さんの前の店長も、張山さんも怒らない。むしろ優しくて、こうして褒めてくれる。
俺は、こういう人たちの背中をみてこれからも色々学びたいと思った。
本日も読んでくださりありがとうございます。
作者は最初の就職先がブラック企業で、その次のスーパーで働いた時にこの深夜のコンビニを書き始めたわけなのですが、中二病で「人間は愚か・・・故に嫌いだな」といっていた頃が懐かしいくらい接客業で人間が大嫌いになってしまって、近くのスーパーに就職したばかりのとき、今作のゼフィルス君状態で「怒られないようにしないと」「迷惑かけないようにしないと」ばかり考えて俯いてずっと震えていました。
スーパーで初めてミスをしてしまって、申し訳なくて泣きそうになったら「誰でもミスくらいするわよ」と笑顔でいってもらい、周りの人も「珍しいじゃん大丈夫?あたしなんかねえ」なんていって昔の失敗談を話して励ましてくださったりして、生まれて初めて仕事で優しくしてもらってロッカーで「どうして私なんかにそんなに優しくしてくれるの」と泣いたのを覚えています。
今でも過去の仕事のことはフラッシュバックして眠れなくなりますが、そういうのを乗り越えて生きていかないといけませんね。今はとりあえず好きなことが家でできて楽しいです。いつか小説を書いて生計を立てられるようになりたいなと思っています。頑張らないとですね。