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No.2:マインドコントロール

付き合ってから三週間ちょっとたつ。

言いふらかすのではなく、だからと言って隠し通すわけでもなく。知られちゃったら知られちゃったでいいんじゃない?的な状態の私と彼。友達に知られた。一緒にいることは多いわけではない。知られない可能性の方が多かったけど。

「いつのまに」「どういうことよ」「聞いてない」の質問攻めにあいわたしの気分はやや下降気味だった。ばれたのがショックなわけではない。ただあまりにもしつこいので受け答えするのが疲れただけだ。

人間、色恋話になるとここまでも活力を生み出せるものなのね。女子高生をあなどっていた。これ私の反省文。一番疑問に思われていたのが「あんたあいつのこと好きだったの?」ってことだった。そう問われると「いや」とか「あの」とか戸惑った反応しかできない。

なぜならば好きなのかどうかすら謎なのだから。付き合うことになった日、寄った飲食店で「どうして付き合おうだなんて思ったのか」という質問に「いつか教える」と言ってしまったわけだが実のところ言う気などさらさらない。

ここは乙女チック全開モードで『最初は何となくで付き合っちゃったけど、一緒にいるうちに貴方のこと好きになっちゃって今ではもう貴方以外考えられないの……』……………という寝言は寝て言おう。自分で思っておいてゾッと鳥肌がたった。恐るべし乙女の妄想。これを自分が言ったとなると尚気色悪さに磨きがかかる。

先ほども言ったように真実を言う気など私にはみじんもない。どっちかっていうと最終的に「好きだった」と嘘をついてしまうかもしれない。でも彼はそこまで追及してこないからこのまま言わずに終わっていくかもなぁと思った。別にいいけど。


「あーダメダメ、そんなネガティブシンキングなこと考えちゃ!」

「だって別れても私きっと何とも思わない」

「それあいつに言ったら怒るよ?言うなよ?」

「言わないよ」


自分から付き合おうとか言っといて自分から別れようだなんて自己中心的なこと言えるか。どんだけ偉い御身分だ私は。


「でもあんた少なくとも自分から別れる気はないんでしょう?」

「まぁ」

「がんばって捨てられないよう彼をがっしり掴んでおきなさい!」

「えーと、何で別れるのかもとか言う話になってるんだっけ……?」


少なくともそんな気配はない、と思う。のは私だけだったのか。友人がいきなり「ああぁ!ちょっとあれ見てよあれ!」声を出して叫ぶものだから他のみんなと一緒にそこへ注目した。校舎の外、そこには私の『彼』が。しかも他の女の子とわやわや。

何人かは気まずそうに私を見るが、何人かは興味津々の様子でその光景を眺めていた。正確に言うと彼一人と女の子一人ではない。他の男友達合わせて計三人と女の子四人である。それを窓越しに目をすっと細めて見る私に一人の友達が勘違いをしたのか「気にすることないよ」って言ってきた。気にするって何を?ただそう思った。残念ながら、私は彼に群がる女の子たちに『嫉妬』という感情を持ち合わせたことがない。

気にしたこともない。ずきずきと心が痛んだこともない。あるがままの光景をあるがままの私で受け入れた。本当に、どうしたことやら何とも思わないのだ。ここで嫉妬の一つや二つすれば可愛いものを。

集団でその光景をじっと見ていたのか伝わったのか、彼がふいに上を向いて私と視線があった。にこって笑って軽く手を振ってきたから私も同じように軽く手を振った。彼の周りにいたみんなも合わせて上を向いて、何人かの女の子たちと目があった。私は普通にそれを受け止めた。







放課後になる。

私は茶道部に入っている。中学のときは青春するべし!と進んで運動部に入ったものの、文化部に入った友人と比べ運動部に入ることのしんどさを知ったのでそこまで体力があるわけでもない私は高校に入ってから比較的楽をするため文化部に入った。茶道部なんて柄じゃないが入ってみればお茶のたてかたとか運び方とか知ってて損はなし。

彼と帰る日は毎日ではない、お互い時間が合う時。一週間に一、二回多くて三回。今日は一緒には帰らない。茶道部が終わって教室に鞄をとりにいったところで自然と足が止まった。話声が聞こえる。

何だろう、何だか今は入らない方がいいんじゃない?って声が天から聞こえてきた気がした。ついに私にも天のお告げが聞こえるようになったのか。


「淳也さー付き合ってる奴いたなんて俺聞いてない」

「あたしも今日知った!吃驚したし!」

「隠してたの?」

「いやべつに、聞かれなかったから言わなかっただけ」

「またお前から告ったの?」

「いや、あっちから。それはもう唐突に」


いやーそれについては何と述べていいやら。彼が苦笑したように言うのを聞いて私も苦笑した。本当にあれは唐突だった。しかも授業中。せめて放課後に後回しさせとけばよかったかな。でも放課後だとその時ふと思った感情がすでに醒めきったものに変わっていたのではないかと思う。私単純だから。


「でも何でオッケーしたの?あんたあの時ほかに好きな人いたじゃん?」

「あーいたいた。鈴音ちゃんね」


懐かしむような彼の声に私の心臓は相変わらず反応なし。いやそこ反応しようよ。傷つこうよ。呆れさえする。それにしても好きな人が居たとな!それは初耳である。


「結構惚れてたんじゃないの?『今度は本気だ!!』とか意気込んでたじゃない」

「ぶっ、確かにそんなこと言ってたな、俺!」

「そうよ。それに鈴だってまんざらじゃなかったんだからね!あんたが付き合ってるって聞くと、きっとガックリよ!」

「あ、マジで?嬉しいなそれ」


ふざけたように笑う話声が聞こえてきてうわーどうしようこれ教室に入れねーと焦った。なんだかこのまま談笑が長々と続きそうだ。早く帰りたいが財布もバスの定期も鞄の中。そしてその鞄は教室に。

うーんと悩んでいる私の後ろにまさか人がいるとは思わなかった。「あんた何してんの?」急な呼びかけに私は「うひゃぁ!」と悲鳴をあげてしまったと口元を押さえた。がもう遅い。

後ろには一緒の茶道部の友達がいた。私が一人で教室に帰ってきたのは今日は友達が茶道室の掃除当番に当たっていたからだ。どうやら掃除は終えたらしい。一瞬教室の方がしんとなったのも気づいた。に、逃げようか。


「ほら何してんの、鞄もってさっさと帰ろ?」

「う、うん」


背中を押されて嫌々教室に入ると彼とその他のみんなが一斉にこっちを向いた。非常に居づらい状況である。はよ帰ろう。教室に入ってしまいどうてもよくなった私は表情を崩すことなくポーカーフェイスで自分の鞄をとった。教室の入り口で友人が待っている。

自然と彼の横を通り過ぎることになり、通り際に「じゃあね」と言って微笑んだら彼は眼を丸くして口を開いた。


「え、茶道部ってこの時間帯に終わるの?早くね?」

「今日は顧問の先生が出張があって早めに終わったんだ。じゃ、帰るね」


再びバイバイと言おうとしたら机に座っていた彼はガタリと音をたてて机から降りた。そのまま自分の鞄を掴むと私のところへくる。


「じゃ、折角だし一緒に帰るか!」

「は、でもみんなと談笑しててかまわないのに」

「いいよどうせいつもしてるんだし!」


にっこり笑って言われると断れるはずもない。「はぁ」と相槌のようなものをうってでも教室の入り口には友達がいることを思い出したのでそっちを見ると「先帰るわぁ〜」と実に絶妙なタイミングでその場を去っていった。気をつかってくれたのかもしれないがありがた迷惑である。

「行くぞ」と手を引っ張られてしぶしぶ一緒に廊下を出た。しかしさっきの話を聞いていたのがばれているのならこの状況はいささかまずいもの。彼は気づいているのだろうか。それとも、


「さっきの話し聞いてた?」


どうやら気にしているようだ。顔が「やっべまずった」っぽい表情になっていてちょっとおかしかった。そしてここで聞いてないよって嘘ついたところで何になるのだろうと思った。嘘をついて彼を許し、そして結果何が残るのだろう。もしこれからもずっと同じようなことを許していくと彼は一体どんな人間に成り変っていくのだろう。まぁいつかは離れるだろう私には関係ない。関係ないのだが、


「聞いてた」


声のトーンを下げていかにも不機嫌です的な声音。人間経験を積まないと世間をうまく渡ることができないわけよ。それが私の出した結果。あえて言うならば自己満足。嫉妬はこれっぽっちもしてないけどさぁ慌てるがよい!私の中の悪魔がニヒルな笑みを浮かべて叫んだ。

案の定彼は少し慌てた。私はそれを楽しむことにする。


「いや、でも今は何とも思ってなくて!」


嘘だと思った。好きな人、そんなに簡単に諦められるならそれはきっと好きな人じゃない。さっき聞いたけど『今度は本気だ』って言ってたんでしょ。多分彼は今でもその彼女を自然と目で追いかけてしまうだろう。

慌てて言い訳する彼に私はついに「くっ」と笑いをかみ殺しきれなくなって声を漏らした。呆然とする彼。


「あっはっは!別に全然気にしてないからいいよ!いいねぇ、青春だね。青い春だね」

「オヤジ臭いこと言うな…」

「ふふ」


口元に手をやり笑う私を見て彼はじと目で見てくる。それすらも笑える。ふぅ、と私は気持を落ち着かせた。


「あんたが誰を好きだろうと気にしないよ。別に縛ろうだなんて考えてないし、私そこまで独占欲強くないし」


正確に言うと全く独占欲がないのだけど。


「好きにしていいよ」


結局彼と私を繋ぐのは単なる「彼氏」と「彼女」という人と人との関係の名前だけで他にはなにもない。縛る理由もない。もともと付き合ったのもお互い気まぐれだろうに、ほんのお遊び程度なことなのだ。

だからきっと彼が誰と浮気しようが、彼が誰から告白されようが、彼が誰を好きになろうが私は何も思わないだろう。何もきにせず普通に別れるのだろう。

彼はちょっと吃驚したように私を見て、そう、と答えた。少しさびしそうに見えたのは私の気のせいなのだろう。そもそも辺りももう暗い。廊下も薄暗い。影に隠れる彼の顔などはっきり見えないのだから、きっと気のせいだ。


人はその関係を持ちながらも、一切束縛されない自由な身となると一体どうなるのか。そこでその関係の名は一体何を意味するものになるのか。

私はふと虚無な笑みを作って瞼を閉じた。

ああなんて、無情。










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