ブレイブ・オア・フール
「あーあ…。私は平和が好きなのに、私の手は悪いのを好んでる。
誰かがこの冷たい手を…握ってくれたら良いのに」
ヤケクソだ。
もう、戻れないんじゃないか…。
その不安が彼女を追い込んだ。
勝手に異世界に連れ込まれて、戻れない。
その上、命を狙われるという不条理。
これが1人の女子高生への仕打ちか。
彼女にも原因があるとは言え、残酷である。
その残酷な運命は、彼女の心をよりドス黒い残酷なものに豹変させようとしていた。
「握ってなんか、くれないよね…」
俯く。
天を仰ぐ腕には、流れ続ける魔力しか感じられない。
その魔力は、どんなに熱くても芯が冷たい。
「───おッと、この世界を壊すつもりか?」
「ッ!?」
瞬間───
殺気を感じ、飛び退く。
「…ウソ…さっき殺した筈なのに───」
「は?そういうオーバーリアクションは要らねぇよ」
勇者が生きていた!
いや、違う!
「お前がさっき相手にしてたのは勇者でも何でもない。
俺の作り出したフェイクだ。魔法使いも勇者もクソもねぇ。
この城に乗り込んできてテメェが始末した奴等は全員フェイクなんだよ。
…つっても、本物との差はあまり無いがな」
フェイク!
この勇者は初めから一人だった!
本物にしか見えない勇者たちを城に送り込んでいたのだ!
しかし何故!?
彼は言った、本物との差はあまり無いと言った。
ならば何故!
フェイクの勇者一人でも城を攻略出来ただろう。
つまり本物の勇者の底知れぬ実力を何故発揮しなかったのか!
彼女は疑問に思った!
「おい、テメェ。俺が何故こんな回りくどいことをしたか分からないって顔だな。
良いよ、教えてやる」
「………ッ」
「め・ん・ど・う・だ・っ・た・か・ら♪」
「めん…どう…だった…?」
「おオォーッと!?剣道と勘違いしてるんじゃねぇぜ、区切る場所が違うだろーが。
面倒だったんだよ、一々勝ち確の戦やるほど面倒なことはねぇからな」
「…何…言ってるの?」
「俺は苦労せずにこの力を手に入れた。
そしてこれからも苦労はしたくない…。良いか?人間なんてのはそんなもんだ。
おオォーッと、俺を非難するなよ!?
俺はテメェを殺せば生き返ることが出来るって聞いたから楽チンルートでテメェをブチ殺すことに決めたんだよ」
「ふざけないでくれる?
私はまだ死んでないし───(さっきまで諦めかけてたけど)
アンタみたいな態度が個人的にムカつく…。
悪いけど、死人のために殺されるのは勘弁ねェ…!」
「あーうるせぇ。大体軽々しく魔王になった奴が俺にそーゆーことを言え──」
───隙アリ。
勇者は呆れたような顔をする。
溜め息を吐き目を閉じた瞬間、その顔面に強烈な一撃が食い込んだ。
多分、それでも平気なんだろう。
散々偉そうにしてるのだから、この程度でへこたれてもらっては困る。
「痛ェな───人の話遮ってんじゃねぇよ社会不適合者…!
テメェ、そんなんで社会人になれるワケがねぇ。やっぱここで死んどけ…!」
そうなるか。
拳を握り締める。
相手は剣を持っていて、多分腕力も互角くらいだ。
だったら、先手必勝!
先手でブチ殺せばそんなものは関係ない!
そう、相手は死人だ。
───やってやれ。