インド人の現在昔話
きょーう、きょうの事でした。
在るところにインド人がおりました。
そのインド人は、小さい頃『黄金の国』を旅するという夢を見事に叶えて、今はある小説家が昔そこを理想郷と呼んだ場所に、脚を運んでおりました。
「オー、ここが水産市場というヤツですか?」
そこでは、新鮮なタコやイカなどが所狭しと売られておりました。
その中でインド人の興味をことさら惹くものがありました。
「オー!? 何ですか!? これは!?」
それは牛乳瓶に入ったウニでした。
目を丸くするインド人に店の主人が話しかけてきます。
「お!? 何だい、兄ちゃん! そんなにウニが珍しいのかい!? ……って、インド人じゃねぇか!!」
店の主人は相手がインド人であることに少々緊張してしまいます。
「だ、だんけしぇーん?」
「ア、日本語大丈夫デース」
店の主人は相手が日本語が大丈夫だと知ると、ホッとします。
「日本語OKなら最初からそう言ってくれよ……。所で兄ちゃん、さっきからウニをまじまじと見てるけど、そんなに珍しいかい?」
「ア、いえ、ウニが珍しいのではなく、ウニが牛乳瓶に入っているのが珍しいのデス」
インド人はそう言うと、さらに言葉を続けます。
「この牛乳瓶には、水も一緒に入っているみたいデスがウニが悪くなったりしないンデスか?」
「ははは……、面白い事言う兄ちゃんだな! 一緒に入ってんのはただの水じゃねぇ、海水だ。生ウニと一緒に入れる事で、美味しさが保たれるって寸法だ!」
「……ナマウニ……? カコーウニじゃ無いンデスか?」
「勿論だとも! ……おおそうだ、折角だから一口食っていきな! 遠いところからはるばる来たんだ! 遠慮すんな! 俺のおごりだ!」
店の主人はそう言うと風のように店の奥に消えたかと思うと、お皿を手に持って、瞬く間にインド人の前に戻って来ます。
「さあ、遠慮しないで食ってくれ!」
店の主人は持ってきた皿に、牛乳瓶に入ったウニを海水ごとぶちまけます。
その光景に若干インド人は引きぎみになります。
「ア、あの、醤油は無いデスか?」
「ああ、これは海水で既に塩味がついてるから、醤油何か無くても充分、美味しく頂けるぜ!」
インド人は半信半疑でしたが、思いきって生ウニを食べてみることにしました。
「い、イタダキマース……」
そして、口に含んだ瞬間……生ウニの甘味と海水の塩味が絶妙に絡み合い、それがインド人の舌を刺激します!
「と……とても美味しいデース!」
「そうだろう! そうだろう!? どうだい? 土産に一つ買っていきな!」
「あ、買うのはマタ今度にシマース」
「何でだよ!?」
生ウニを堪能したインド人は店の主人に別れを告げると、再び旅を続けるため、南に向かって脚を運びます。
「サテ、今度はどんな珍しい物にお目にカカレルか、楽しみデース」
これからインド人はどこへ行くんでしょうか?
それは誰にも解りません。
……駄目じゃん。
前書きの扉絵は秋の桜子様から頂きました!
ありがとうございます!!
本文中の挿し絵は、雨音AKIRA様から頂きました!
ありがとうございます!!