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行ったこともないような街中を走り周っているとある一軒家に目がいった。豪邸やボロ屋といった感じではなく、よくある一般的な白を基調とした家。なのになぜか目が離せない。なぜ懐かしい感じがするのか、なぜ見覚えがあるのか、なぜ見つめていると悲しくなるのか確かめたくて私は迷わず足を進めた。
鍵は掛かっていなかったのでそのまま開けて入る。玄関に40代前半ぐらいの女性が立っていた。
「×××、お帰り。」
私に嬉しそうに笑いかけている。見たこともないはずの人なのに何故か急に胸が熱くなって、目からは大粒の涙が溢れる。涙が止まることはなくわんわん泣いた。そして私から出た言葉は“ごめんなさい”だった。
パチッと目を開く。そこにはいつも見ている見慣れた天井。ほっと安心して息をつく。
手を目元に持っていくと涙で目が濡れていた。パジャマでゴシゴシとぬぐい、上半身を起こす。
今日あの夢を見て私は思い出してしまった。前世の記憶を。
昔の私はまだ高校生の時に死んでいて、原因は母親とちょっとしたことで喧嘩し、家を飛び出した時に車に引かれたこと。多分即死。喧嘩した事を後悔して、謝りたくてあんな夢を見たのかな、なんて思う。
思い出に浸っているとコンコンとドアをノックされメイドが入ってきた。
「クレア様、着替のお手伝いで参りました。」
あ、もう朝食か。お腹すいてないし行きたくないなー…
「なりません。」
「えーでも…っ!聞こえてたの!?」
「はい。」
まじかー…にしてもここに使えているメイドさんはみんなまるで機械みたいだ。
おっと、また聞こえちゃうかもだからさっさと着替えよっと!
「クレア、遅かったわね。」
「すみません。お母様、お父様。」
食事をする為に部屋に入ってきて早速お母様が言葉を発する。早足で急いで席につく。
「そういえば、今日はユーリ王子が家に来るんだった。うっかりしてたよ。」
とお父様が言った。
ユーリ王子…?誰じゃそりゃ。
「もう、あなたったら!こうはしてられませんわ!クレア!着替えてらっしゃい!」
「え、でもまだ食べ中…」
「いいから!行ってきなさい!ライ、ルイ連れて行って。」
「「かしこまりました。」」
そのまま私は連行されて行った。
きつくコルセットを締められながら私はメイドさんに聞く。
「ねぇ、なんで王子が来るってだけでこんなに着替えさせられるのかな。」
「クレア様をユーリ王子の婚約者になさる為だと思われます。」
「婚約者かぁ…婚約者!?」
「はい。」
「私はまだ7歳だし、王子も勝手に決められたら嫌だよね!?」
「ユーリ王子も7歳です。この国では政略結婚が貴族や王族の中では一般的です。」
「そんなぁ…」
あ、そうだ!王子から嫌われたらいいんじゃない!名案だよ!
じゃあ王子との婚約阻止は嫌われるような事をするっていうことで決定!
そうなら早めに作戦練らなきゃね!