8,大統領
「JOKERカード…」
杉山と書いた名札をつけている警官の声は唖然としていた。
「菅野が誘拐、いや盗まれたということか。」
近藤の声も小さく力がなかった。しかし、暗く静かなこの地下では声がよく響いた。
「想定内です。彼が動きを見せるということは、弟ということが確定しました。」
Kだけが落ち着いている。いつもそうだ。
「しかしなぜ、JOKERに漏れた?」
近藤はいつも、問いかけるとき怒ったような声だったのだが、今回はおとなしい。菅野がクレイジアンだという事実が相当ショックで受け入れられないのだろう。
「監視カメラをハッキングされている可能性が高いかと。彼なら容易い御用です。」
そう言ってKは近くにあった監視カメラを手に取り潰した。一握りで、いとも簡単に。相当な力があるのだろう。近藤の考えはその程度だった。
「菅野さんがクレイジアン…」
捜査本部の雰囲気はどんよりとしていた。
一時間前
「ガチャ、ガチャ」暗い地下で鍵が開く音がする。
「誰だ?もしや…」
菅野の声のトーンが一気に上がる。
「そう、そのもしやです。怪盗JOKER様のご登場!」
JOKERは続ける。
「今からお前を盗む。いいな。」
そう言って菅野に手錠をはめた。
「何勝手にしてるんですか?しかもどうやって…」
菅野は口ではそう言ってるが、身体は逃げる方へと動いていた。
「おい、エロボーイ。こいつを連れてけ。」
JOKERは奥にいる男に指示した。
「スケベ少年Aじゃありませんでした?本当人使いが荒い。呆れる。」
その男は明らかイヤイヤやっている。
「は?お前の彼女のためだろ!しっかり働け!」
JOKERはそう言い笑ってる。
「はいはい、ちょっとついて来てください。」
男にそう言われ、菅野は牢屋を出た。
「アメリカのWhite Houseからです!」
どんよりとした空気が一気に弾け飛んだ。
「なに?繋げ!」
近藤にそう言われ杉山は急いで繋いだ。
「Hi,Mr.Kondou…」
PCの画面には大統領本人が映っている。彼は英語で続ける。
「こんちには、近藤さん。私が君たち連絡した理由は…わかるよな。」
「はい、わかります。」
近藤はPCに向かって礼をする。
「なぜクレイジアンは全然捕まらん!日本のクレイジアンは少しずつ減っているようだが、他の国のクレイジアンは全くと言っていいほど減っていない。どうゆうことだ!」
大統領は怒鳴っていた。杉山が震える。
「申し訳ございません。こちらもなんとかして…」
近藤が話終わらないうちに、また怒鳴り声が聞こえてきた。
「もういい。FBI本部全員でクレイジアン消滅に動く。本部の方にもそう伝えておく。」
大統領の話が終わった瞬間、Kがマイクをとった。
「初めまして、Kです。」
「おー、君がKか。噂は聞いている。頼りにしてるぞ。」
やっといつもTVで見る大統領に戻った。
「ありがたきお言葉。ですが、私はあなたをクレイジアンではないかと見ています。」
Kの発言にそれを聞いていた全ての人間が驚いた。菅野でも人間でない者も1匹。
「なにを言ってる、K!」
今度は近藤が怒鳴った。大統領は黙っている。
「近藤さん、少し黙っていてください。」
Kは続ける。
「理由は二つあります。まず一つ目あなたはクレイジアン対策秘密本部をわざわざ日本に置いた。自分が居るアメリカではなく。自分がクレイジアンだとバレないために。それともう一つ。なぜ、クレイジアンがあまり減っていないことがわかったんですか?クレイジアンを殺してもそちらには報告しなくて良い約束でしたよね。だから私たちは一切報告しておりません。また、私たちが最近発見したクレイジアンと人間の見分け方、これもあなたにまだ報告していない。しかし、あなたはクレイジアンが減っていないとわかった。これはあなたがクレイジアンだという証拠ですよね。クレイジアンは仲間を気で探れるんですよね。私はFBIを動かす力を持っています。もうそちらについている頃かと。では、また会いましょう。生きていたら…」
PCの画面は落ちた。捜査本部では誰も喋らなかった。
「大統領、いやJorge・Alessandro。あなたには死んでもらいます。」
William・Whiteは大統領に向かい、英語で言い放った。
「おまえまで…なぜ、クレイジアンであることがいけない。人間と同じように生きてきた。いや、それだけではない。私は人間側につき、クレイジアンを倒していった。なぜ…」
大統領の声は震えていた。しかし、William・Whjteは構うことなく言った。
「Kが言っていました。クレイジアンは生まれてきたこと自体が罪だと。あなたの道は死しかない!」
「バン!」扉から五十人近くの人間が部屋に入ってきて、大統領に向かって銃を乱射し始めた。「バキュン!バキュン!バキュン!」いっせいに銃弾が飛び交う。大統領は防ごうとも、避けようともしなかった。クレイジアンの彼ならたやすくできるはずなのに。「バタッ」彼は地面に倒れた。
「あなたが僕の兄さん?」
菅野はJonyに尋ねた。
「ああ、そうだ。俺たちの両親は殺された。そして、俺とおまえは別々に捨てられた。俺は誰にも拾われず、一人で生きた。爺という仲間に助けられたが。で、おまえは菅野さんという人に拾われた。菅野さんもおまえがクレイジアンだということは知らないだろう。ショックだっただろ。」
Jonyは車を運転しながら、話した。
「はい、とても。僕はクレイジアンを殺そうとしていた人間ですから。」
菅野はずっと下を向いている。捜査本部の人間を裏切ってしまったとでも、思っているのだろう。
「でも、なんでクレイジアンは殺されなければならないんですか?みんなから嫌われて。」
一人、後部座席に座る男が体を前に乗り出してきた。
「世界政府だよ。やつらのトップが、人間より能力の高いクレイジアンのことを恐れている。だから殺していく。それだけだ。」
Jonyは一度も後ろを振り向かなかった。ただ、前だけを見て運転し続けた。
「あの…この人は?」
菅野が顔を上げた。そして、後部座席に座る男を見て言った。
「こいつは、スケベ少年Aって言うんだ。こいつはクレイジアンじゃないけど、こいつの彼女がクレイジアン。だから俺に協力してるってわけ。」
後ろで「本当はそんな変な名前じゃないですけどね。」と言っている男を無視して、Jonyは答えた。そして、顔色を変えて続けた。
「覚悟しろよ、おまえら。村瀬、いやKが来るころだ。」
「もしもし、Kです。この電話、盗聴されている可能性がありますので、素早くお願いします。手紙を送れと誰に頼まれましたか?あなたがあの手紙を送ったんですよね。私の字が書けるのは、あなたしかいません。頼んだのが私だと思っているならそれは違います。今回はそのせいで警察の信用がなくなったので結果オーライですが、次回からは気をつけてください。」
「えっ、ちょっと待っ…プープープー」
男二人の電話を盗聴していた静はその記録を保存した。と、ほぼ同時に扉が開いた。
「おかえり。やっぱり村瀬だった…」
静の声は沈んでいた。
「盗聴、聞いてたのか?」
Jonyは冷蔵庫からチョコを一つ取り出し、口に入れながら訊ねた。
「うん、声は変えてたけど。ちょっと調べたらすぐわかった。」
静の答えにJonyは「ああ、そうか。」と頷いた。




