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BAKEMONOz  作者: 本神 竜真
BAKEMONOz
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OVA,スマイルガード~あなたの笑顔を守らせてください~

「爺!ありがとな。」

坊ちゃんの笑った顔が脳裏に浮かぶ。

「遺言はありますか?」

その男は言った。

「坊ちゃんに会ったら、ありがとうと伝えておいてくれ。」


あれは、雨の日だった。私が家に帰ると、全てが奪われていた。家の中は、血の海だった。前へ進めば、進むほど死体の量は増えていった。そして、坊ちゃんを見つけた。「ぐちゃ」何かが潰れる音がした。気づけば、手に持っていた誕生日ケーキと目から溢れた涙が、床に落ちていた。私はその場に崩れ落ちた。パッと、横を見ると、かたちのないケーキが目に入った。ケーキのプレートには、坊ちゃんの名前が書かれていた。あの時、全てが終わってもいいと思った。


警察はまだ、犯人を特定することができていなかった。しかし、私は犯人が誰なのかわかっていた。もしかしたら、坊ちゃんの命が危ないことにも気づいていたのかもしれない。自分を責めた。犯人を殺して、自分も死のうと思った。覚悟はできていた。ナイフを持って犯人のところへ向かった。


そこは、広い地下室だった。そして、坊ちゃんを殺した男は、私が来るのを知っていたかのように、広い地下の一室のど真ん中に立っていた。

「たしかおまえは、大山家のボディガードだったな。」

「ああ、そうだ。」

と、短めに答えた。無駄な会話はしたくなかった。一秒でも早く、この男を殺してやりたかった。

「何をしに来た?まさかとは思うがおまえ、俺を恨んでいるのか?俺たちクレイジアンをどん底に突き落としたのは、大山だ。あいつは殺されて当然だったんだよ。」

男は笑っていた。許せなかった。

「だからと言って、坊ちゃんやそのほかの人たちを殺す必要は、なかったはずだ。」

声が少し震えていた。血管が切れそうだった。

「あいつの泣く顔が見たかったんだよ。それから殺したかった。」

私は右手に握っていたナイフを振り上げた。そして、男に向っていった。


しかし、男は強かった。素手でナイフをつかみ、私を投げ飛ばした。男は、こっちに向って歩いてきた。そして、腹を三発殴られた。私は血を吐き、その場に倒れてしまった。

「残念だったな、人間様よ。人間がこの世で一番なんじゃなかったのかい?まあ、今すぐに楽にしてやるよ。」

男はそう言うと、私から奪ったナイフを振り上げた。何もできなかった。自分の無力さに腹が立った。もっと私が強ければ、坊ちゃんを守れたのかもしれない。もう死んでしまうというのに、頭の中は坊ちゃんでいっぱいだった。男のナイフが、私めがけて飛んできた。

「死んだ。」

そう思ったときだった。上から、ひょっとこの面をかぶった男がやってきた。いや、飛んできたというべきか。その男はナイフを振り払い、坊ちゃんを殺した男を殴った。そして言った。

「おっさん、何してんの?危ないよ。」

身体の力が抜けた。そうとう緊張していたみたいだ。ひょっとこ男がもう一発殴り、犯人の男は、その場に倒れた。ひょっとこ男は言った。

「おまえ何してんだよ?これで俺らの存在が、世間にばれたらどうすんだよ。」

犯人の男は言った。

「仲間が何人も殺された。もう、耐えられなかった。」

犯人の男の目には、涙が溢れていた。

「悪い。おまえもつらかったんだよな。」

そうやって、犯人の男を慰めるひょっとこ男の影は、どこか坊ちゃんの影に似ていた。そう思ったとき、初めて気が付いた。ひょっとこ男がやけに小さい。坊ちゃんと同じくらい、いやそれよりも小さいかもしれない。そして、ひょっとこ男が「俺ら」と言っていたのを思い出した。まさか、そんなはずがない。クレイジアンが人間を助けるわけない。

「話は全部聞いた。おっさん気持ちもわかる。でも、あいつを許してやってくれないかな。」

上から声がした。私の上にひょっとこ男が立っていた。

「許せるわけないだろ。あなたのような子どもに、私の気持ちがわかるわけないだろう!」

顔が赤くなっているのがわかった。そして、殺されるということも。しかし、ひょっとこ男は何もせず、横たわってる私の隣に来てこう言った。

「おっさんの気持ちわかるよ。俺の両親、殺されたんだ。クレイジアンだったから。」

言葉が出なかった。素直にかわいそうだと思った。と、同時に大山家の犯した罪の重さを感じた。現在、クレイジアンの存在を知っているのは、ごくわずかな人たちだけだった。ということは大山家が殺したのかもしれない。その可能性が高かった。しかし、ひょっとこ男はこう言った。

「あ、違うよ。俺の親は、FBIに殺されたから。」

ひょっとこ男は笑っていた。

「人間のこと、憎くないのかい?」

そう聞くと、ひょっとこ男は笑顔で答えた。

「そら、俺だって生き物だし、いろんな感情持つよ。怒り、憎しみ、恨み全部あげてたらきりがないぐらい。でもさ、死んだ母さんが言ってたんだよね。怒ったって、やり返したって何も変わらない。苦しみを耐えたその先に光があるって。だから俺は、そうやって生きていこうって決めたんだ。人間とクレイジアンが共存できる世界を目指して。」

気づけば泣いていた。子どもの言葉に泣かされたのは2人目だった。坊ちゃんの姿と重ね合わせる。やっぱり似ている。顔はわからないが、どこかが似ていた。坊ちゃんも生きていたら、同じようなことを言っていたかもしれない。

「共存か。」

口に出してみた。

「今は無理かもしれないけど、いつかは絶対…」

私は、ひょっとこ男が言い終わる前に自分の思いを声に出した。

「無理なわけないじゃないですか。私にもその夢、手伝わせてください。あなたの笑顔を守らせてください、坊っちゃん。」

私は笑顔だった。この人と一緒なら笑顔になれる、そう思えた。ひょっとこ男は、面を外した。顔が見える。鳥肌がたった。似てる、顔まで似てる。運命だと思った。

「ボディーガードじゃなくて、スマイルガードだな。俺が坊っちゃんだから…じゃあ、爺で。よろしく、爺。」

まだ爺と呼ばれるような歳ではなかった。でも、よかった。嬉しかった。だって坊っちゃんもそう呼んでいたから。あの時もこんな気持ちだったのかな。

「呼び方、爺でいいよな。」

そう言った坊っちゃんの顔が目に浮かぶ。そして、新しい坊っちゃんと重ねる。本当によく似てる。目から涙がこぼれた。

「爺、なに泣いてんだよ。」

坊っちゃんはそう言って笑った。


大山家の人たちが殺されたことはすぐにニュースになり、結局犯人も捕まった。そして、クレイジアンの存在が世間に公表された。人の心を持たないバケモノとして。坊っちゃんはその後、怪盗になった。違法入手した金しか狙わない怪盗JOKERに。盗んだ金は生活費を除いて、全てを寄付していった。私はずっと、坊っちゃんの手伝いをしていた。気づけば、爺と呼ばれるに値するぐらいの歳になっていた。新しい仲間も増えた。そして、坊っちゃんは世界的に有名な怪盗になっていた。


「爺、イタリア行ってくるわ。留守番頼むわ。」

私は、坊っちゃんがイタリアへ行っている間にKの存在を知った。いや、Kの存在ではなく、新たなKの存在に。Kは天才探偵で、今までに多くの事件を解決してきた男。そして「クレイジアン対策秘密本部」に参加することを知った。私はKについて調べ始めた。新たなKの正体をつかむために。

その後、坊っちゃんは新しい仲間を連れて帰ってきた。その男は場の空気を明るくしてくれた。みんなが笑っていた。私も、坊っちゃんも。こんな時間が永遠続けばいいな、そう思った。しかし、永遠には続かなかった。


私は、世田谷区のあるビルへ来ていた。エレベーターに乗り、4Fのボタンを押した。4Fに着き、扉が開いた。そこには男が立っていた。その男は言った。

「計画書を盗みにきたのですか?」

まさか。まさか、ここにいるとは思っていなかった。確かにあの場所にいたはずだった。

「あなたがKだったとは。少しびっくりだったよ。なぜクレイジアンを、坊っちゃんを殺そうとする?」

私は、目の前にいるその男に問いかけた。

「クレイジアンは人間に裁かれる運命なんですよ。クレイジアンは人間に殺されなければならない。JOKERも。おまえはなぜ、そこまでする?あの男の為に。」

今度はその男が問いかけてきた。

「坊っちゃんの命を失わないためだ。もう、後悔はしたくなかった。」

はっきりと、そして力強く答えた。

「自分の命を削ってもか?」

その男はバカにしたような目で見てきた。

「ああ、それが私の生き方だ。殺すのだろう?私を。」

最後まで言い切らないうちに、その男は銃を構えた。そして、黒い服を着た男たちに囲まれた。

「はい、殺しますよ。遺言はありますか?」

その男は言った。

「坊っちゃんは、あなたの正体を知っている。あなたは、坊っちゃんを殺せない。」

力強く言った。でも、少し声が震えていた。やっぱり死ぬのは怖い。

「遺言は?」

その男は冷静に同じ質問をしてきた。

「坊ちゃんに会ったら、ありがとうと伝えておいてくれ。」

私も落ち着いて言った。坊っちゃんの為に死ねるのなら本望だった。でも、一つ心残りがある。計画書の内容を坊っちゃんに伝えられなかったこと。それだけだ。それだけのはずだった。一度死んだ命、坊っちゃんの為に捧げようと決めていた。そう決めていたのに、いざ死ぬとなると欲が出てくる。もっと坊っちゃんたちと一緒に生きていきたかった。

「バンッ!」

私の胸を銃弾が貫いたのがわかった。そしてもう一発、もう二発撃たれた。血が流れている。意識がぼんやりしてきた。Kが立ち去っていくのが見えた。

「K!あなたは、坊っちゃんには勝てない。あなたがどんなに天才でも、坊っちゃんには勝てない。」

最後の力を振り絞って声を出す。Kが振り返った。私は笑って見せた。地面に広がった血の海の色は、私の意識とともに、涙でどんどん薄れていった。

「私は坊っちゃんの笑顔を守れましたか?」





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