6,パフェ
「俊介…助け…」
その部屋に入った彼の目に映ったのは地獄図だった。家具は全て壊され、壁にはいくつかの穴、そして毒ガスのようなものが充満していた。
「JOKERさん!大丈夫ですか!」
Jonyは気を失っていた。当然、俊介の呼びかけに答えることもなかった。
「少し、ほんの少しだけ耐えてくださいね。」
俊介はそう言うと一度外に出た。そして常備してるというガスマスクを着け、もう一度部屋へはいって行った。
「重い…」
俊介はJonyを持ち上げ、外に連れて行こうとする。しかし、先程吸ったWXが俊介を襲った。目の前がくらくらしてうまく歩けない。それどころか、立っている事でさえ苦しくなっていた。WX、それは世界政府が開発した史上最強の殺戮兵器。今現在、WXの存在を知っている者は数少なく、世間には公表されていない。VXの10倍は強い毒で、VXの強化版の毒と言っていいだろう。
「ガチャ」
扉が開いた。
「来るな!」
扉の向こうからやってきた男に俊介は叫んだ。
「えっ…兄貴?」
その男は急いでJonyのもとへ駆けつけた。
「急ぐぞ!」
そう言って男は扉の方へ、Jonyと俊介を連れて走って行った。
「FBIがさ怪盗JOKERと手組もうとしてるんだって。世界政府潰すとか言っちゃってさ。」
加観の目の前にはパフェが100以上並べられている。彼の右手にはそのパフェを食べるためのスプーン、左手には電話が握られていた。
「え、どうするんすか、雪鬼さん。」
電話の相手がしゃべる。まだ若い声だ。
「面白いじゃん、近藤嫌いだし。あ、親父のほうね。だから僕は息子の方につくよ。親子で殺し合いかー、楽しみだね。」
そう言うと雪鬼はスピーカボタンを押した。
「でも、どう…」
電話の相手がそう言いかけたときだった。
「うるさい。殺るよ。今、僕はスピーカボタンを押したの。パフェを食べようと思ったから。でもおまえは僕が携帯を机に置く前にしゃべりだした。悪いと思わないの?」
雪鬼がそう言った瞬間、電話の相手の体が震えた。背筋がゾッとした。殺気が電話の向こう側まで届いたのだ。
「すみません。ですが、いつスピーカにされるかなんて…」
あまりにも理不尽な内容だった。しかし、加観はそれを理不尽だと思うことはなかった。
「なに?僕が悪いの?殺るよ。ホントに。」
今までに理不尽な理由で多くの人を殺している加観にとっては、一人の男の命などとても軽いものだった。いや加観だけではない。この世界政府と関わっているものは皆そうだった。
「すみません。本当に申し訳ございません。」
その言葉を聞きようやく機嫌を取り戻した加観はパフェを口の中へ運ぶ。
「で、さっきなんて言おうとしてたの?」
もう完全に加観の機嫌は良くなっている。さっきまでのことが嘘のようだ。
「あ、はい。SSSのほうはどうされるおつもりですか?」
即答だった。
「辞める。」
そう答えた頃にはもう、パフェを二つ平らげていた。
「しかし、雪鬼さんが辞めると四天王は二人に…」
「うるさいなあ」
雪鬼のその声は決して大きくはなかった。しかし、何か力があった。殺気という力が。
「また僕に楯突くの?ホント君のそういうとこ嫌い。」
「すみません、すみません…」電話の向こうでは相手の男がそう繰り返している。
「まあいいや。で、信長の方はどうなってんの?わざわざ安土桃山から拾ってきたんだよね。」
加観はそう言うと、三つ目のパフェに手を付けた。
「はい、全てうまく行っております。ですが、天下を取らせた後どうするおつもりですか?」
電話の相手は先程怒られてから頭をペコペコしながら話している。
「蜂介は知らなくていいの。僕に任せてよ。それとも、信用できない?」
そう言いながら加観はニヤニヤ笑っている。
「そんなわけないじゃないですか…ではお電話、切らしていただきます。」
「おー、ちゃんと言えるようになったんだ。前まで言えなくて、僕に半殺しにされてたのにね。」
加観は携帯を手に取った。
「あ、は…」
蜂介がそう言いかけたとき、加観は通話終了ボタンを押した。
「ごめん、ごめん。もう切っちゃった。」
もうすでに画面が黒くなった携帯に話しかけるその男は右手に持っていたスプーンを壁にぶつけた。




