5,潰
「こんなとこで…死ねるかよ…」
その部屋一体にはWXという名の毒ガスが広がっていた。そしてその中で必死にもがく男。
「あ゛…あ゛あ゛…」
「19日なのに何にも起きませんでしたね。いやーよかった、よかった。」
のんきな杉山の頭を軽くたたいた近藤は屋上へと上って行った。杉山も追いかけるようについていく。
「何にも起きねえから怖いんだろうが。バカかおまえは。」
近藤はタバコに火をつけ、口にくわえた。
「FBI、なくなるかもな。」
ポツリと近藤はそう言った。
「なんでっすか?なんでいきなり!」
杉山は子供のように騒いでいる。
「勘だよ、勘。でもそろそろかなって。だってさ、クレイジアンの目が赤くなることだって世界政府は、元々知ってたんだろ。たぶんだけどさ、知らねえわけねえじゃん。色々ダメなFBIを見せつけて、潰しても文句言われないように準備してるんじゃねえの。ICPOもそうやって潰されたんだし。最終的には世界政府とSSSの存在を世間に発表することが目的なんだろ。」
そう言って近藤は近くのベンチに座った。
「ですよね。俺ら普通に世界政府とか言ってますけど、みんな知らないんですよね。みんなはICPOをFBIが乗っ取ったからICPOの仕事をFBIがするようになったと思ってますもんね。ひどい話ですよー。それでも、世界政府の直属の部署?になれるからいいと思ってたのに。」
杉山もベンチに座り、一昨日「初めて買ったんですよー。」と騒いでいたタバコを取り出した。
「直属の部署ってなんだよ。」
近藤は少し笑った後、真剣な顔つきになり話を続けた。
「JOKERと手を組むか?」
長く煙を吐き、杉山に訊いた。
「真面目な顔で何言ってんすか。」
杉山は笑いながらそう言ったが、近藤の表情を見て冗談ではない事に気がついた。
「怪盗JOKERが金を盗んでいた相手は、全て世界政府と裏でつながっていた。どの企業も違法に金を入手していたことが世界政府にバレ、世界政府から口止め料として多額の金を払わされていた。まあ世界政府には税金も何もねえから金がねえのはわかるが、全てを合計するととんでもない額になる。裏で何かをやっているのは間違いないだろう。JOKERと手を組み、それを暴く。」
近藤は続けた。
「JOKERは過去、世界政府に親を殺されている。JOKER自身もAceというやつの下で働かせられたらしい。奴隷状態だったそうだ。そのAceという男が一人で世界中の企業から金をかき集めている。そうとうの怪物だ。世界政府とSSS、Aceを倒さなければ、俺らは死ぬ。おまえは知らないと思うが、ICPOは潰された後、そのAceに全員殺された。JOKERと手を組んで世界政府を潰す、俺は悪くないと思うがな。」
全てを言い終えると近藤はタバコの火を消した。
「だから、世界政府は今頃になってクレイジアン絶滅計画なんかを…全てはJOKERを潰すため?クレイジアン対策本部を日本に置いたのも大統領の命令じゃなくて、世界政府のあるアメリカには置きたくなかったから?でも、近藤さん…お父さんが世界政府に…」
結局、杉山は今日もタバコの箱を開けずにベンチから立ちあがった。
「だからか…だから親父はFBIが潰れても俺を世界政府に入れるつもりで…わかった。前長官William・Whiteは責任を取って辞めたんじゃない。世界政府からの圧力だよ。俺を推薦して辞めさせられたんだ。俺が長官になれば、FBIがなくなっても、元長官という建前で世界政府に入れることができる。親父は、いや世界政府はFBIを潰す。確実だな。俺は、おまえを見殺しにしてまで世界政府には入らないぜ。安心しろ。」
近藤は立ち上がり、昨日と変わらない形の月を見上げて言った。




