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BAKEMONOz  作者: 本神 竜真
BAKEMONOz
12/22

OVA,Last Letter~怪盗JOKER唯一の黒星~

「クビだ…悪いな。」

昨日の言葉がまだ耳に残ってる。高校で虐められ中退。バイトでもうまくいかずクビ。もうこんな人生…そう思い、布団にもぐった。太陽がうっとうしい。カーテンも閉めた。完全に私、ひきこもりだ。


「風邪ですね。少し休養が必要でしょう。」

目の前のお医者さんがぼやけて見えた。

「はい、わかりました。」

そう言って席を立った。薬をもらい、病院を出る。周りにはスーツを着た人がたくさんいた。みんなが輝いて見える。私だけ…

「ねえ、そこの美人さん。ちょっと俺らと遊ばない?ちょっとでいいからさ。ね?いいだろ。」

気づいたときにはもう、悪そうな男の人たちに囲まれていた。

「あ、すいません。私は…」

怖かった。虐めの記憶がよみがえってくる。


「おい、来いよ!俺らが遊んでやるよ。」

「かわいそ~。あの子、また男子のおもちゃにされてる。」

「あの子が悪いのよ。誘ってるもん。そんなオーラがプンプンする。」


「おい、来いよ。遊んでやるって言ってんだろ!」

男の人たちに腕をつかまれる。

「やめてください。」

蚊の鳴くような声しか出なかった。そのまま車に引きずり込まれる。手足を縛られ、口にタオルをくわえさせられた。車はそのまま走って行った。


「おまえを明日からここで働かせてやる。もちろん、タダ働きだけどな。飯ぐらい食わせてやるよ。夜は毎日遊んでやるから。」

笑いながら男の人たちは去って行った。最悪な夜だった。でも、もう涙は出ない。乾ききったから?それとも、自分の人生にあきれたから?どっちでもいい。もう死んですべて終わりにしよう。「パリン!」ナイフを取り出した、そのときだった。ガラスが割れ、男が入ってきた。ひょっとこの面をした男が。

「あんた、この店のなに?被害者?加害者?」

ひょっとこが訊いてくる。その瞬間、涙があふれ出た。これ以上ないほどに。

「助けて…」

涙でうまくしゃべれない。それ以上の言葉が出ない。でも、必死に訴えた。助けて、と。

「行くぞ、ついてこい。」

ひょっとこはそれだけ言うと、手を差し出した。私はその手を握った。その瞬間、ひょっとこは私の手を引っ張って、窓から飛び降りた。

「ギァーーーーーーーーーーー。」

思わず叫んでしまった。どんどん落ちていく。地面がだんだん近づいてくる。風で涙が乾く。顔の形が変わりそうだった。そのぐらいの圧だった。地面にぶつかる。そう思った瞬間、ひょっとこに体を引き寄せられた。そして、お姫様抱っこの格好になる。ひょっとこに体を包まれ、ボーっとしていた。気がついたときには地面に着いていた。


「ある程度はわかった。後は俺らに任せろ。」

私は彼に全てを話した。彼の正体は怪盗JOKERだったから。いや、違う。怪盗JOKERだからじゃない。彼の言葉が優しかったから。彼に包まれた感覚が優しかったから。言葉では言い表せない何かが、とても優しかった。この人なら大丈夫。そう思えた。

「あんたはもういいぞ。気をつけろよ。」

彼はそう言って、席を立った。

「わ、私も…手伝わせてください!」

やばっ、言っちゃった。言葉になってしまった。思ってもなかったのに…でも、心の奥深くでは思ってた気がした。今言わないと、心の奥のモヤモヤがなくならないような気がしたから。

「覚悟があるなら、俺たちはいつでもwelcomeだぜ。」

そう言って彼は笑った。


怪盗JOKERの調べで、あの店はヤクザの虎井組が関わっていることがわかった。あの男たちも虎井組の一員だった。でも、虎井組の上は、全国で一番大きなヤクザグループの狂雅会。狂雅会が出てきたとすれば、こちらに勝ち目はない。虎井組だけを潰し、あの店の売り上げを盗む。これが今回の狙いだった。私も精一杯協力した。そしていよいよ、その日はやってきた。


「じゃあ、頼むぞ。」

私は頷き、返事をした。それを見たJはひょっとこの面をつけて、車から出ていった。私はPCの前に座る。PCを立ち上げると、組の中の防犯カメラ、Jの設置した隠しカメラの計50台の映像が画面に映る。PCから爺の姿が見える。爺が映っていたのは狂雅会の方のカメラだった。爺はもう、虎井組に乗り込み、組の一員になっている。作戦を成功させるため、私もキーボードを打ち始めた。Jに教えてもらった、ハッキング。まだあまり上手じゃないけど、Jは上手いって褒めてくれた。

「静、できたか?」

イヤホンからJの声が聞こえる。息を切らしていた。痛々しい銃声や殴る音なども聞こえた。

「そこの扉はできた。それと、その奥も。それ以降は今やってる。」

キーボードを打ちながら、そう答えた。ハッキングしなきゃいけない扉は残り3つ。画面にはヤクザと戦うJの姿が見えた。ヤクザは銃を乱射しているが、Jはそれをかわしながら一人ずつ倒していく。その間に、私はさらに2つの鍵を解除した。あと一つ…

「静さん、狂雅会へ報告終わりました。急いでください。」

PCの横のスピーカーから爺の声が聞こえる。爺は狂雅会に行っていた。虎井組の新入りとして。爺は虎井組がシャブを使ってるという情報を狂雅会へ流した。もちろん虎井組は、シャブなんて一切使ってない。でも虎井組にも、Jが色々仕組んでるからそれがバレることはほぼゼロ。狂雅会ではシャブは御法度なので、虎井組を潰しても狂雅会と戦わなくてすむ。これが今回の作戦。そして今、それが成功する直前まできている。後は、私が最後の扉の鍵を開け、Jが金を盗む。

「静、まだか!ちょっと急いでくれ。」

画面を見ると、Jが最後の扉まできていた。後ろからは、組の男らが追いかけてきていた。

「今やってる。ごめん!」

そう言って、キーボードを打ち続けた。

「ブーブー。」PCから音がなる。画面にはERRORの文字が。もう一度やり直す。しかし結果はERROR、何度やっても同じだった。

「出来ない!どうしよう。ごめん、Jなら出来たのに。」

どうしよう…どうやってもERRORになる。

「静、もういい。今回は引き返そう。」

Jはそう言うが、引き返したら狂雅会が虎井組を潰してしまう。そしたら、もう…

「大丈夫、出来る。待ってて!組の中のPCからならハッキング出来る。」

そう言って車から降りた。

「おい、静!危ないからやめろ!爺が…」

イヤホンからの声を無視して走っていった。建物の中には人がたくさん倒れていた。Jが倒したヤクザだった。だから死んではいなかった。いつ動き出すかわからない。恐怖を振り切って、PCのある部屋へと向かった。次の角を曲がったら着く。そう思ったときだった。

「なんでここに居んだよ、斎藤。」

誰かに足を掴まれた。下を見ると香月が倒れていた。

「また、俺に遊んで欲しいのか?」

香月は笑いながら立ち上がった。香月の頭からは血が流れている。

「香月こそ…なんでいんの…」

声が震えていた。高校の頃の地獄が頭をよぎる。

「俺の親父、この組の若頭だから。」

顔を舐められる。足もガクガク震えていた。「助けて」言えるようになっていたはずの声が喉につっかえてしまう。言葉にならずに消えていく。涙が地面に溢れた。

「静!」

イヤホンからJの声が…いや違った。目の前にいた。

「大丈夫か、静。おい、静を離せ!」

Jは香月に向かって叫んだ。

「おまえが右手に持ってる、そのトランクと交換なら考えてやる。」

香月はそう言って、Jが持ってるトランクを指差した。

「最後の扉は?どうやって…」

最後の方は声にならなかった。震えた弱々しい声だった。

「爺がやってくれるって言っただろ。」

Jの声は、私に呆れているようだった。でも、本当にそうなのかもしれない。私がでしゃばらなければ…私はやっぱり生きてる意味…

「無駄話はいい。早く金をよこせ!まあ、こんなクズ女のために金は渡さねえか。じゃあ、静ちゃんばいばい。」

香月はナイフを取り出した。頬を突きつけた。顔がひんやりする。ナイフの冷たさを感じる。そのときだった。

「金、やるよ。だから静は離せ。」

トランクのタイヤが音を立て、こっちを向かってくる。

「こんなクズ女のために50億?怪盗JOKER、あんたもバカだな。言っとくけどこの女、汚れまくってるから。」

香月はトランクを受け取り、満足そうに静を離した。そしてケラケラ笑っている。

「静は汚れてなんかねぇよ。汚れてんのは、あんたの心だろ!」

Jはそう叫び、私をそっと抱きしめてくれた。目からは涙が溢れた。でも、さっきの涙とは違う味の涙が。

「あっそ。頭おかしいもん同士、お似合いだな。」

香月はそう言って何かを投げた。そして走って逃げた。それとほぼ同時だった。「ウイーン、ガシャン」扉が閉まる。

「爆弾だな。閉じ込められた。」

Jが最後まで言い終わらないまま、それは爆発した。


目が覚めたとき、私の上にはJがいた。私に被さるように。

「J、J!起きて!J!」

私は叫んだ。また涙が…「ポツリ」Jの頬に涙が落ちた。

「うるせぇな、生きてるよ。前にも言っただろ、クレイジアンだって。クレイジアンなめんなよ。」

そう言ってJは、笑って見せた。

「ごめん、私のせいで。初めっから爺に頼んどけば…私なんて、必要ないんじゃ…」

Jは、そう言って俯く私の頭を優しく撫で、優しい声で答えてくれた。

「何言ってんだよ。おまえがいなけりゃ、爺が狂雅会へ行ってからハッキングしなきゃいけなかったんだぜ。それこそバクチだよ。」

「でも、私がでしゃばらなきゃ…」

声の震えを止めようとしても止まらない。でも、今度は恐怖で震えてるんじゃない。涙をこらえようとして声が震えてしまう。

「でも、俺を思って助けてくれたんだよな。おまえの長所じゃんか。今回はそれが裏目に出てしまっただけ。てかさ、全部含めておまえじゃん。良いとこも、悪いとこも。どれか一つでも欠けたら、おまえじゃないじゃん。自分、大事にしろよ。」

Jはニコッと笑った。ピカッと歯が輝く。でも私には、Jそのものが輝いて見えた。


その後、虎井組は狂雅会に潰され、お金を盗むことはできなかった。これが最初で最後の怪盗JOKERの黒星になった。


「俊介くん?もしもし、静。Jのところへ急いで。ワゴン車?スピードカー?あ、ワゴン車なら後ろに救急箱あると思う。あ、うん。それそれ。あとさ、スピードカーって俊介くんのだよね。ごめん、無くなると思う。本当ごめんね。うん、うん。最後に、お願いがあるの。絶対にJを生かして。うん、絶対。お願いね。ごめん、時間ないから切るね。うん、うん、ちょっとごめん。」

俊介くんとの電話を無理やり終わらせ、紙とペンを手に取った。

「Jへ。あなたがこれを読んでいるということは、もう私はこの世にいません。覚えてる?私たちが初めて出会った日のことを。あの頃の私は社会に馴染めず、フラフラしてた。高校を中退し、バイトもクビになり、もう死んでもいいと思ってた。でもあなたは、そんな私に手を差し出してくれたよね。すごくうれしかったよ。私のこと必要だって言ってくれたよね。少しハッキングが出来るくらいで、すごく褒めてくれた。本当はJの方が出来てたのに。本当は、あの頃からJのこと好きだったんだよ。でも、恥ずかしくてとても口にできなかった。だから、Jのために死ぬの、全然いやじゃないよ。私がいなくても泣かないで。泣いてるJより笑ってるJのほうがかっこいいよ。だから、私の分まで笑って生きて。それで、Jの望む世界ができたら、あの世に報告してほしいな。あの世でうまくやっていけるかわかんないけど、私もあの世でがんばる。だからJもがんばって。大好きだよ。さようなら。」


その手紙を読み終えたとき、Jの目から大粒の涙が落ちた。落ち続けた。

「なんで、なんで俺なんかを好きになったんだよ!なんで俺なんかをかばったんだよ。なんで…」

Jはベッドの上で泣き叫び続けた。


手紙と一緒に入っていた手ぬぐいは、ひょっとこのお面手ぬぐいだった。そして、しおりにはこう書いてあった。

「負けるな、JOKER‼︎強くなれ‼︎」


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