9,伝説の書
「近藤さん!結果、結果を見てください!」
杉山は片手に資料を持って走ってきた。
「渋谷事件の犯人、14人全員が人間でした。」
杉山は息を切らしながら近藤に伝えた。
「なに!まさか…予想外の展開だな。発表は?」
近藤は杉山の肩を揺らし、そう言った。
「公表せず…」
杉山は資料に書いてある文字をそのまま読んだ。
「これでよかったのか…」
近藤はそう言いデスクに向かった。PCを見た近藤は声を上げた。
「なっ!」
近藤の声にその場にいた全員が驚いた。
「JOKERが星宝病院の金を盗んだ。そして、募金を再開した…」
近藤は警察からのメールを読み上げた。
「怪盗JOKER!悪人裁き、募金再開!」
「臓器密売発覚!星宝病院、JOKERに裁かれる!」
「難民への募金再開!怪盗JOKER」
11月22日の朝刊の見出しはJOKERのことでいっぱいだった。
「くだらん。怪盗JOKERもKも、始末しなくてわ。そろそろか…四天王の登場も。」
新聞を読む男はニヤッと笑い、そう呟いた。
「ガチャ」とうとうそのときはやってきた。扉が開く音と同時に白い面をつけた男が入ってきた。
「とうとう来たな、K。いや、久しぶりか…村瀬!」
Jonyはその男に怒鳴った。
「まぁ、そんなに怒らないでくださいよ、JOKERさん。」
そう言って男は面を地面に落とした。
「村瀬、なにしに来た。」
Jonyの声はさっきと違い落ち着いていた。
「お話、といったところですかね。」
フッフっと村瀬は笑って見せた。
「あなたが…K。」
菅野は村瀬の目をジッと見つめた。
「菅野さん、お元気そうで。」
村瀬がそう言ってとたん、菅野は村瀬につかみ掛かった。
「落ち着いてください。今日はお話をしに来ただけです。戦うつもりは一切ありません。」
村瀬は続けた。
「JOKERさん、一つお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?もう一人のKに手紙の指示をしたのはあなたですね?」
村瀬は近くにある椅子に座った。
「手紙?なんのこと?」
静たちは手紙のことを知らなかった。しかし、菅野は知っていた。
「そうなんですか?兄さん。」
菅野は椅子から立ち上がった。
「手紙?知らねぇよ、俺は。」
Jonyが菅野に答えた直後、村瀬の声が響いた。
「とぼけないでください!あなたの目的はなんですか?共存は表向きの目的でしょう!本当の目的は…世界政府を潰し、世界を盗むことなんじゃないですか?」
村瀬は最後まで言い終わると、近くにあったアーモンドを食べ始めた。
「なにを訳のわからないことを言ってる!おまえこそ目的はなんだ?」
Jonyは声を上げたが、冷静だった。いや、冷静に見せているようにも見えた。
「私の目的は、新たな世界を創ることです。そのためにあなたに近づいた。あなたの真の目的を知っていたから。」
村瀬は続ける。
「さらに教えてあげましょう。私の創る世界にクレイジアンは必要ない。それは今の政府と同じです。だから、貴方達もいずれ殺します。今は世界政府を潰すために少し手を借りているだけです。」
村瀬の話が終わった後、Jonyは訊ねた。
「で、今日はなにしに来た?まさかそれを言いに来たわけではないだろう。」
「はい、そのとうりです。単刀直入に申します。手を組みませんか?世界政府を潰すために。もちろん、世界政府を潰した後は敵同士ですが。」
「却下。」
村瀬が最後まで言い終わる前にJonyは断った。
「ああそうですか、残念です。では、最後に一つ。私はもともとクレイジアンでした。」
Jonyの全身に衝撃が走った。いや、Jonyだけではなかった。村瀬以外のそこにいる全員がそうだった。
「だから村瀬だけ気を…」
Jonyは、村瀬からクレイジアンではない別の気が感じ取れたことを思い出していた。
「あっ、一つ言い忘れていました。Jacksonに連れて行かれたのは私ではありません。もう一人のKです。まあ、もう一人のKが生きて帰ってくることは計算外でしたけど。生きて帰ってくるということは、私からクレイジアンの気が少しでも流れているということ。完全には人間になれなかったということですね。JOKERさん、お見事な推理でしたね。では、次会うときが貴方の命日ですので。」
そう言って村瀬は出て行った。誰も動けなかった。とてつもない衝撃を受けたときこうなるのだろう。やっと菅野の口が開いた。
「もともと、とはどういう意味でしょうか?」
それは菅野以外の全員が知っていることだった。
「伝説の書、ハートの効果。人間10人を生け贄に必要とする。クレイジアンから人間に変化する。また、月を見ても目は赤くならず、能力は上がらない。しかし、今までの能力が失われることはない。」
静は近くにあった伝説の書の中の1ページを読んだ。
「それでKは人間に…ってことは僕も…」
菅野の声と気分が高まった。次にJonyが答えるまでの間だけ。
「それは無理だ。伝説の書の同じ効果を持つ者はこの世に一人しか存在しないって書いてある。それに伝説の書の効果を使うには、クレイジアン10匹を生け贄にしなければならない。おまえに耐えられるか?苦しかったって言ってたよな。クレイジアンが次々と殺されるのを目にして。クレイジアンはみんなそうなんだ。村瀬は珍しいんだよ。仲間が死んでも、平気でいられる。おまえは、おまえのままでいい。」
菅野はJonyの話を聞いて俯いた。Jonyは静から伝説の書を受け取り、1ページ目を開いた。
「渋谷事件の真相もここに書いてある。」
そう言ってJonyは「クローバー」と書かれたページを開いた。
「クローバーの効果。人間5人、クレイジアン5匹を生け贄に必要とする。目を見た者の行動を操れる。しかし、効果が続くのは24時間。30日に最大15の生物の行動を操れる。30日経てば再びこの効果を使えるようになる。」
全て英語で書かれてあった。静はそれをスラスラと読んでいた。菅野は静に感心した。
「頭、いいんですね。」
菅野に褒められ照れる静。それを見てJonyが妬いた。
「えっ、三角関係っすか?ヒューヒュー。ま、僕には彼女がいるんで羨ましくないですけど。」
3人を見ていた、スケベ少年Aが茶化してきた。ケラケラ笑いながら茶化していると、Jonyに蹴りを一発入れられた。
「いってー、何するんすか。」
そんなスケベ少年Aを見てみんなが笑う。こんな平和な日々が続けばいい。Jonyはそう思った。
「ポツっ」なみだが溢れた。机の上を小さな水溜りができていた。
「しょっぱい…」
彼はそう呟いた。目の前のPCの画面には家族が映っていた。お父さん、お母さん、弟、そしてJony。4人共笑顔だった。これが家族で撮った最後の写真だった。
「J、入るよ。」
静の声がした。Jonyは急いで涙を拭き返事をした。
「あのさ、これ…」
静は持っていた紙を落とした。それてPCの方を見た。JonyはPCの画面を消すのを忘れていた。静はそのPCの画面とJonyの目の赤さに気がついた。静の声はとても優しかった。
「どうしたの?」
そう言って、Jonyに近づいた。そして、抱きしめた。後ろから、そっと。そして、言った。
「私が守る。爺の代わりに、私が。」
Jonyが何かを言おうとしている。でも声が出ない。
「何にも言わなくていい。大丈夫、大丈夫。」
そう言って、そっとJonyの頬に口付けした。




