透明人間になりたい
消えてしまいたい。
誰にも見つかりたくない。
何も聞きたくない。
何も見たくない。
透明人間になりたい・・・・。
「あの腕みたか?ためらい傷じゃねぇ?」
ひそひそ声に反応する私。
聞こえないふりをする。
「クスックスッ」
「バカじゃねぇーの」
私のいつもの日常。
小5の時から毎日こんな日常を送る。
私は高橋未希、今年で中3。
小3のとき転校してきて、いつのまにかいじめの標的にされた。
本格的にいじめられるようになったのは小5のとき。
私が触った物は汚いらしい。
机を大袈裟に離されたり、無理やり私と接触させようとしたり、わずかに触れただけで「バイ菌ついた」と言われ、擦り合いがされる。
給食当番のときは、私が直接手渡すものについて、私に渡される前に我先にととられる。
鞄や椅子を他の男子の物と取り替えられることもある。
これが私の日常。
また今日も長い1日が始まる。
図書室から戻ってくると、教室の雰囲気がおかしいことに気づいた。
あちこちから「クスックスッ」。
「言ったほうがいいんじゃない」。
「気づかねーのかよ」。
私の心は動揺した。
また何かされた。
恐怖が押し寄せ、心臓の音が速くなる。
お腹が痛い。
逃げ出したい。
消えたい。
死にたい。
怖い。
泣きたい気持ちを必死で抑えた。
「今日は合唱コンクールの練習するから、男子は教室に残って女子は廊下に出て。」
先生が教室に入って来るなり、私たちに言った。
私は心の中で、廊下に出るまでは絶対泣かないと言い聞かせた。
歯を食い縛り泣くのを必死で我慢した。
恐怖が私の体を駆け巡った。
(消えたい、死にたい)
廊下に出た途端、「うわぁー」と泣き出した。
一度出た涙は止められなかった。
次から次へと涙が溢れた。
(誰か助けて)
心配した女子たちが「大丈夫?」
「先生に言おうか」等と話してくれた。
私は泣きながらも「大丈夫」と答えた。
大丈夫な訳がない。
今すぐ消えてしまいたい。
死んでしまいたい。
(誰か私を助けて下さい)
今回は私の椅子と男子の椅子がすり替えられたとのこと。
そんなに私は汚いの?
私は人間としてみなされないの?
人間としてみてくれないの?
私をクラスの一員としてみてくれないの?
私はあなたたちと同じ人間じゃないの?
私は何なの?
人間じゃないなら、私はなに?
ゴミ?
どうして?
どうして仲間と認めてくれないの?
どうして人間扱いしてくれないの?
どうして人としてみてくれないの?
どうして私はバイ菌なの?
どうしてどうしてどうしてどうして・・・・。
自宅へ帰った私は、自室にこもり、右手にカッターナイフを握った。
自分の左手首にカッターの刃を当て、スーっと引いてみた。
まっすぐ引かれた線から、うっすらと血が滲んだ。
痛みが心地よく、赤い血を見るとなぜか気分が落ち着いた。
もう一度左手首にカッターで浅く切り込んだ。
また血が滲んだ。
痛みがこんなに心地よいなんて・・・・。
気づいたら私の左手首には何本もの切り込みが連なった。
翌朝、学校へ登校した私は、ワザと切りつけた左手首が見えるようにした。
変な期待をしていた。
自分の手首を見たら、いじめをやめてくれるんじゃないかって。
どこからともなく、ひそひそ声が聞こえてきた。
「なに?あの手?」
「あれためらい傷じゃねぇ?
「自殺でもしようとしたのかよ」
「あいつバカじゃねぇーの」
クスックスッという笑い声があちこちから聞こえた。
こんなことでいじめが止むわけない。
笑っている。
私を見て面白おかしく笑っている。
耳を塞ぎたくなる笑い声。
今すぐ消えてしまいたい。
透明人間になって消えたい。
透明人間になれたら、もういじめられなくてすむ。
ここから逃げ出したい。
跡形もなく消えたい。
透明人間になりたいよ・・・・・。