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オルゴールと銀の弾丸  作者: 緑野くま
第一章  目覚めの先で
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第二話 歯車の城

カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。私はベッドから出ると同時に、不思議な感覚に囚われていた。

「さっきのは…夢…か。」

幼いころの私の夢。何か記憶を取り戻すきっかけになるだろうか。そんな時、サクの声がした。

「姉ちゃん?起きているなら早く出て来いよー。」

こっちは真剣な考え事をしているのに何という呼びつけだ。いや、こっちの状況なんて知らなくて当然か。

そう思いながら私は部屋を出た。


朝食をとった後、片づけをしているとサクが話しかけてきた。

「姉ちゃんは何か用事とかあんの?」

「今日はユリと一緒に調べ物をするんだ。記憶を取り戻すヒントになるようなものとか…学校のこととかな。」

だが私はこうは言ったものの、すでにヒントらしきものは得ている。さっきの夢だ。あの場所に何かあるはずだと、私は思っていた。

特にあのノイズがかかった場所…重要な意味が隠されているに違いない。

「もう9時だな、私は行く。」

「ユリの家…すぐ近くだろ?そんなに急がなくてもいいんじゃねえのか?」

「早いところ…記憶を取り戻したいんだ。皆に迷惑をかけないようにな。」

そう、迷惑をかけてはいけないんだ。あの時もそうだったはずだ。私が何とか心を入れ替えなければいけなかった…はずなのに。

どうしてこんなことになった?…いや、今更気にしている場合じゃない。もうこれは過去のことなんだ。あの日決意したばかりなのに、結局すぐ振り返ってしまうのか。

恥ずかしいな、こんな自分が。何故か笑いがこみ上げる。

サクに怪しまれないように、私は部屋を出ていった。


着替えを済ませて、私は早速ユリの家へと向かう。チャイムを鳴らすと、奥からドタドタという音がした。音の主はユリだった。

「サキ!良かった。それじゃ上がってついてきてっ!」

ユリの言われた通りに私はついていく。そして着いた先はユリの部屋だった。

「一応小学校の卒業アルバムとか、プリクラのやつとか準備したから…よし、早速見よう!!」

そして学校にいる人物(特に同級生)を手当たり次第に確認していく、何ともまあ地味な作業が始まった。

「この人は、今は私達のクラスの学級委員で、この人は…」

ユリが丁寧に説明してくれるが、言われても全く思い出せない。過去の私と親しく(?)していた者も何人か教えてくれたが、さっぱりだった。

だが、過去の私のことを照らし合わせているうちに、よくもまあ、あの性格でも親しくしようとしていたんだな…と感心してしまった。人嫌い寸前のところまでいき、会話すら成立しない者にどうして話しかける事が出来るのだろう…。これも人間の持つ心の力なのだろうか。私はそう思っている。

「どう?サキ。何か思い出せた?」

「いいや。全く駄目だ。あの時に起きた頭痛はおろか、何かきっかけになるようなものが無い。」

「そうかぁ…やっぱり難しいんだね…。」

ユリは落胆しながらそう言った。

いや、待てよ。きっかけ?…そうだ、あの夢だ。幼いころの私の夢。あれに何か意味があるかもしれない。私はその夢の事をユリに話すと、ユリは驚きの表情を見せた。

「オルゴールって…そうだ!サキはね、保育園に通っている頃から、オルゴールの博物館に行くのが好きだったんだよ!まだあそこ開いていると思うし…行ってみる?」

「ああ、そうしようか。何かのヒントが掴めるかもしれないしな。」

私の見た夢とユリの提案もあって、そのオルゴール博物館へと行くことにした。


外に出たとき偶然サクと出会い、彼も行きたいと言い出したため、3人で行くこととなった。

「あそこはさ、俺と姉ちゃんの叔父さんが館長をしているんだぜ。」

「えっ…そうだったのか…?」

「さっきの夢の話で、小さい時の姉ちゃんが『おじさん』って言っていたのは、赤の他人じゃなくてちゃんとした親戚だったんだからだぜ。」

「そうか、成程な…。とりあえず新しい情報は手に入った。ありがとな、サク。」

「えっ!?ああ…まあ…な。」

相当戸惑っているサクを見ていたユリは、ニコニコしていた。何というか…不気味だ。何を思って微笑んでいるんだ?こいつ。

ふと顔を上げると、私の目に飛び込んできたのは、あの石碑だった。その石碑には『オルゴール博物館 歯車の城』とあった。

「毎回思っていたんだけど、ファンタジックだねぇ~。サキ達の叔父さんは。」

「そうか?私は趣味が悪いと思うな。」

その時、サクが何かに気付いた。

「あれ…叔父さんか?」

サクの目線の先を見ると、そこには1人の男がいた。その男は私達に気付いたのか、こっちへと向かってきた。

「久しぶりだな、3人共。咲子は…俺のこと、覚えていないだろうな。」

「私が記憶喪失だというのを知っているのですか。」

「そのことは姉さんから聞いたよ。もう怪我は大丈夫なのか?」

「…大丈夫です。ところで…あなたの名前を教えてくれませんか?」

「そうだったな。改めて、室井(むろい)日向(ひゅうが)だ。よろしくな。」

そうして、室井日向改め私の叔父は、博物館の中へと案内してくれた。


博物館の中は、どこか温もりを感じるようなものだった。そこにはいくつもの箱があり、叔父が「全部オルゴールなんだ。」と言っていた。

「最近はなかなか客が来なくてな…そろそろ閉館しようと思っているんだ。」

「そうですか。もったいない様な気がしますが…あなたの判断だと思いますよ。」

「そうか、そうだよな。…ところで咲子。」

「何ですか?…もしかして、私の雰囲気が変わっているとでも?」

「!そ、そうだ。何で分かったんだ?」

「フフフッ よく言われるんです。ユリや母にも言われました。」

叔父との会話をしていた時に、あのオルゴールの存在を思い出した。私はそのことを話すと、叔父は「分かった。」と言い、どこかに行ってしまった。

「サキの言う通り、ちょっと寂しいかもね。ここ、結構有名な場所だったんだけどなぁ…。」

「時代の移り変わりなんじゃねえのか?これも。どうせ叔父さんもそれを感じていたんだろ。」

「へぇ…サクって意外とそういう考え方するんだ。なるほどなるほど…。」

「な、何なんだよお前。さっきから気持ち悪いぞ。」

そんなやり取りがある間に、叔父が例のオルゴールを持って来てくれた。2人もそれに気付き、会話をやめる。

夢で見た通りのものだと確認したのち、私は蓋を開けた…が

「えっ…?」ユリは呆気にとられていた。

「な…何だこれ…?」サクは目を見開いていた。

「………!?」私は言葉が出なかった。


そのオルゴールには、中身が無かった。


「ど…どういう事?壊れているとか…じゃないよね?」

しばらく続いた沈黙を破ったのはユリだった。だが、叔父がそれに反論するかのように答える。

「いや、それはありえないはずだ。定期的に手入れはしていたし、パーツを外した覚えはない。」

館長本人が言っているのだから、そうに違いないだろう。しかし…このオルゴールは少々不思議だった。

箱の底に歯車の形をかたどった浅い穴が、8つあったのだ。恐らくだが、この中に歯車が入っていたのだろう。

その時、私はその穴の端に何かが彫ってあるのを見つけた。そこに刻まれていたのは…『Green』そして 『Elf』?

「…うがっ!?」

突然私を襲ってきたのは、頭の痛み。だが、あの時よりも酷い!!

「ちょっと!またなの!?ねえサキ!しっかりして!!」

「おいおい…ヤバいんじゃねえか!?」

「まさか…姉さんの言っていた…アレなのか…?!」

『アレ』…?『アレ』とは何だ?…まさか!!

「あああああっ!?」

また、私は『何か』を思い出した。



あの夢の続きだった。幼い私は、あのオルゴールの中身を見て、目を輝かせていた。

「わあ、このオルゴールの歯車とてもカラフルだね。」

「そうだろう。赤に青、黄色があるぞ。」

「それだけじゃないよ。(みどり)に桃色、紫と…白と…黒っ!全部で8個ある!!」

幼い私がそう言っている間、叔父はゼンマイを回す。そして手を離した瞬間に音楽は流れ始めた。

「不思議な音楽だねぇ…。」

幼かったから、そんな事を言っていたのかもしれない。今の私には悲しく、そして何故か心から離れない様な…、そんな音に聴こえた。

音楽が終わったとき、突然幼い私の腕がオルゴールにぶつかった。その時にオルゴールの歯車はバラバラと落ちていく。

「ああ…うわああん!!叔父さぁん、壊しちゃったよぉ…。」

叔父は泣いている幼い私をなだめ、その後「大丈夫だよ。」と言いながら、歯車を拾っていた。

「…あれ?」

幼い私が何かに気付く。それは、あの箱の穴の文字だった。

「叔父さん…これ、何て書いてあるの?」

「それはなぁ英語で書いてあるからな…。」

「英語?」

「ああ。咲子が大きくなったら、分かると思うよ。」

「ほんとー?じゃあサキ、大きくなったら読めるようになるっ!」

「おっ、いいな。それじゃあ、叔父さんと約束するか?」

「うん!約束するー!」

幼い頃の私の涙は、いつの間にか乾いていた。



夢の内容が分かった。あの時、ノイズで分からなかった場面も、はっきりと。

気が付くと、3人が焦った表情で私を見ていた。

「咲子、大丈夫か?気分は悪くないか?」

「大丈夫です…。それよりも、また思い出した…。」

「姉ちゃん、記憶が戻ったのか!?」

私は先程の事を全て話した。その時、ユリは何もないオルゴールの中を、凝視していた。

「8つの歯車…。当たり前だと思うけど、『Green』っていうのは色だよね。じゃあ、この『Elf』っていうのは?」

「さあ…分からんな。…!そうだ、叔父さん。このオルゴール…、貸してくれませんか?少しの間だけでもいいので…お願いします。」

私は叔父に向かって頭を下げた。その時叔父は、「まあ顔を上げて。」と言った。

「大丈夫だよ。歯車が無い様じゃ音は鳴らないし、それに…」

「それに?」

「咲子の記憶に繋がる様なら、何か重要なはずだ。…あげるよ、それ。」

「…!ありがとうございます!!」

こうして、私はこのオルゴールを、成り行きで手に入れた。これで私の記憶が取り戻せるはずだ。


私は、そう信じている。

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