第二十六話 目覚め、そして真実
目覚めるとそこは、真っ白な空間だった。
痛みがする…。恐らく、あの一撃がまだ効いているんだろう。だけど…もう私は何も思ってはいない。むしろ…あの一撃がなければ…。
そう思った時、聴き慣れた声がした。
「目は覚めたかね?」
これは…まさか、『Vampire』の声か?ああ、懐かしい。やっと会えた。懐かしき親友に。
「ああ、おかげさまでな。」
私は小さくそう言った。そうすると、『Vampire』はホッと、安堵の表情を浮かべる。
「…全て思い出した。」
私がもう一言そう告げると、『Vampire』は「そうか。」と答えた。
そう、私は全てを思い出した。死に際にある、走馬灯とやらで。私は、自分が何者なのかも思い出した。
私は、こんなところにいてはいけない…。私には、使命があった。果たさねばならないものが…。
そして、『Vampire』が口を開く。
「それでは、教えてくれ。あなたの…本当の名前を。」
そう、これを言わねばならない。…本当に懐かしい、私の本当の名前。
私の名前…それは…
『Angel』
全ての始まりは、確か五年前。私はその時、人々には見えない領域で、『Devil』と戦っていた。
死の概念無き私達にとって、この戦いはある意味無駄といえたのかもしれない。
私にとっては、この戦いは人間でいう、ほんの一瞬だった。
戦いの理由は単純だ。『考えの違い』というやつである。
確か、私が『倉岡咲子』として過ごしていた時、『オルヴェア・キアラン』は人間嫌い、と誰かが言っていたようないなかったような。
だが、それは全くの大嘘だ。というのも…。
千年前、人類の繁栄を妬んだ者たちがいた。それは人類に迫害され続けてきた者である。彼らはある時、人類の繁栄を、陰ながら支えている者がいると気付いた。それが、『境界神 オルヴェア・キアラン』である。
『オルヴェア・キアラン』を封印すれば、少なくとも自分たち幻獣の自由はくるだろう。ざっとこんなところか。その時『オルヴェア・キアラン』に力を認められ、幹部の様になったものがいた。それが例の『歯車の幻獣』である。
歯車の幻獣の大半は、『オルヴェア・キアラン』を封印する為に紛れ込んだ者たちだ。
そして、『オルヴェア・キアラン』は気付けないまま…千年もの間、封印されることとなる。
話を戻そう。私は、人類の繁栄を願ったが故に、『Devil』と戦うことになった。
長きにわたる戦いの末、私は『Devil』の肉体だけは破壊することが出来た。
だが、その後厄介な事が起こる。魂だけが、何処かへと去っていったのだ。私はその後、皆の前に姿を現さない様に、『Devil』の魂の捜索をした。
それから何年か経った頃、ようやく私は『Devil』の魂を見つけることが出来た。だが、これまた厄介な事になっていたのだが。
『Devil』は、他の人間にとりついていたのだ。…そう、そのとりつかれていた人間が、『倉岡咲子』である。咲子は恐らく、『Devil』に肉体の所有権を奪われ、自由に行動できていなかったのだろう。
この時、咲子は『金田美由里』と共にいた。喧嘩をしている。美由里が道路へと駆け出す。とその時、予想外の出来事が。所有権を奪われていたはずの咲子の自身の魂が起動し、美由里をかばおうと走ったのだ。
(今しかない。)そう思った私は、咲子の肉体へと憑依しそして、『Devil』の魂と破壊することが出来た。のだが、タイミングが悪すぎた。魂を潰したその直後、あの事故が起こり、私は記憶を失ったのである。
このタイミングで思い出すとは…。本当に予想外だ。
そういえば、咲子本人の魂は一体何処にあるのだろう。事故が起こる直前は、本人の魂もこの身体に宿っていたはずだ。それなのに…消えている。まさか…『Devil』の魂を破壊した…その衝撃に紛れて…。
考えていると途端おぞましい物を感じた。今度は、咲子の魂を探さなければならないのか?
そう思った時、『Vampire』が話しかけてきた。
「何か気にかかる事でもあるのかね?」
「ああ…この身体の元の主の魂と、私の本当の身体の事だ。…私はともかく、咲子本人の魂は何処にいる?」
そう私が問い掛けた時、奥から誰かが歩いてくる音がした。あの姿は…まさか。
「オルヴェア?」
「そうだよ。…久しぶりだな、『Angel』。」
オルヴェアはそう言って微笑んだ。やはり、この方に訊いてみるしかないようだ。私はオルヴェアに先程の事を言うと、オルヴェアは懐から何かを取り出した。何か発光体の入った瓶だった。
「まさか、それが…。」
「ああ。倉岡咲子の魂だ。」
それを聴いて安心した。と、同時に何か嫌な予感が積み上がる。…私の本当の身体は何処にあるんだ?また、そのことを訊いてみた。
「お前の身体ももちろんある。けどな、もうアレには戻らない方が良い。」
「…ッ!?どういう事だ!!」
「『Devil』の奴、お前の肉体に厄介な呪いを何重もかけていたんだ。多分…ありゃ解けねえな。」
「!!…まあいい。…そうだ、オルヴェア。この世界は…どうなるんだ?」
そう問うと、オルヴェアは意外な答えを出した。
「俺の肉体と魂を使って、復元させる。そうすれば、この世界に空いた穴を全部埋められるからな。」
「なっ…そ、それじゃあ、あなたは…!!」
「ああ、死ぬんだよ。でも仕方ねえ。さっきも言っただろ?穴を全部埋めるって。どういう意味か、分かるか?」
「…さっぱり。」
「お前が戦っていた場所以外にも、あいつらは兵を放っていた。仮にも世界を壊すためだからな。だから、あの人間世界は今崩壊寸前なんだよ。」
「そこであなたが…?」
「ああ。もう神として失格だからな、俺。せめてもの罪滅ぼしだ。」
言葉が出なかった。どんな感情を持てばいいのかも分からない。
私は…この方の元についてから、どの位経った?もう分からなくなる程だと思う。でも、たった一つ思うのは、何度も世話になっている事だ。
肉体ももう使い物にならないといったな…。だったら、私のやることは1つしかない。
「オルヴェア、話がある。」
私はオルヴェアに、あることを話した。
そして、数分後。世界の修復が始まり、一瞬にして終わった。




