第二十五話 青の歯車『Werewolf』
月明りに照らされる、荒廃した街の中。私達は、戦っていた。
どの位時間が経った?時間なんていう概念になんか囚われている暇などなかったが、それでも気にせずにはいられない。暗い中にずっといるとなおさらだ。
戦っている間、絶え間なく鳴っていたのは風を斬る様な音ばかり。それも、全て『Werewolf』の攻撃だ。三対一とはいったものの、優勢なのはそっちの方だ。
月の光が影響を及ぼしているのか(そうだろうが)、『Werewolf』の力はこれまでに戦ってきた者よりもケタが違った。
私はいつもの二丁拳銃。夏美さんは弓で、遠距離から応戦している。
一樹さんの戦闘方法は、いわゆる肉弾戦だった。殴打や蹴りの威力はなかなか強烈なものだった。
だがそれも、『Werewolf』が相手となると赤子同然なのだろう。全く歯が立たない。
もう長い事戦っていたが故に、一樹さんは息が上がっていた。汗の量も尋常じゃない。
「お前らさ、おとなしく投降したらどうだ?そうすれば後は攻撃しねぇよ。」
『Werewolf』が余裕綽々といった風にそういう。その表情は、こちらが苛立ちを感じる程嫌な笑みだった。
「ハァ…お前の狙いは…咲子だろう…。僕達がここで終わると…ハァ…彼女が危ない…。」
一樹さんが息を切らしながらそう言った。そうだ…確かに『Werewolf』は最初こう言っていた。
『やっと戦えるなぁ…倉岡咲子!!』
恐らく、『Werewolf』は上野隊長に変身して、私と戦うチャンスを伺っていたのだろう。
だけど…何故?私は、『Werewolf』と戦う理由がない。何かした覚えはないし、そもそも今回初めて会ったのだ。
何でコイツは、初対面の相手に向かってこんな事が言える?仮に前に『上野隊長』として会っていたとしてもだ。
どちらにせよまあ…倒してから訊くしかない。
私は銀弾を乱射した。案の定、全て避けられてしまったが、その直後一樹さんが後ろから蹴りを入れる。
その一撃が、『Werewolf』の顔を掠めた。
『Werewolf』が、舌打ちした。よっぽど気に食わないらしい。その直後、再び『Werewolf』に襲い掛かるものがきた。一本の矢が、とんでもない速さで遠くから飛んでくる。
その矢が、『Werewolf』の腕に直撃しそうになった。しかし、間一髪のところで『Werewolf』は避ける。だがそれでも、『Werewolf』の片腕から血が流れていた。
「てめぇら…、その女と同じ位厄介だな…。」
そう言った直後、『Werewolf』は両腕を上げた。向いているのは…夏美さんと一樹さん。
「…っ!!やめろおおお!!」
私は叫んだが、『Werewolf』は聴く耳を持たず、構えを続けている。構えた手から出てきたのは、青白く輝く炎が二つ。その炎はやがて、槍の様な形になり…放たれた。
次の瞬間、二つの槍はそれぞれ、二人の身体を貫いた。広場に二人の絶叫が響き渡る。
「ううっ…!!」
私はいつの間にか、呻く様な声を上げた。ああ、声が出ない。そして、私の中で膨らんでいくのはもはや一つだけ。…怒りだった。
「貴様ああああァァァァ!!」
『Werewolf』に突進していく勢いで、私は走った。涙が止まらない。
『Werewolf』が、またあの構えをとった。そして、あの炎が放たれた。
私の身体に、直撃した…。
静まり返る広場。そこで、『Werewolf』は哄笑していた。
「存外呆気ないな。」
そう吐き捨てると、『Werewolf』は倉岡咲子の元へと行こうとした、その時だ。背後に誰かがいるのに気付いた。
振り返るとそこには…彼にとって、見覚えのある男が来た。
「…何しに来た。『Vampire』。」
『Vampire』は静かに答える。
「貴公を封印しに。」
「!?」
その時、『Vampire』は『Werewolf』の首を掴み、詠唱し始めた。『Werewolf』はさっきまで威勢が良かったのが嘘のように、もがき苦しむ。その数秒後、『Werewolf』を、青い光が包み、やがて歯車へと形を変えた。
『Vampire』は一息吐くと、もう一度詠唱を始めた。その時咲子、夏美、そして一樹の身体に異変が起こる。傷があっという間に塞がったのだ。
『Vampire』は三人の治療を終えた時、目の前に魔法陣を作り出した。
「オルヴェア…聴こえるか。」
『おう、任務完了ってとこか?そっち。』
「ああ…。ようやく、彼女を救い出せた。」
『あのバカが…咲子を殺してどうすんだよ…。まあいい。『Vampire』お前今、俺のいる場所が分かるか?』
「ええ、何となく。」
『後でこっちにこい。アレもちゃんとあるからな。』
「それはいいとして、こちらの二人はどうする?」
『Vampire』は夏美と一樹の方へと目線を向けた。すると、『オルヴェア』から返事が来た。
『一応そいつらの言う基地ってとこに連れて行く。こんなところで眠らせていく訳にはいかねえだろ。』
「分かった。お気をつけて。」
『おう。お前もな。』
『Vampire』は魔法陣を消した。そして咲子の身体を抱えて、何処かへと飛び去った。




