第十六話 黄の歯車『Unicorn』
「お前は…周りの人を見た時、敵だと思わなかったのか?」
「最初はもちろん不安でした。でも、攻撃してこなかったので、大丈夫かな…と。」
私とサクは、休憩も踏まえてこの場に待機していた。サクは叔父への報告を終え、持って来ていた菓子を食べている。一方私はというと、ついさっきから『Unicorn』との会話のしっ放しである。かれこれ数十分は経っていた。
「咲子さん…て言いましたっけ。あなたが僕の仲間と一緒にいるんですね。」
「ああ、まあな。成り行き故だ。こんな事が無ければ、一緒にいないのは当たり前だがな…。」
「記憶喪失…大変ですね。でも、どうしても他人事のようにしか思えないんです…。」
「そりゃそうだろうな。はっきり言って、これは私自身の問題だ。手を出そうが出さまいが、結局は自分で解決するしか出来ない。」
「本当に…そうでしょうか。」
何だか変な空気になりつつあった時、突然隊員の「来たぞー!!」という叫び声が聴こえてきた。その隊員の指差す方には…モンスターの軍勢があった。
「おいおいマジかよ…。」
サクの落胆するような声が聴こえてくる。まあ、望んでもいない戦いが来られて喜ぶ奴はいないだろうな、今のところは。
「咲子さん、あれは…。」
「ああ、いつもの事だ。…そうだ、『Unicorn』、武器変化は出来るか?」
「ええっ!?あ…出来ると言えば出来ますけど…大丈夫なんですか!?」
「確かに初見ではあるがな。まあ、何とかしてみせる。」
私がそう言うと、『Unicorn』はすぐさま変身した。全身から、光が立ち上っている。
光が治まり、私は目を開ける。そこにあったのは…金色の銃身を持つ砲銃だった。見た目だけでもかなりの重量はあると見て取れる。
私は恐る恐る持ってみた。だが、意外にも構えが取れるくらいの重量だったので少し驚いた。
だが、私はこの砲銃をよく見た時、明らかな違和感を感じた。
「この銃…引き金が無いな。」
思わず出た呟きだったが、その時『Unicorn』がすかさず答えを出した。
『咲子さん。今、右手で持っている取っ手に、それらしい物があると思うのですが…。』
「それらしい?…っ!!」
取っ手を見た途端、それだと分かった。だがこの形状は…細かい部分はそれこそ違うが、一言で言えば、自転車のブレーキの様な形をしていた。こんな事思うのもなんだが、本当にこれで大丈夫なのか?
段々と、モンスター共の唸り声が大きく聴こえてきた。もうやるしかない。私は銃口をモンスターの大群に向け、構えをとる。
真ん中にいた大型のモンスターに狙いを定め、そして…引き金をひいた。
その瞬間、放たれたのは、強烈な光を放つ弾。衝撃音と共に速く飛んでいく。真ん中のモンスターに当たった時、爆発音の様な音が響き渡り、大量の土煙が舞う。私はというと、光弾を発射した反動で、尻餅をついた。
「な、何なんだっ!?」
他の隊員の驚愕の声が聴こえた。まあ、私もここまで強烈だとは思ってもいなかった。油断したか…。
土煙が治まり、やっと視界が開けた。その時目の前にあったのは…大量のモンスターの残骸だった。
「強烈過ぎんだろ…これ。姉ちゃんもやり過ぎだっての。」
サクの呆れた様なツッコミだった。やり過ぎという気は無かったが、それでも反省点はいくつかある事は確かだ。
だがこの武器…扱いこなせれば、さっきの様な集団に向いているのかもしれない。帰ったらまた訓練しよう。
隊長から撤収の命令が出た。私は砲銃になっている『Unicorn』にその事を伝えると、『Unicorn』は静かに詠唱を始めた。
聴こえなくなった時、『Unicorn』は黄色の歯車へと姿を変えていた。
夕方頃、私はあの空き地で、砲銃の訓練をしていた。撃つたびに足が元の位置からずれるのをどうにかしたかったが、どうも上手くいかない。まあ、ゆっくりでもいい。確実に積み重ねていけば、糸口は見えるはずだ。
「ふう…。」
ため息が出た。もうどの位続けていたのだろう。覚えていない。
そう思っていた時、砲銃の姿になっている『Unicorn』が話しかけてきた。
『大丈夫ですか?何だかもの凄く息、上がってますけど。』
「この位何ともないさ。」
『しかし…休息も大切ですよ。そんなに体を動かしていたら、逆に怪我をしやすくなってしまいます。』
「そうか?別に何とも思わないが。」
『まあ…あなたはそう言いますけど、悪い事は言いません。とりあえず、一回ぐらいはしっかり休んでくださいね。』
結局私は、『Unicorn』の強い勧めで、休憩する事にした。木の下に置いておいた水筒を取り、蓋を開ける。中のスポーツドリンクを、ちまちまとだが飲んだ。喉に冷たいものが流れる感覚がする。
ふと、あの時『Ghost』が語った事を思い出した。
不老不死になる薬…。確か、何かの昔話にもそんな物が出てきていた様な気がする。
もし、本当に不老不死の人間がいるのならば、何を思っているのだろう。どうしてそんな身体になる必要があったのだろう。
…何だか、サクの様になってしまった。いけないいけない。私も誘惑に負けない様にしなければ。
自分一人で焦っていると、『咲子さん。』と『Unicorn』が話しかけてきた。私が適当に返事をすると、『Unicorn』はこんな話をし始めた。
『実は僕…探している人がいるんです。』
「人…。何をやったんだ?」
『…丁度、百年前です。僕がまだ『あの方』の配下に付く前なんですが、その時の仲間と一緒に森を散策していたんです。』
「あの方…『Elf』と『Ghost』が言っていた奴か。でも、百年前…か、お前達にとっては随分と最近の話なんだな。」
『はい…僕はまだ新人って言ったところなんです。実際の所。』
話が微妙にずれかけていたが、『Unicorn』が戻す。
『一人の男と出会いました。最初は敵じゃないと思ったのですが…。』
『Unicorn』が話を止めた。いや、ためらっている。あの時の『Ghost』と全く同じ状況だ。
『Unicorn』は口火を切った。だが、その内容はあまりにも衝撃的だった。
『その男は…仲間を捕らえました。それで…こう叫んでいたんです。「遂に…あの秘薬が完成するっ!!」と。狂喜していましたよ。でも…僕はその時…何も出来なかったんです…。仲間が殺されたというのに…!!』
怒りが…迸っていた。無念と後悔。その二つが、きっと彼の中で駆け巡っている事だろう。
私は一瞬話しかけようか迷ったが、勇気を出して訊いてみた。
「その男は…生きているのか?」
『はい…数十年後に、再び出会いました。姿が全く変わっていなかったので、恐らく…不老不死になったのだと。』
「成程な…。で、どんな男なんだ?」
『それは…!!』
突然『Unicorn』が何かに気付き、歯車の姿になった。一体何が…?そう思った時、一人の男が、こちら側へとやってくるのに気付いた。近づいていくにつれて、その男がこの前咲夜を手当てした医者だと分かった。
「おや、あなたは…。咲夜君のお姉さんでしたかね?」
「そうです。先日はありがとうございました。それで…何の用ですか?」
「一部の隊員から聴きましたよ。どうやら、『Unicorn』を見つけたようで。」
「はい、それが何か?」
と、言いかけた所で、医者が白衣のポケットに手を突っ込んだ。そこから出てきたのは…
…スタンガン?
「…っ!?これは…どういう…!?」
「私的な事ですが、『Unicorn』が必要でしてね…ええ。あなたから力づくでも奪わなければならないと判断したわけですよ!!」
その瞬間、私は全てを理解した。恐らく…『Unicorn』の言っていた男はこいつなのかもしれない。あるいは、何らかの形で『Unicorn』の秘密を知り、ここに来た、不老不死の力を欲している者…。
まあただ一つ言えるのは…どちらにせよ危険だという事だ。
私はその場から、全速力で逃げた。




