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オルゴールと銀の弾丸  作者: 緑野くま
第一章  目覚めの先で
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第一話 倉岡咲子の帰宅

私が目覚めてから五日後。晴れて退院する事ができた。

随分と早い気がしたが…。かといって長すぎても迷惑な話だ。

この日は土曜日で学校も休み。部活動があると思ったが、退院直後にすぐに出ろというのも酷な話だ。

とりあえず家に行こう。そう思ったが家の場所すら思い出せないでいた。

じゃあどうすればいいんだ?悩んでいたときに、ユリに声をかけられた。

「ねえ。まずは家に行かないとって思ってた?心配しないでっ。私の家の近くだから。」

そういった後、ユリは私の手を引っ張って歩き始めた。



ユリと私は幼馴染らしい。ユリ本人から聞いた。

保育園に通っていた頃に知り合い、そこから仲が進展していったという。家が近くということもあり、毎日のように遊んでいたらしい。小学生のときも同じところに通っていたと話してくれた。ちなみに先程のユリの発言は、私の考えを見通してのものだったといっていた。いろんな意味で恐ろしく感じてしまったのは気のせいか。

だが、私は話を聴いていて違和感を感じていた。あの出来事…というよりは事故が起きたとき、何故あんなに険悪な雰囲気になっていたのか。気になったので話を聴くと、次のようなことがあったという。

その日は体育の時間があった。といっても、決められた課目を好きなように、無理し過ぎないようにするといったようなものであった。私のクラスでは、仲間外れゼロをモットーに、そういう活動をしていたという。だが…そのときの私はクラスの人達と、まるで慣れ合うなと言っているかのように拒否していたらしい。結局、参加はしたみたいだが、険悪な雰囲気は消せなかったという。

なるほど。要は私は不器用な人間だったのか。思わず吹き出してしまったとき、ユリが「サキ?どしたの?」と不思議そうな目で私を見た。

思っていたことを話すと、ユリは少し笑って話をした。

「そっかぁ、そうだよね。サキは昔のサキを知らないもんね。」

「お前の話を聞いている限りでは、昔の私は相当人付き合いが苦手だったようだな。」

「まぁ…そういうことだね。でも今のサキは、えーと…何て言えばいいのかな…。」

「だいぶ人と話せるようになっている?」

「そう!それ!!あと、かなり男勝りな感じになっているんだよなぁー。」

「フフッ だんだん昔の自分が見えてきたような気がした。」

話が弾んで何分か経った後、ユリの足が止まった。

「着いたよ。ここがサキの家。あの向かいの家が私の家だから、また何かあったら来てねっ。」

そういった後、私とユリは別行動をとる事となる。



さて、ここからはどうすればいいものか。

家に着いたは良いものの、何と言って入ればいいんだ?よく分からない。

とりあえず、「ただいま」とだけでも言ってみるか…。そう思い私は、勇気を出してドアを開けた。

「ただいま」

すると、奥のほうから誰かが歩いているような音がした。そして、姿を見せた。女性だ。

「あら、お帰りなさい。誰が送ってきてくれたの?」

この人は…恐らく私の母親だ。そう予想して尋ねてみると、

「ええ、そうよ。やっぱり…記憶を無くしていると色々と困るものねぇ。」

と答えてくれた。

「そうだ…送ってくれたのは、ユリだった。」

「ああ、ユリって美由里ちゃんのこと?後でお礼しておいたらどう?」

「そうだな。でも今は、自分の部屋に戻っていいか?少し休みたい。」

「いいわよ。それにしても…サキ。」

「何だ?」

「あなた随分と雰囲気変わったんじゃない?前はそんな感じじゃなかったわよ。」

母にも言われたか…。ユリも同じようなことを言っていたが、相当変わっているらしいな。

私はまた母と会話した後、自分の部屋へと行ってみることにした。



なんなんだ、これは。自分の部屋に入った途端、言葉が出なくなった。

部屋は混沌としており、本や服などがあちこちに放り投げてあった。これは酷過ぎる。テレビで見るようなゴミ屋敷と同様のレベルではないか。

なんとかしなければ…。早速そこらへんにある服から畳んだりしまったりし始めた。

よくもまあ、こんな中で生きられたものだと感心してしまう。悪い意味で。

数十分後、ようやく部屋の状態がマシになったころ、階段を駆け上がる音がした。

「サキ。飲み物持って来た…って、ええっ?!」

母はかなり驚いていて、危うく持っていた飲み物がこぼれそうになった。

「大丈夫か?母さん。」

「え、あ、大丈夫…だけど…。本当に、どうしちゃったの?!」

母の話によると昔の私は、部屋の片づけが苦手どころか全く出来なかったらしい。

不器用なのは人間関係だけではなかったか。

そう思うと、笑いがこみあげてきた。

そんな時、落ち着きを取り戻した母が、私に話しかけてきた。

「そうだ。あともうちょっとでサクが帰ってくると思うわ。ちゃんと顔合わせといてね。」

「サク?誰のことだ?」

「ああ、そうよね。まだ教えてなかったわね。サクは、あなたの弟よ。」

そうか、私には弟がいるのか。新しい情報をもらったので「ありがとう。」と言うと母は微笑み、飲み物を机に置いた後、部屋を出ていった。



数分後、玄関から「ただいまー。」という声がした。恐らく私の弟(らしい)、サクだろう。

階段を駆け上がる音がする。サクの部屋はこの階にあるのか。

そのとき、私の部屋の扉が勢いよく開け放たれた。そこに立っていたのは、私と同じくらいの年の少年だった。

「やっぱり。母さんの言ってた通りだ。戻ってくんの早えーな。」

「…お前が、サクか?」

「あーそうだけどな…。俺、本当は咲夜(さくや)っていうんだ。よろしくな。」

ノックもせずに部屋に入ってきたところを言おうかと思ったが、気にせず話を続けた。

それにしても不思議だった。サクを見ていると、まるで鏡に映った自分を見ているかのような、そんな感覚にとらわれた。

鏡に…映ったような感覚…?ああ、理由が分かった。当たる確率は低いかもしれないが。

「サク。一つだけ訊きたい事がある。」

「何だ?」

「もしかして、私とお前は…その…双子か?」

「そうだけど、なんで分かったんだ?」

当たっていたか。それが意外にも驚きを与えるような事実で、一瞬鳥肌が立った。

サクには「なんとなく。」と伝えてはおいた。

…そういえば、もう一つ気になっていたことを思い出し、サクに問いかけた。

「もう一つ訊きたいことがある。父さんは、いるのか?」

そのとき、サクの表情が固まった。その後答えてくれたものの、落胆するような口調だった。

「父さんは…もういない。事故で死んじまった。」

「何…だと?」

「だから俺、姉ちゃんが事故にあったって聞いたとき、目の前真っ暗になったよ。姉ちゃんも死んじまうんじゃねえかって…さ。」

「そうか、すまない。変なことを訊いて。」

「いや、いいよ。どうせ話さなくちゃいけなかったんだからよ。」

そういうと、サクは少し微笑んだ。

私はその微笑みが、愁いを帯びているかのように感じた…。



重い空気が消え去った後、私は再びユリの元へと向かった。

「サキ。どうだった?」

「だいぶ、家族のことについては知れた。良いことも、悪いこともな。」

「そっか。学校のことはまた明日、一緒に確認しよ?」

「分かった。それと、さっきは送ってくれて…ありがとう。」

「どういたしまして。それじゃ、また明日ね。」

「ああ、またな。」

そうして、またユリと別れた。



赤く染まった空の下で、私は思う。

昔の私が、他人を酷く悲しませてしまったならば、今の私がすべて償おう。

今の私ならば出来る。せめて、昔の私に戻ってしまう前に、出来ることはすべてしよう。


もう他人の悲しむ顔は、見たくない。







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