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オルゴールと銀の弾丸  作者: 緑野くま
第三章  欲望の行く末
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第十四話 万能薬

「…それで、お前の方はどうなんだ?ショウ。」

「大丈夫ですよ。簡単な薬の調合も出来るようになりました。これで、医療チームに貢献できればいいのですが…。」

とある日の昼下がり。私は、ショウと久しぶりに出会い、一緒に昼食をとっていた。最後に話したのは何日?何週間?とにかくいつ以来だかも分からない位、久しぶりだった。

ショウは、前記している通り、医療チームに所属している。何でも、彼は幼い頃から医療関係の仕事に就きたいと考えていたらしく、今回のコレに生かしたかったらしい。まあ、こんな歳から熱心に取り組んでいれば、きっと将来、本当になれてしまうのではないだろうか。

「貢献できているさ…、充分な位にな。それにしても、すごいと思う。夢に向かって、ここまで頑張っているのがな…。」

「ありがとうございます。咲子さん。」

ショウはいつまで経っても、私の事を「さん」付けで呼んでいる。構わないと言えば構わないのだが、何だかムズムズする。せめて、呼び捨てで呼んで貰いたいな…。そんな事を思っていた、時だった。

「ぎぃいやあああああぁぁぁぁぁアア!!」

突如として聴こえてきたのは、悲鳴にも似た絶叫。しかも、聴いた事のある声だった。

「これは…サクの声か!?」

「一階からみたいですよ。とにかく行ってみましょう!」

私達は、急いで残った昼食を食べ、部屋を後にした。


階段を駆け下り、一階へと到着する。その時、偶然にも赤羽先生と出会った。

「ああ咲子さん、翔太君…。今のは一体何なの?」

「さあ…分かりませんが、とりあえず、行ってみた方がよろしいかと。」

ショウがそう言った後、私達は再び歩き始めた。それと同時に、何処から声が聴こえてきたのかも段々と分かってきた。

「医療室からか?それにしても、凄い叫び声だな。」

「ですね。しかし、赤羽先生いわく、一体何があったのでしょうか…。」

「あれだけの叫びだ。任務中に何かあったんじゃないのか?」

医療室の扉が見えた。私達はその前に立つ。私はドアノブに手をかけ、2人に視線を送る。2人は同時にうなづいた。

ノブをひねり、一気に開け放つ。そこにいたのは…一人の医者と、床の上を転がりのたうち回っているサクだった。

(いで)えええええええよおおおおおおおお!!痛ええええええええぇぇ!!」

サクは今もなお絶叫を上げており、その目には涙が浮かんでいた。相当な激痛か何かあったらしい。私は医師に、何があったのかを訊いた。すると、

「ああ、この子がねぇ…任務で敵と戦っていた時に、いきなり襲われたみたいでねぇ、左腕をもの凄い勢いでひっかかれたみたいなんだよねぇ。それで、応急処置したらこうなった訳なんだよねぇ。」

妙に間延びした喋り方が少し気にはなったが、とりあえず理由が分かった。やはり、痛みに苦しんでいるようだ。薬が効いている証拠かもしれないが。

「ね…姉ちゃん…。ショウもいんのか…?」

サクが顔だけこちらに向けて話しかけてくる。相当弱り切った声だった。もうぐったりとしており、その顔は普段のサクとは思えない程酷く歪んでいた。

「ううう…やべぇよコレ…。超痛えよ…。俺もう死ぬかも…。」

「その位で死ぬわけがないだろう。痛みが酷いだけだと思うぞ?だったら何も心配する事ないじゃないか。」

「そうだけどよお…。マジで痛え。」

床に突っ伏しているサクに対し、私がそう言うと、赤羽先生が突然しゃがみ込んだ。

「このままじゃあ、戦線に出るのも駄目ね…。部屋でゆっくり休んできたらどうかしら?」

「…そうします。」

結局こんな騒ぎはすぐに終わり、私とサクとショウは、私の部屋に行くことにした。


部屋に着いた後、サクはすぐにベッドの上にぶっ倒れた。顔色を窺うと、顔面蒼白となっていたのがすぐに分かった。

「お前…、どうやったらそんな傷を負えるんだ?」

「分かんねえ。普通に戦っていただけなのによぉ…。畜生…油断しちまったか…。」

声がどんどん聴こえなくなっていく。もう限界なのではないのかと思わせる位に。

そんな時だった。テーブルの上にあるホルダーから声がした。

『こういう時って、人間は不便ねぇ。自然治癒が遅いというか…何というか…。』

「『Elf』…。そりゃそうだろう。お前達幻獣とは違う。」

『でしょうね。でも未来の人間はもしかしたら…。』

「もはや人間ではないだろうな。第一、自然治癒が早いとなると、ほとんど不死身と同じだ。」

…そう、もはや不死身なのかもしれない。『Elf』や『Ghost』と戦った時アイツらは、あれだけの致命傷を負ったにもかかわらず、生きていた。それがもし人間にも及んだら、どうなってしまうのだろうか。

そんな事を考えていた時に、今度はショウが口を開いた。

「しかし…不死身でもリスクがあるのでは?」

『ええ、そうねぇ。どんな傷を負っても死にはしないけど、痛みが残るのよ。いくら復活したっても、長時間戦うなんて絶対に無理。』

「そうですか…。やはり、人間が不死身になる事は出来ないんですね。」

『出来ないっていうか、なっちゃダメなのよ。何でかって言うと…』

「おーい…、話が脱線してねーか…?」

サクの弱弱しい声が、『Elf』の声を遮る。確かにそうだった。不死身の話よりも、まずはコイツの傷の事だ。

「すみません…。でも、確かにこのままじゃ困りますね。咲夜さんって、確か即戦力扱いでしたよね…?」

「そーだよ。自分で言うのも何なんだけどな、俺と姉ちゃんはもうその位のレベルまでのし上がってんだよ。というかショウ、何で野球みたいな言い方になったんだ…?」

ツッコむ所はそこなのか?そんな野暮な事を思ってしまったが、ショウの言う通り、このままでは戦力が減る事となる。一体どうすればいいのだろう?

「あっ、そういえば。『Elf』、テメーと戦った後に傷、治してくれたよな。お前とかの力でどうにかならねーの?」

『ええー?面倒ねぇ…。ちょっとその傷、見せてもらえる?』

サクは、『Elf』の言った通りに、包帯を外していく。そして外し終えたその腕には、生々しい傷跡があった。はっきり言って気味が悪い。

ちなみにこの時、『Elf』は歯車の姿だったので、私がそれを持ってサクの傷へと近づけた。

『あらら、酷いわね。でも、この位だったら、魔法は使えなくとも治せるわ。』

「ん!? どういう事だ?」

サクが驚きの声を発する。だが、驚いたのは私達も同じだった。こんなにも酷い傷をどうやって魔法なしで治すというのだろうか。

そんな時、異変が起きた。といっても、小さなものだったが。

「これは…!?」

空中に現れた小さな光。そこから出てきたのは…何かのケースだった。私はそれを手に取り、蓋を開ける。入っていたのは…クリーム状の何か。

その後、しばらく続いた沈黙をぶち破ったのは、サクだった。

「おい…これ、まさか…。」

『ええ。見ての通り、塗り薬よ。それが何か?』

「何かじゃねーよ!アホか!!こんなモノ如きでこの傷を治せんのか!?」

サクが今までの痛みを忘れ去ったかのように、大声を張り上げる。だが、やはり無理があったのか、サクは再び「いでえええ。」と言いながら崩れ落ちた。

『嘘か本当かは塗ってみりゃ分かるわよ。』

「おちょくってんのかテメー…。あーもー分かったよ。塗ればいいんだろ、塗れば…。姉ちゃん、それ貸してくれ。」

私が手渡すと、サクは遂に指で薬をすくい取り、傷に直接塗り付けた。

「ぐっ…いってえ…。」

サクのつぶやきが聴こえた。そりゃそうだろうなと感じていた。

そして、サクが傷口全体に薬を塗り終えた時、また異変が起こる。サクの腕の傷が…塞ぎ始めたのだ。それも、もの凄いスピードで。

「…あああっ!? な、何だこれ!?」

ショウが驚きの声を上げる。私も驚いてはいたが、声が出なかった。

そして数秒後、腕の傷は完全に消えた。かすり傷一つも残さず。

「『Elf』…これは何なんだ?ただの塗り薬ではない事は…分かったんだが。」

また、沈黙が訪れる。『Elf』は、何か迷っているのだろうか?そう思ったが、やがて『Elf』は静かに告げた。

『その薬はね…『Unicorn』の角の粉末が混ざっているのよ。』

「『Unicorn』?…っ、まさか!!お前達の仲間の!?」

『その通り、黄の歯車『Unicorn』。あの子の身体は万能薬なのよ。あらゆる病気や怪我を治すことができる。そして…』

その後、『Elf』は思いもよらぬ一言を口にした。


『もう、この世界に紛れているわよ。』

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