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オルゴールと銀の弾丸  作者: 緑野くま
第二章  始まりの歯車
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第十三話 紫の歯車 『Ghost』

紫色の光が治まる。目の前の男を見た時、そいつがもう紫苑ではない事に気付いた。

ボロボロの薄汚れたローブをはおり、フードを被っている。更にそいつの脚を見ると、膝から下が透けてした。

「お前が『Ghost』だったのか。本物の紫苑先生はどこにいる?」

「本物も何も…、紫苑という人物はこの病院には存在しておりませんよ。言ったでしょう、アレは嘘だと。」

「…そうだったな。だが、何が意外なんだ?」

「私の仲間…そう、貴女がいる事ですよ。」

そう言うと、『Ghost』は『Elf』を指差す。『Elf』は大きなため息を吐いた。

「アンタ、まさか人間に成りすましていたの?この街の崩壊前から。」

「ええ。ですが…予想外の事が。そう、先程言った通り、貴女の契約者と貴女が来たことですね。まあ…戦力を削るために、あの少女の部屋に待機させたのですがね…。」

そういう事だったか。あの検診発言が嘘だった意味が分かった。またもや騙されたという訳だ。

「貴女が契約者に選んだという事は…相当実力はあるという事ですね!!」

『Ghost』はそう言った直後、斬撃の波動を放ってきた。

「うわっ!?」

間一髪で避けきったが、斬撃の向かった場所を見ると、病院の壁がえぐられていたのに気付いた。

(まずいな…。)

そう思い、私は入り口の扉に向かった。追いつかれないように、全力で。その中、『Elf』が突然叫んできた。

「ちょっと咲子!!まさか逃げる気!?」

「いや、違う!!お前もあの時聴いてただろう、この場所の今の使い道を!!」

「ああ、そういえばそうだったわね。でも、背中向けて走ってたら、いつ死ぬか分かんないわよ?」

その時だ。後ろからもの凄い殺気を感じた。それが前に放たれた斬撃だと知った時には遅かった。避けると同時に、前のめりになって倒れてしまった。

「チッ…このぉ!!」

私は体制を元に戻し、すぐに拳銃を構える。だが、その時異変が起こっていた。目の前にいたはずの『Ghost』が、いなくなっていたのだ。

だがその代わり、目の前にあったのは、2本の短剣…それも、先程『Ghost』が私の首に突き付けてきたものだった。

その短剣…いや、双剣と言った方がしっくりくるな。それがまるで人がそのまま扱っている様に攻撃してくる。

(透明化か!?それだったら、攻撃が全く出来ない…耐久戦になる!!)

私の予想は当たった。私は何の攻撃も出来ないまま、数十分も逃げ続けているだけだった。

(さすがにキツイな…何か仕掛けの様なものがあるはずだが…。)

そう思った時、『Elf』が耳打ちしてきた。

「咲子、あなたも思っていた事かもしれないけれど、コレには仕掛けがある。私はもちろん知ってるけど…どうする?自分で考えたいなら、5分位時間稼ぎしてあげるけど。」

「…!! 頼む、これは自分で解決する。」

「まあ、任せて頂戴。」

『Elf』はそう言うと、次々と降りかかってくる斬撃を、得意の弓術で打ち消し始めた。

「こうして戦うのも久しぶりですね。何百年ぶり位でしょうか…。」

「アンタそう言ってるけどねぇ…まともに戦ってないでしょうが!!」

今この場は、斬撃の打ち消される音と、『Elf』と『Ghost』の言い争いしか聴こえていない、そんな状況だった。

私はその中で、『Ghost』の対処を探っていた。

(聖水という手もあるだろうが…そんな物自体ここには無い…。一体どうすれば…。)

何か手がかりを考えていた時、突然誰かに肩を叩かれた。振り返るとそこにいたのは、月斗だった。

「!! お前か。どうしてここに!?」

「何やら騒ぎが起こっている音がしてな、どうしたんだ?」

私は今の状況を急いで話した。その時、月斗はハッとした表情になる。

「何か思い当たる事でもあったか?」

「まあな。何か、ここに来てからもの凄い、何ていうんだ…アレ?」

「…何が言いたい?」

「そうだ!!気配だ!あっちの方から何か変な気配がするんだ。」

月斗はそう言うと、駐車場の方へと指を差す。その時、ある何かが私の目に飛び込んできた。

(…!! そうか、そういう事だったのか!言われてみれば、あの『Elf』の言った事…アレもそのままの意味だったのか…!!)

1つの考えに行き着いた時に、月斗に「どうした?」と言われ、我を取り戻す。

「月斗、お前のおかげで『Ghost』の居場所が分かった。ありがとう。」

「えっ、マジかよ!!というか、俺の言った事、意味なんかあったのか?」

「決して無意味ではないさ。恐らく、あい…つ…え?」

私は、脇腹のあたりに違和感を感じた。何だか生温かい、そして痛い。まさか、と思い触ってみると、手にべったりと血が付いた。

「うおああああ!!咲子ぉぉぉぉ!?」

恐怖故か、月斗が悲鳴にも似た大声で叫ぶ。全く…『Ghost』に居場所がバレたらどうしてくれるんだ…。

いや、もう既にバレているか。私の考えならば、この攻撃は私の居場所を知った上での攻撃だ。恐らく、あの斬撃だな。

私は怪我した脇腹を手で抑えつけ、急いで『Elf』の元へと向かう。走るたびに血が滲んでいくのがどうしようもない。そして、ただ単に痛い。

「あら、どうしたの?もしかして、解けた?」

『Elf』の元に着き、最初に言われたのがこの一言だった。能天気なのが相変わらず頭にくる。だがそんな事気にしているだけ無駄だというのは誰よりも知っている。

「解けた。『Elf』、武器変化(ウェポンチェンジ)だ。」

「了解。」

次の瞬間、『Elf』の周りに翠色の光が立ち込め、やがて『Elf』は再びあの優美な弓へと姿を変えた。

夏美さんに教えてもらった構えをとる。そういえば、あの2人は大丈夫かな…。もしかしたら、あのゾンビがまだ病院内にいるかもしれない。急いで済ませておくかな。

アイツは…いた。あの時見たボロボロの布がまだある。フェイクの可能性もあるが、賭けるしかない。

(もらったッ!!)

私は一本の矢を放つ。その時「ウッ。」という呻き声がした。その場所に行くと、首に傷を負った『Ghost』の姿があった。

「自信過剰だったな。まさかとは思ったが、その場に居続けるとは…思ってもいなかった。」

「…何に気付きました?」

「あの双剣、お前が透明化してそのまま扱っているかと思ったが…そこまでは出来ないみたいだな。アレはただの遠隔操作。もちろん魔法の力を使ってだろう?まあこれについては…『Elf』の入れ知恵だがな…。」

「あの女…そこまでの事を…ですが、あなたこそ自信過剰なのではないですか?」

そう言った直後に『Ghost』は斬撃を放ってきた。しかもあの時の様な波動ではない、物理的なものだった。

私は避けたつもりだったが、その勢いが強すぎた故に駐車場の奥まで吹っ飛ばされた。立ち上がろうとするが、何故か上手く立てない。身体が痺れるような感覚がする。

「この双剣には、斬りつけた相手を麻痺させる能力があるのですよ。『Elf』の持つ神経毒にはさすがに敵いませんが…静電気位でしょう。かなり強めのね…。」

『Ghost』はそう言っていた。確かに指先すらまともに動かない。危険な状態である。

「『Elf』が選んだ位でしたから少しは楽しめるかと。ですがもう用済みです。さらばですね。」

『Ghost』が片方の剣を首元目がけて振り下ろした…その時、金属同士が激しくぶつかり合う音が響く。


キィィィィン……。


その勢いもまた強く、『Ghost』の持っていた片方の剣が宙を舞い、コンクリートの上に落ちた。

一体誰が…?そう思った時、人影が見えてきた。

「なっ…月斗!?」

「よう。そんなザマになってるが、大丈夫か?」

酷い言われ様だ。だが、そう言われるのも無理はないだろうな。

月斗の手元を見てみると、鉄パイプが握られていた。どこかで手に入れてきたのだろう、ぐにゃぐにゃになっていた。これであの剣を弾いたとなると驚く。

「咲子、今じゃねえのか?」

月斗からそう言われるとハッとした。そうだ、今ならやれる。手の痺れもだいぶひいた。拳銃一丁持つこと位なら問題はないだろう。

気付かれないよう、そっとホルダーから引き抜こうとした時、またあの金属音がした。

「邪魔はさせないぜ。」

「…見透かされましたか。…これまでですね。負けを認めましょう。」

え…何を言っているんだ?コイツ…。警戒が強まり、拳銃の構えは相変わらずにした。

「言ったでしょう、負けを認めると。その証拠に…。」

『Ghost』は何かを言いかけた途端、突然呪文を唱え始める。それは、あの時の『Elf』のものと同じものだった。

「我、紫の歯車となろう。」

最後の言葉の次の瞬間、またあの光が辺りを覆った。さすがに二回目だから驚きはしなかった。

『これで、私はあなたと契約を交わしました。何故あなたが『Elf』と一緒にいるのか、やっと理解できましたよ…。』

何処からか響く『Ghost』の声。少し不気味な様にも思えた。


そして声を聴いた直後、コンクリートを見ると、そこには紫色の歯車があった。

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