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オルゴールと銀の弾丸  作者: 緑野くま
第二章  始まりの歯車
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第十二話 月に叢雲花に風

私達は赤羽先生を通して、叔父に月斗の同行許可を取った。

『別に構わんが…誰か1人は付いているようにな。』

そう言われると、月斗の目が輝く。まあコイツにとっては良かったんじゃないかな…。そう思いながら、再び歩き始めた。私はその道中で、月斗の事をいろいろと聴いた。

村雲月斗は私と同じクラスで、サクと同じサッカー部所属だという。その為、私の家にもしょっちゅう遊びに来ていたらしい。

私はその時、「助けたい人というのは誰なんだ?」と尋ねると、答えてくれた。それも私と同じクラスの人らしい。

「幼馴染でな、風早(かぜはや)(はな)っていう女子がいるんだ。俺はそいつを助けたい。」

「華…といったか。そいつと連絡が取れたのか?」

「一応携帯でな。それと風早の他にも、何人か避難している奴がいるらしい。」

「!! 本当か!?」

声を荒げて言ってしまった故か、月斗は驚いた表情をした。

だが、驚いた表情をしたのは、月斗だけではない。夏美さんや他の隊員もそうだった。ただし、私のあの言動故のものではない。他に避難者がいると知ったからである。

「月斗君、病院にモンスターは出現していた?分からないなら、それで構わないけど…。」

すると月斗は、意外な答えを出した。

「それが…数日前ならまだしも、避難してから今までそんなの出てきてなかった…って言っていた。」

訳が分からない。何体か出現してもおかしくはないこの状況で…一体も出てきていないだと!?

そう考えた、瞬間、

「!? な、何だ!?」

誰かに脚を掴まれた。それも、かなり強い力で。

「っ…!!痛いな…!!」

私はとっさに拳銃を取り、地面の方へと構える。そこにいたのは、地上に出かけていたゾンビだった。

迷わず撃つ。ゾンビの腕に当たった所で、私はその場を離れた。

「咲子ちゃん!気を付けて!周りにあと五体いるよ!!」

そう、まだ終わってなどいなかった。私達を囲むようにして、ゾンビが現れたのだ。

私は、再び拳銃を構える。だが、そうしている内にゾンビの方から攻撃してきた。

(くそっ。まさかアレが『Elf』の言っていた知能を持つゾンビなのか!?)

動きが早くてなかなか命中しない。そんな状況の中、私の前に立ちふさがった者がいた。だが、その人物はあまりにも意外過ぎた。

「なっ…月斗!?」

「ここは任せな。まあ…一体はやれるか。」

そう言うと、月斗はゾンビに向かってダッシュした。まさか突進して吹っ飛ばすつもりか!?と思った次の瞬間、


ドゴォッ!!!


とてつもない音が響く。土煙が激しくて前が見えなかった。だが、後でそれが晴れた後、私達は目を疑う。あのゾンビが、気絶していたのだ。

その前には月斗がいた。その時、後ろからまた別のゾンビが襲い掛かってくる。

「避けろ!!」

私がそう叫ぶと、月斗は「気にすんな。」と言いその直後、ゾンビに強烈な蹴りを入れた!!威力が強かったのか、ゾンビの体は奥の方へと吹っ飛ぶ。

その後月斗は、私達をよそにゾンビを俊敏な体術で封殺していた。随分と型破りな体術で、何が起こっているかなんてサッパリ分からん。そんな状況である。

「おっしゃー!!終わったァーッ!!」

数分後、月斗が爽快な叫びをあげる。だが、その直後に発されたものは、「いや、ちょっと待てええええーッ!!」という隊員達のツッコミだった。

「き、君は…本当に何者なんだ!?さっきの体術…明らかに素人の動きではなかったぞ!!」

質問攻めをする隊員の目が血走っていた。相当興奮気味なようで、月斗は気圧されていた。すると、それを制止するかのように、夏美さんがとある事を言った。

「村雲って…あっ、思い出した。」

「ん?何を思い出したんだ?そこの姉さん。」

「姉さんって…まあいいや。あなた、さっきのはもしかして、村雲流忍術の体術?」

その言葉を聴いた瞬間、周りが静まり返った。無理もない。ありえないワードが飛び出たからな。

「忍術!?」

「ああ、そうだけど。まあ、変化とか妖術とかは使えないけどな。一応、現実的な範囲の中での事だ。というか…何でアンタ知っているんだ?」

「『ギア』内で聴いた事があったの。江戸時代に暗躍した忍者の末裔が、この街のどこかに住んでいるってね…。」

…ああ今日は驚きの連続だな。まさか忍者の末裔がこんな近距離にいたとは…。いや、歴史の裏で働いていた以上、バラさないのも無理はないか…。

そんな事を考えていた時、ふと新たに疑問に思ったことが浮上した。

「月斗、お前のその顔は…何なんだ?」

「ああ、コレか…。ガキの頃に家が火事になってな、その名残だ。」

今の年でも充分ガキと言えるんじゃないか…?そんなツッコミは放っておいて、理由は何となく分かった。だが、一応悪い気がしたので「すまん。」と言っておくと、「一回お前に言ったはずだけどなぁ。」と返された。どうやら過去に、この話を聴いた事があるらしい。

そうこうしているうちに、『第一病院』と刻まれた石碑が見えた。どうやら、もう着いてしまったらしい。


扉を開けると、そこには何人か人がいた。どうやら、避難者がいるのは本当のようだ。月斗はというと、カウンターにいる人に、何かを尋ねていた。しばらく様子を見ていると、月斗がホッとしたような表情を浮かべながら、こちらへと来た。

「何か分かったのか?」

「ああ。風早が今この病院の病室にいるってさ。早速だけど、行こうぜ。」

そう言われると、何人かの隊員は「ここにいる。」と言い、私と月斗と夏美さんの3人で、その病室へ向かう事となった。

華のいる部屋は10階にあるという。幸いにも、エレベーターが起動していたので、私達はそれを利用することにした。

10階に着いた事を知らせる音が鳴る。エレベーターから降り、部屋へと足を運ぶ。

そして、華がいるという部屋に着いた。月斗がノックをすると、ドアの奥から「誰ですか?」と言う声がした。月斗が応じると、「どうぞ。」と言う声がした。

私達は勢いよくドアを開ける。そこにいたのは、車椅子に座った少女だった。

「風早!お前、大丈夫か!?」

この言葉の通り、この少女が華なのだろう。彼女を見た月斗がいきなり大声でそう言った。

「大丈夫よ、月斗君。もう…大げさなんだから…。」

華は呆れたようにそう言う。その表情はとても穏やかな微笑みだった。すると、こちらに気付いたのか、華は私達の方へと視線を移した。

「あら?あなたは…もしかして、咲子さんですか?」

「そうだが、それがどうしたんだ?」

「学校にいた時、噂で聴きました。何でも、記憶喪失になったそうで…。」

「何でもじゃなくても、記憶喪失だ。実際、お前が何者なのかも分からないしな。」

華はポカンとした表情になっていた。だが我を取り戻したのか、ハッとした。その後、夏美さんも自己紹介をすると、華はこんな事を言い始めた。

「せっかく来てもらったんですけど…ごめんなさい。これから検診の時間なんです。」

「検診…?まさか…。」

「はい…。私、小さい頃から足が悪くて…、この病院でお世話になっているんです。その時の先生…紫苑(しおん)先生っていうんですけど、その人がもうちょっとで来るはずなんです。」

そう言いながら、華は自分の脚を撫でていた。私はこのとき、ただ避難しているだけではないと初めて思った。

だが、そう思った直後、突然切羽詰まったような叫びがした。この叫びも毎回聴くようになったな…。

私は、夏美さんと月斗を部屋に残し、一階へと急いだ。


一階に着く。私はすぐにそこで起きている異変に気付いた。

「っ…これは!?」

そう、病院の中に、遂にゾンビが現れたのだ。だが今は幸いにも3体のみ。しかもここには待機していた隊員もいる。避難者も今はここにはいないようだ。

私はすぐに拳銃をとり、迎撃を開始した。さすがに何回も対戦していたからか、すぐに倒せた。

「だが、まだ油断は出来ないようだな…。」

そうつぶやいた時、誰かが近づいてくるのが分かった。

「おや…これは…。一体何の騒ぎがあったのです?」

白衣を着た痩せた男だ。名札を見ると、そこには『紫苑』と書いてあった。この人が華の主治医なのだろう。

「紫苑先生と言いましたか…風早華の検診に行かなくてもいいのですか?」

「ああ…その事ですか…。もう大丈夫ですよ。」

「どういう事です?」

「簡単な話…それが嘘だから。」

「!?」

その瞬間、紫苑先生が何かを持ち、私に襲い掛かって来た。その何かというのは、紫色の刃のついたモノ。

「ぐああっ!!」

壁に押さえつけられ、身動きがとれない。首にその刃が当たっている事がすぐに分かった。

「想定外でしたよ…まさかあなたの様な人間がここにくるとは。」

「ぐっ…!!」

このままじゃ埒が明かない。私はあの名を叫ぶ。

「『Elf』ーっ!!」

すると、腰に下げていた、拳銃とは別のホルダーから、翠の光が漏れだす。歯車をいつでも持って行けるようにと、叔父が用意してくれたものだった。

そして、私の目の前に『Elf』が現れる。

「…あなたですか。」

紫苑はそう言うと、私の元を離れる。

「咲子、大丈夫?」

「ああ、遅れていたら死んでいたかもな…。それよりも…アイツは一体…?」

「アレの事?アイツはね…」

いや、言わなくてももう予想は付いている。さっきまですっかり忘れていたが。

そして、『Elf』が口を開く。


「…『Ghost』。」


次の瞬間、紫苑の周りを紫色の光が包んだ。

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