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オルゴールと銀の弾丸  作者: 緑野くま
第二章  始まりの歯車
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第九話  翠の歯車 『Elf』

ズドン!!


衝撃音が響き渡る。私はダッシュして何とかこの場を切り抜けた。

「チッ…。厄介だな…。」

女、もとい『Elf』は、そうしている間にも次々と矢を放ってくる。私はとにかく逃げるしか無かった。

「やっぱり逃げるしか能がないのね。だから大人しくしていれば良かったのにって、散々言ったはずよ。」

『Elf』の言い分が頭にきたが、当たっているのは間違いない。実際私は逃げっぱなしだった。あの毒矢の事もあったのでなおさらである。

銃口を向けてもすぐに矢がぶっ飛んでくるので、引き金を引く暇すら無い。

…やはり、叔父の言う通りだ。ここはいったん退いて増援でも要請しようか…。と、思ったその時、

「お姉ちゃーん!!頑張ってーっ!!」

あの少年の声がした。声を聴いたその瞬間、我に返る。ああ、そうだ。目的を完全に忘れてた。少年達と仲間を、助ける為に戦っていたんだった。なのに…なのに私は今何を考えていた?自分から突っ込んでいった戦いに増援を要請すると!?

…我ながら不甲斐無いな。こうなったら死ぬまで戦おう。その時はその時だ…。

『おい…おい!姉ちゃん!!聴こえるか!?』

突然イアフォンから声がした。この声は…サクか?

「聴こえるが…。どうかしたのか?」

『どうかしたのか、じゃねーよ!!何で外に出てんだよ!?』

このままじゃ埒があかないと思い、一部始終を話した。幸いにも、衝撃音がデカかったので『Elf』には聴こえてはいない(…ハズだ)。そして話が終わると、最初に出たのは絶叫。

『えええええええーーーーーっ!?』

「何も驚き過ぎだろう…。」

『い、いや、だって!あの女が『Elf』なのか!?』

「それはさっきから言っている。この状況を何とかしなければ、助からないからな。」

『そうか…だったら俺に考えがあるんだ。』

そう言うと、通信が切れた。アイツ、何をするつもりなんだ?…と、思っていたその時!!

「おーい。こっちだーっ!!こっち向けー化け物女ー!!」

サクの叫び声がした。見ると、サクが『Elf』の方へと手を振っていたのである!!

(ま、まずい…!!あのままじゃ…!!)

そう考えた時、『Elf』がサクの方を向いた。

「あら、また目覚めちゃった奴が出たわね。しょうがない。」

そう言うと『Elf』は、サクの方へと矢を向ける。そして、力強く引き始めた。

「サクー!何しているんだーっ!!待ってろ!!今私が…」

「姉ちゃん!手ぇ出すな!!言っただろ!?俺に考えがあるって!!」

私は一瞬、ひるんでしまった。そして、最悪の事態が起きる。

「さよなら、坊や。」


矢が、サクの方目がけて飛んでいった。そして再び、凄まじい程の衝撃音。ただ、茫然とすることしか出来なかった。

「っあ…ああああっ…。」

サクのいた鳥かごは無残に砕け散っていた。そしてガレキの中から、腕が見えた。

…声が出ない。胸が締め付けられるような痛みがする。何故だ…涙が出てくる。あまり感じたことの無い感情が生まれていた。これは…怒りだ。

「…貴様ああああァァァァッ!!」

私はもう、耐えきれなくなっていた。簡単な話だ。実の弟を、目の前で殺されたのだから!!

『Elf』に向かって弾丸を乱射する。弾切れになろうがどうでもいい。何発か当たればそれで良かった。

だが…甘くは無かった。『Elf』はことごとく避け、反撃も劣ってはいなかったのだ。

「あの坊や…もしかしてあなたの弟?じゃ、仲良く眠りなさいな。」

そう言うと、『Elf』は一本の矢を放つ。私はそれを見た時、戦慄を覚えた。

(あれは…さっきの毒矢か!?)

私はとっさに逃げた。だが、この矢…地面に突き刺さらず、私を追いかけていたのだ!逃げても逃げても勢いを失わず飛んでくる。

(ホーミング…サクから聴いた事があったな…。しかし…物理的に可能なのか!?)

そう思った瞬間、ズバッという音がした。そして、私の脚に強烈な痛みが襲い掛かる。

「うっ…ぐあああっ!!」

叫ばずにはいられない。そんな中、『Elf』の嘲笑が聴こえてきた。

「あら、当たっちゃった?直撃はともかく、かするなんてあなた、運が無いわね。」

「それは…どういう…。」

「結構な猛毒よ、それ。ジワジワくるでしょ。直撃なら痛みなんて一瞬だけだったのにねぇ…。」

また、『Elf』が矢を引き始めた。私の脚に、もう機動力なんて残っちゃいない。

(これで…終わりかな…。)

今度こそ死を覚悟した…その時。


ドスッ


何かが突き刺さる、鈍い音がした。でも私は何の痛みも感じていなかった(といっても脚のダメージは残っているが)。

しかし、その後『Elf』の絶叫が響き渡る。

「ぎゃあああっ!?なっ何これ?一体何処から!?」

そう、『Elf』の肩から、血がボタボタと流れていたのだ。だが…本当に誰がこんな事を?

「とりあえず当たって良かったかな…。咲子ちゃん、大丈夫?」

背後から声がした。しかも聞き覚えのある声だ。振り返ると、そこにいたのは…

「な…夏美さん?!い…一体どうやって…?」

「咲夜くんから、連絡が入ったからね。無理矢理牢屋ぶっ壊して、気付かれないようにやったってワケ。」

私はこの時、夏美さんの扱う武器が弓だった事を思い出した。成程、サクの作戦とはこういう事だったのか…。

そう考えた後、夏美さんがある方向に向かって指を指す。そこにいたのは、他の隊員数人と、怪我を負ったサクだった。サクはこっちに向かってピースサインを出している。

(ったく…無理し過ぎだ…。)

そう考えていた時、「ううう…」という呻き声がした。そこにいたのは、地面にうずくまった『Elf』だった。私は脚を引きずり、『Elf』の元へと行く。

「さっきの姿からはまるで想像もつかないな。」

「自分でもそう思ったわよ…。まさか…人間如きにやられるなんて…。」

その声は弱弱しくなっていた。流暢な喋り様も何処かへ行ってしまったようだ。

「でも…これは案外チャンスかもな。弟を殺そうとしたお前を、今なら仕留める事が出来そうだ。」

「ヒィッ!?わ、分かったわよ!!こうすればいいんでしょ!!」

『Elf』はそう叫ぶと、手を空中へかざした。その時、まばゆいほどの光が周辺を包む。

「うっ…!?」

光がまぶし過ぎて思わず目を瞑ってしまった。


それから数分後、段々と落ち着いてきたと感じ目を開けると、そこに広がっていたのは元の荒れ地だった。

「これは…どういうつもりだ。」

「こうしておいた方がいいんでしょ?あと、弟くんの様子も見ておいたら?」

『Elf』にそう言われ、サクの方を見た。その時私は目を疑った。

「怪我が…治っている…!?」

「ええ。私が治したのよ。魔法でね。アンタに脅されから、しょーがなくやったのよ。」

…言い方が癪に障ったが、『Elf』は私の気も知らないまま話を続ける。

「アンタ達人間には使えない力…って言った方がいいのかしら。いわゆる魔法とか、そういった類のものを私達は扱える。」

「まさか、本当にそんな力があるとはな。という事はさっきの森も、あの毒矢も、ホーミングの機能も、全て魔法で?」

「まあ、そういう事ね。ああ、そうそう言い忘れてたけど…。」

話を突然終えると、『Elf』は何かをブツブツと言い始める。何かの…呪文のようにも感じた。

「全ては…の箱の…と共に…。」

静かにして聴いていたが、なかなか聞き取れなかった。そして、いつの間にか最後となった。

「我、翠の歯車となろう。」

そう言うと、『Elf』の身体から光が溢れ出した。そして、次には閃光。

「うおっ!?」

一瞬で終わったので目を開けると、そこには『Elf』の姿は無かった。だがその代わりに、地面にあるものが落ちていた。私は『それ』を拾った時、驚くことしか出来なかった。

「これは…歯車…!?」

『そうよ。これが私の本来の姿。…あれ?本来の姿…で合ってたかしら?』

そんな事はどうでもいい。名前を聴いた時何となく想像してたが、フェイクでは無かったようだな。そう考えていた。

すると突然、誰かに声をかけられた。私はこの声があの少年だとすぐに分かった。

「ねえ、お姉ちゃん。足、大丈夫?」

「見ていたのか…って、あれ?」

私は、自分の身の異変に気付いた。脚の傷が、もう癒えていたのである。

(きっと、『Elf』が知らない間に治してくれたのかな。)

そう思うと不思議では無かった。

「姉ちゃん。叔父さんから連絡が入った。戻ってこいだってさ。」

背後からサクの声がした。そうか、もう任務も完了したようなもの…だったな。

だがまだ油断は出来ない。戻る時にまたモンスターの軍勢が来たならたまったもんじゃない。

私はまた、戦闘準備をし始める。その時、あの少年が手を握ってきた。

「お姉ちゃん。一緒に行ってもいい?」

その声は明るいものだった。そうだな…また守ってあげなければな…。

「もちろんだよ。私達が、お前達を守ってみせる。」


空はすがすがしい程の色に染まっていた。

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