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オルゴールと銀の弾丸  作者: 緑野くま
第二章  始まりの歯車
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第八話 霧の広場にて

「…はっ!!」

ようやく目が覚めた。だが、あの時とは違う場所にいるようだ。

(全く…あんな夢は二度とごめんだ。)

そう思い、ふと目の前を見ると、鉄格子のようなものがあった。

(…鉄格子?何故?)

そう思って触ってみた。その時、これが鉄ではない事に気付いた。木でできた物だったのだ。

「…っ。まさか!!」

思わず叫んでしまったが、そんな事は気にせず外を見た。そこに広がっていたのは、茨、紫の霧、そして木製の人が数人入れるような鳥かご。

そう、夢で見たあの光景だった。間違いなどではない。全く同じだった。

私は他の檻を見た時、目を奪われた。

「!! サク!夏美さん!!」

他の隊員も囚われていたのだ。だが、私のいる中には、他の者はいなかった。

辺りを見回した時、床に何か煌くような物が落ちていた。それは、鍵だった。

(助かった。多分これで皆を開放できる。)

錠は外にあった為、うっかり鍵を落とさないように慎重に作業を進めた。


カチャッ


音が鳴った。どうやら開いたようだ。鳥かごは地面から少し離れていたが、私は構わず飛び降りる。死ぬような高さではない。

「それにしても、間抜けだな。看守は気付いているのか…?」

そんな事を呟いてしまった。だが、周りを見ても、看守と思えるような者はいない。少し様子を見ることにした。

あの紫の霧は、私達が倒れた時よりも明らかに薄かった。また倒れるなどといった事は起きないだろう。檻の中にいる隊員を見てみた。そこで、私はある事実に気付く。

「…! 眠っているのか?」

隊員は皆、すやすやと寝息をたてていた。どうやらこの霧、少なくとも毒霧では無いようだ。

(良かった…。)

ひとまず、皆が生きている事が確認できた。叔父に報告しなければ…。私はイアフォンを操作し、連絡をとった。

『日向だ。誰だ?』

「私です。倉岡咲子です。現状報告をしに連絡しました。」

『咲子か!どうした?急に連絡がとれなくなったから、捜査隊を手配したんだが…。』

「捜査…ですか…。それは…無駄だと思います。」

『何だと…!?どういうことだ!!』

驚きと焦りが混ざったような、叫び声だった。私は、今までに起きたことを全て話した。


『そういう事だったのか…。分かった。捜査隊は一応退却させる。咲子、出来るだけ余計な事は起こすなよ?』

「分かりました。…でも。」

『でも?』

「万が一、『Elf』と遭遇してしまった場合は?」

『…それがあったか。…分かった、迎撃を許可しよう。だが、無理だと思ったら退け。せいぜい死なないようにな。』

そうして通信が切れた。とにかく、『Elf』に見つからないように、じっとしているしかないだろうな。そう思っていた、時だった。

「ねえ、誰かいるの?」

背後から、声がしたのだ。振り向くと、そこには鳥かごではない、普通(?)の牢屋があった。その中に複数の人がいたが…ただ1人を除いて、全員が眠りにおちていた。

「お前か?声をかけたのは。」

「うん。そうだよ。」

小学校2,3年生位の少年だった。どこか怯えており、その目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。

「大丈夫だ。様子を見てからにはなるが、ここから脱出しよう。そうすれば皆が助かる。」

「本当?良かった…。僕ら、大丈夫になるんだね。」

少年は目を拭った後、何の前触れもなく、私にこれまであった事を話してくれた。

「あのね、僕らあのお化けに見つからないように、建物に隠れていたんだ。」

「隠れていた…?」

「うん。でもね、ある時いきなり、周りが木でいっぱいになっちゃったんだ!それで外に出たら、急に眠くなって…。」

「そして、気が付いたらここに?」

少年は頷いた。この時私は、救出する者達が、ここで囚われている少年達であると悟った。成程、どうりで見つからなかった訳だ。いきなり森ができて、彼らはその中を彷徨ってしまったのだろう。

しかし…腑に落ちないな。一瞬にして街一個分の森が現れるとは…。魔法でも使わないと出来ない所業だ。ここまで来て非科学的な力が通用すると言うのか?…謎だ。考えているだけでも頭が痛くなる。

「お姉ちゃん!後ろっ!!」

いきなり少年が叫んだ。私は、ゆっくりと後ろを向いた。

「…嫌な予感程よく当たる。」

そこにいたのは、大量の妖精だった。全員がこちらに武器を向けている。

「全員突撃!!脱走者を捕らえるんだーッ!!」

1人の妖精(恐らくはリーダー)が叫ぶと、妖精達が襲い掛かって来た。

(…10分で仕留めるかな。)

私も拳銃を構えた。


…どの位時間が経ったのだろう。妖精達は1人残らず倒した、はずだ。全員倒れている。

ふとあの少年を見ると、ポカンとした表情をしていた。そりゃそうなるだろうな…。いきなりこんな所を見せたのだから。

(まあいい。とにかく脱出を…)

と思っていた時、背後からもの凄いスピードで何かが飛んでくるのが分かった。

「…っ!!」

それは、一本の矢だった。間一髪で避けたが、異変が起きたのはその後だった。

「何これ、煙が出てる!!」

少年の叫び通り、矢の突き刺さった所から、煙が出ていたのだ。それも、紫色の。

(あの霧…?いや、違う、毒矢か!!)

これの様子を見る限り、かなり強力なようだ。かすっただけでも致命傷になりかねない、そんなものだった。


「これを避けるなんて…。あなた、何者なの?」


女の声がした。しかも、聴いた事のある声だった。振り返ると、そこには長身の女が立っていた。

(あいつは…あの夢の…!?)

そう、私が眠らされていた間に見た夢に出てきた女だった。耳が尖っており、短めのローブもはおっている。

「全く、大人しくしていれば良かったのに…。でも…しょうがないか。あの計画は何とかさせてみせる。」

ぶつぶつと何かを呟いていたが、目線はこっちを向いている。だが、「あの計画」と言っていたな…。だったら一発言ってやろうか。

「アイツ、計画通りに行かなかったらすぐに怒るし。もう、何でこんな汚れ仕事…」

「人を魔人に変える仕事か?」

「!?」

その瞬間、女の表情が固まった。やはり、合っていたな。

「魔法陣を出現させ、反撃出来ない体制のまま、引きずり込むというのもよく考えたことだ。」

「…だから何?」

「私が阻止してみせる。」

女は驚きを隠せないでいた。だが数秒後、あの時のような、落ち着きのあるものへと変わる。

「そこまで知ってるなんて…。あなた、本当に何者?どっかで会った事あるっけ?」

「いや?多分初めてなんじゃないか?」

私がそれを言うと、女は「ハァー」と大きなため息を吐く。そして、またこっちを見た。

「まあいいわ。それよりも、わざわざあんな罠にハマってくれてありがとね。」

「罠?」

「あなた、あそこに落ちてた鍵を使って錠を開いたでしょ。アレはね…私がワザと置いたやつよ。」

「…っ!!何だと!?」

「ここに来る前、拝見させてもらったわ。あなた達の戦いの様子。あなたが1番張り切って倒していた様に見えたわ…。正義感が強いと思って、そこの点を崩せばあなたを潰せると思ったの。」

「…」

何ということだ。不思議かとは思っていたが、それが罠だったとは…!!間抜けはこっちの方だったな。

「でも、あなたがあの軍勢を倒したのは大きな誤算だった。だから…」

そう言うと、女は空中に手をかざす。そこから出てきたのは、やはり弓だった。

「私の手で、あなたを葬る。」

女が矢を引き始めた。だが、すぐには放たず、溜めていた。

「ああ…お姉ちゃん…!!」

少年がまた泣きそうになっている。何とか早く、終わらせなければ…。そう思った直後、女の声がした。

「そうだ、冥土の土産に1つだけ教えてあげる。」

「何を教えるつもりだ。」

「私の名前よ。」

そう言うと、女は口を開いた。


「私は、『Elf』。」


その瞬間、大量の矢が降り注いだ。

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