プロローグ
目覚めるとそこは、真っ白な部屋の中だった。
周りに人が何人かいる。多くは私よりも年上に思えたが、何人か同じ年位の者もいる。
だが…一体誰なんだ?何故そんなに心配そうな目で私を見る?
そう思った時だった、一人の少女が私のもとに来た。
「サキーッ!良かったぁ…1週間も目覚めていなかったんだよ?」
…サキ?おそらくは私の名前だろう。でも、こいつは何者なんだ。
私は、その少女に尋ねた。
「アンタは…誰だ?」
その時、少女の顔から笑顔が消える。そして「ああああ」と落胆の声を出しながらしゃがみ込んでしまった。
「…やっぱり、覚えてないんだね。」
「やっぱり?」
そう言った時、一人の白衣を着た老人が私のもとへと歩み寄る。
ああ、分かった。ここは恐らく病院だ。なんとなくだが、そんな気がした。
そして、老人は私にこう告げる。
「君は…事故の時のショックで、記憶がほとんど無くなってしまっている状態なんだ。でも、頭のけがはほとんど治っているから大丈夫だよ。」
記憶が無い…。それに事故?何だか訳が分からない。
ふと、先程のしゃがみ込んでいた少女を見た。その時、少女の左腕に包帯が巻かれてあった。
微かにだが…その包帯には、血の跡があった。
何故だろう。この赤色は…どこかで…。
その刹那、私の頭に激痛が走る。頭が割れそうな程の痛みだった。
「…ッ!!」
周りの人のどよめき声が聞こえた。だがそんなことなど気にしてはいられなかった。
頭の中で、何かの映像が流れているような感じがする。アレ?これは…この出来事は…。
その瞬間、少しだけだが、思い出した。
美しいほどの紅葉が、風により散ってゆく。
私とあの少女は、歩いていた。険悪そうな雰囲気で。
「アンタさぁ…いい加減やめてよね。」
「どうして?サキがずっと一人でいたから、みんなで誘おうよって…。」
「あいつらは良いかもしれないけど、私にとっては嫌なの!!」
「サキだって、皆の気持ち考えてよ!」
「たかが遊びで…バカじゃないの!?」
少女の目から涙があふれ出す。そして「もうずっと独りでいれば!?」と叫び、横断道路に向かって走って行った。
だが…その直後、私が見たのは、全速力で走ってくる大型の自動車。止まる気配は…無かった。
少女は気づいていない。私の頭の中が真っ白になる。
嫌だ嫌だよ逝かないで。どうして気付かないの?ああ分かった。怒りに駆られているんだ。私のせいで死ぬの?嫌だそんなの絶対に嫌。ごめんなさい、ごめんなさい。あの時私が素直に皆の元に行けば良かった。でも、そんなことよりも今のことをどうにかしないと。私が行かなきゃ。私が…!!
「ユリィィィィィ!!!」
人の目なんか気にしていなかった。私は大声で叫んだ。声に反応したのか、少女は振り返る。
それと同時に、私は少女の体をアーケードの道へと突き飛ばす。
周りにいる人たちが少女を支えた。ああ、よかった。これでいいの。これで…良かったの。
次の瞬間、私の目の前が真っ赤に染まった。
そうして今、私はここにいるのか。何だったんだ。今のは。
そうだ、あの少女の名前らしきものが聞こえたな。早速真相を訊かねばなるまい。
「なあ…。アンタの名前は…ユリと言うのか?」
少女は目を丸くしていた。だが、すぐに気付いて答えてくれた。
「えっと…ユリっていうのはあだ名なんだ。私の本当の名前は、金田 美由里っていうの。あっ、ちなみにサキっていうのもあだ名なんだよ。あなたの本当の名前は…」
私は美由里から本当の名前を教えてもらった。
倉岡 咲子。それが私の名前らしい。