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日本産魔術師と異世界ギルド  作者: 山外大河
序章 覚醒編
5/35

05 目覚めた者

「ふっざけんな……こんな時に……ッ」


 俺は魔術を継続させたまま、ドラゴンの方に視線を向ける。


 詰めが甘かった。


 動かなくなった時点で大丈夫? ドラゴンは倒した? ふざけるな。

 俺は殺した事を確認したか? ……否、していない。


 生き物は、生きている限りは何度だって立ち上がる。佐原に倒された俺が、こうして立っている様に、あのドラゴンだって絶命しない限り立ち上がるのだ。


 ……どうして、殺す事を考えなかった?

 あのまま、踵落とし一発だけではない。確実に殺したと思える位のオーバーキルを行うべきだったのだ。


 それを無意識に行わなかったのは……日常的に何かを殺すなんて環境に置かれていない、日本人の性なのかどうなのか、それは分からない。


 だけどこの状況が成す意味は良く分かる。


 絶体絶命。


 治療を続けないと危険な状態の少女を庇いながら、ドラゴンとの戦闘を行う。これが絶対絶命じゃ無くて何になるんだ。


 その時、ドラゴンの咆哮が再び響き渡り……頬がやや膨れ上がったのが見えた。


「まさか……ッ」


 またあのブレスが来るのか……そう思った時だった。

 ドラゴンの口から白い霧が放たれる。


「……目暗ましか……ッ」


 霧に寄って一気に視界が悪くなり、ドラゴンが文字通り消える。


「くそ……何処から来る……ッ」


 見えない遠距離からのブレスとか来られたら、対処できるのか?

 なにより……この子がいる状態で。


 そう思った時、ドラゴンの居た方から大きな地響きが鳴り響いた。

 警戒して、流石に回復術式を打ち切って肉体強化に移る。


 ……流石にすぐに死んでしまう事は無い筈だ。

 俺はそう信じてどの方面から来てもある程度対処できるように身がまえた。


 そうして……それはやってくる。

 真上から……巨大化したドラゴンの尻尾が。


「なに……ッ!」


 俺は辛うじてそれに反応し、振り下ろされた尻尾を受けとめる。

 訪れる衝撃に腕がしびれるが……軽すぎる。

 振り下ろされる力が……押しこむ力が、殆ど感じられない。


「……まさかッ」


 俺は気合いでその尻尾を払いのけようとする。

 それと同時に再び正面から地響き。俺が思いのほか楽に尻尾を撥ね退けた次の瞬間、霧の中でも見える範囲までやって来たドラゴンの姿は……尻尾が無い。

 つまり今のは囮……本命は、


「巨大化!?」


 尻尾と同じく巨大に膨れ上がった足。

 俺と少女を纏めて潰すかのように、それは躊躇なく落とされる。


「ぐぉ……ッ」


 それを俺はなんとか……両手で受けとめた。

 だが尻尾の時の比では無い……全身の体重が掛ったこの攻撃は、尋常じゃ無い力を秘めている。

 腕が軋む。全身が悲鳴を上げる。


「グ……あぁあああああああああああああああああああッ!」


 身動き一つ取れない、相手を圧倒するプレス攻撃。

 つまりは、この状況に追い込まれた時点で……俺の負けだったのだ。


「ぐ、うおおおおおおおおおおおおッ!」


 俺はなんとか押し返そうとするが、びくともしない。寧ろ今も抑えられている事が奇跡で、だんだんとジリ貧に追い込まれている。


 ……どうすりゃいい。


 俺は必死に考えるが、こんな状況では……いや、俺の持ち駒では、きっとどんな状況で考えようが打開策は浮かんでこない。


 詰み……王手。


「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 もう終わりだ……そう思った次の瞬間、俺は先程考えた事を否定する事になる。


 俺の持ち駒では、どうする事もできない。


 だが、この状況において、持ち駒と呼んでいいかは分からない物の、確かに俺とドラゴン以外の駒は置かれていた。


 俺を横切る様に、一筋の電撃が走る。

 それはそのままドラゴンへと突き刺さり、咆哮を上げたドラゴンは大きくバランスを崩した。

 ……その隙を逃さない。


「うおらああああああああああああああああああああッ!」


 俺は全力でドラゴンを押し切り、ドラゴンを後退させる。

 そしてそのまま飛び上がり、バランスを崩し今にも倒れそうなドラゴンに放つ。


 全力の勢いのとび蹴りを、再び腹部に。


「倒れろおおおおおおおおおおッ!」


 俺の叫びと共に、叩き込んだ右足に衝撃。次の瞬間ドラゴンが倒れた事を意味する衝撃が部屋内に走った。


「……ハァ……ハァ……」


 俺は再び動かなくなったドラゴンの腹の上で荒い息を吐く。

 一先ずは動かなくなった。気絶か、それとも今度こそ絶命したのかは分からない。だけど目先の危機が去った事だけは確認出来た。


 それもこれも、この場にいたもう一人の駒のおかげで。 

 俺は少女の方に視線を向ける。


 少女は依然血塗れだった。まだ安堵はできず、継続した治療が必要になってくる。

 だけど確かに……目を覚ましていた。


 目を覚ましたのは、何も敵だけではなかったのだ。

そろそろ序章が終わる予定です。

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