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日本産魔術師と異世界ギルド  作者: 山外大河
序章 覚醒編
1/35

01 プロローグ

 ……迂闊だった。


 俺、浅野裕也(あさのゆうや)は荒い息を漏らしながら、心中でそう後悔の言葉を漏らす。

 状況は最悪だった。

 路地裏の壁に背を預けへたり込む俺の体は、少しでも動かしただけで激痛が走り、この状況を作り出した目の前の男から逃げる術が無い事を理解させた。


「おいおい、もう終わりかよ」


 目の前の男……クラスメイトの佐原義也(さはらよしや)、は無表情で俺を見降ろしてそう述べる。

 この状況を客観的に述べるとすれば、勝者と敗者の図だった。


 ……何やってんだよ、俺。


 俺は自分の行為に酷く呆れてため息を付いた。


 別に喧嘩の過程に悔やんでいる訳ではない。そもそもの所、端から勝てるわけが無かったのだから。

 呆れるのは……相手が自分とはかけ離れた存在であると分かっていながらも、佐原の目の前に踊り出た自分の馬鹿さ加減にだろう。

 佐原が行うカツアゲ現場に出くわして、助けに入って……このザマだ。こうなるのが目に見えているのに、体が勝手に動いちまったんだ。本当に馬鹿らしい。


「ったく、碌に魔術も使えねえくせに突っかかって来るから、実は魔術以外で俺を追い詰める策でもあんのかと思ったのによ……あんまりガッカリさせんなや」


 ……魔術。

 それが俺と佐原の勝敗を決めた力である。


 現代日本において、魔術は誰でも扱える様な技術だが……当たり前に扱えるだけであって、その効力は個人差が大きく現れる。

 簡潔に言えば、佐原は高校の中でもトップクラスの実力を持っていて……俺は最底辺。だから俺はアスファルトにへたり込んでいるのだ。


「おいおい、なんか言ったらどうだよ。こっちはターゲット逃してイラついてんだよ。謝罪の言葉とかねーのかよオイ」

「うるせーよ……つーか、なんでカツアゲなんかやってんだ。てめぇ別に金とか困ってねえだろ」


 佐原の家は所謂地主という奴で、つまりは金持ちである。噂では佐原のポケットマネーだけで札束ビンタができるらしい。


「……はぁ、分かってねえな、お前」


 佐原は呆れたようにため息を付く。


「金じゃねえんだよ目的は。ほら、RPGとかでモンスター倒すと金落とすだろ? あんな感じだ」

「……さっぱり分からねえが?」

「鈍いなぁ。狩りだよ狩り。それこそが魔術の最も有能な使い方だろ?」


 実際、日常生活で使い所なんか殆どねーし、と佐原は言う。

 確かに、肉体強化や回復魔術などはともかく、現代日本において魔術というのは殆ど使い所の無い技術と言って良いだろう。

 例えば発火魔術。あんなもんを家の中で使えば火災報知機が鳴るし、風を起す魔術だって、扇風機代わり位にしか鳴らない。

 佐原の言う通り、魔術はきっと戦闘の為にある物であって、佐原の使い方はきっと間違っていないのだろう。

 人間としては間違いすぎているが。


「ホント、なんでこの世界はこんなに生きにくいのかねぇ。どうせならファンタジーRPGみたいな世界に生まれて勇者でもやりたかったぜ俺は」

「どちらかというと、魔王の方が向いてんじゃねえのか?」

「ちげえねえな、多分俺は魔王だ」


 ……自覚してやってんのが質わりいよ。


「……じゃあ俺に楯突いた勇者には、罰を与えねえとなぁ」


 佐原の眼の色が変わる。

 文字通り……黒から赤への変色。魔術を使用する証拠。

 次の瞬間、俺の真下に紫色の魔法陣が展開された。


「コレさあ、家の蔵に封印みたいな扱いで保管されてた魔道書の魔術なんだよ。どうもこの前爺さんが交通事故でポックリ逝った時から封印が解かれたみたいでよぉ。俺が拝借したわけ」


 だがなぁ、と佐原は悪意に染まった笑みを浮かべる。


「残念な事に、この術式の効力は全く知らねえんだ。詳しい説明は何書いてあんのかさっぱり分かんなかったし、封印されてた魔道書だから知ってる奴も身近にいねえ。だったらよ……気になんじゃねえか。使ったらどんな事が起こるか」


「……てめぇ」


 コイツは……もしかしたら人が死ぬかもしれない様な事を、平気でやろうとしていた。

 その目に躊躇いはなく、ただ何時も誰かを虐める時と同じ様な赤目に、好奇心の色を混ぜ合わせた、そんな目つきでターゲットを……俺を睨み、発動させる。


「……ッ」

「おお、なんかすげえなオイ」


 魔法陣から眩い光が放たれた。あまりに強烈なその光は、俺の視界を奪い、俺の世界は白に染まり……それと同時に急激な眠気が俺を襲った。

 ……催眠系の魔術か?

 しかしそんな思考もすぐに掻き消され……白くそまった俺の視界は暗転し、俺の意思は薄くなっていった。



                  ◆◇◆◇



 目を開いた時に最初に見た物は、佐原でも路地裏の壁でもなく……青っぽい石造りの壁だった。


「ここ……は?」


 どういう訳か同色の石造りの床にうつ伏せで倒れていた俺は、ゆっくりと体起しつつそう漏らした。

 床も壁も石造りの、ダンジョンとでも言うのが適切な雰囲気を漂わせるこの場所は……少なくとも、さっきまでいた路地裏ではない。


「つーことは……さっきのアレは転移術式か?」


 転移術式……簡潔に言えばテレポートみたいな物である。どうやら俺はどこか屋内に居るみたいだが、あの路地の周辺にこんな内装をしてそうな建物はなかったから、アレは転移術式だったと考えるのが適切だろう。


「だとしたら、俺は一体どこまで飛ばされたんだ?」


 もしかすると海外とかまで飛ばされてるんじゃないか? 封印されてたとか言ってたし。

 だとすると相当マズイ……言語の方は辛うじてなんとかできるとしても、日本円しか持っていない事だけはどうにもならない。もっとも財布の中に六百円しか入っていない時点で、県外に飛ばされただけだとしても厳しいが。


「まあとりあえず……殺傷能力のある魔術じゃなかっただけマシか」


 色々と面倒な事は間違いないが、それだけは本当に良かった。


「……よし」


 まあ此処が何処だとかそういう事を考える為にも、まずは外に出なければなるまい。

 俺はそう考えてゆっくりと立ち上がる。


「まだ痛ぇけど……なんとかなりそうだな」


 怪我はどうにもならないにしても、単純な痛みはある程度休めばそれなりに緩和される。とりあえず両手の自由が利いて、両足でしっかりと歩ければ大丈夫だろう。


「さて、どう歩けば出口に辿りつけるんだ?」


 今俺は廊下の様な場所に立っている。だから進む方向は前後どちらかになる訳だけど……はっきり言って、出口を示す手掛かりなんて何処にもない。


「当てずっぽうに進んで行くしかないか」


 俺は深く考えるのを諦めて、そのまままっすぐ歩きだす。


「しっかし……ダンジョンっぽい雰囲気だなここ」


 今にもモンスターとか出てきそうである。まあ佐原でもなければそんな状況は望まないだろうし、少なくとも俺は御免である。


 佐原位ならともかく……俺の実力じゃ、最初の街の周辺に生息してるモンスターを倒すのがやっとだ。こんな怪しい場所でRPGの如くモンスターが現れれば、即棺桶行きだ。現実じゃ教会なんかに連れてかれず、そのまま火葬されて墓の下。だからモンスターとかはマジ勘弁である。


 ……もっとも、あくまで出てきそうな雰囲気なだけで出て来る訳が無いとは思うのだが。


「まあ此処から出れずに餓死して火葬みたいな事にはならねえようにしねえと……って、ん?」


 曲がり角を曲がった先に、赤い巨大な扉があった。

 例えるならそう……ボス部屋みたいな感じである。


「……どうすりゃいいんだ?」


 なんとなくこの扉を開けてその先に進む事に嫌な予感はするのだが、もしコレが出入口だったらどうする? そうなればこのどれだけ広いかも分からない建物の中を彷徨い続ける事になるのだ。


「とりあえず……進んでみるか」


 まあボス部屋とか言ったって、ここは現実だ。モンスターが居そうなだけで、実際には居やしない。だから安心して扉を開ければいい。


「つーか……開くのか? コレ」


 とりあえず扉の前までやってきたが、高さ五メートル近いこの扉は、はたして押したり引いたりの基本動作で開ける事ができるのだろうか。

 一応俺も微力ながら肉体強化を扱える訳だし、ある程度筋力の底上げはできるけど……やった所でこの扉を開けるのは厳しいんじゃないかと思う。


 目の前に立って開かないって事は自動ドアではないし、かといって周囲にスイッチなどは無い。だとすれば別に部屋に扉開閉のシステムでも用意してあるのか?


「……まあ押すだけ押してみるか」


 開かなかったら開かなかった時だ。

 俺はそのまま扉に手を伸ばす。


 肉体強化を使わないのは、使うと僅かながらに肉体に負担が掛るからだ。佐原にボコボコにやられた今、改めて肉体強化を使うのは避けたいところ。

 だからとりあえずは素の力で押してみる事にしたのだ……が。


「……え?」


 なんとその扉は、触れただけで勝手に開き出した。どうやら触れると開くようになっていたらしい。

 だけどどうやら俺の読みは外れていた様で、扉が開かれていっても外の光が入ってくる事は無い。どうやら出口の扉では無かったようだ。


「まあこの部屋の先に出口があるかもしれないか……ら?」


 ギシギシと開いていく扉を見ながらそんな事を口にした俺は……開かれた扉の先の光景を見て、思わず絶句する。


 ……一言で言えば、ファンタジーRPGだった。

 中世風の衣服を着た十四、五位の女の子が掌から電撃を放っている。

 それはいい。それは別に良いのだ。

 その位ならば、あの子コスプレでもしてんのかな? で済む話である。

 問題はその電撃が放たれた対象。


「ドラ……ゴン?」


 俺は思わずその存在の名を口にする。

 俺の視界の先。水色のショートカットの少女が戦うその相手は……直径十メートルはあろう、白い鱗を全身に纏った、二本足で立つファンタジーの世界の存在。

 それはまぎれも無いドラゴンだった。

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