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1 神からのBLACK−MAIL
騒がしい着信音と共にメールが入ってきた。
机におきっぱなしのケータイが、べートベンの『運命』(トランスMix)とバイブ音でコラボレーションしている。
バイブのせいで机から落ちそうな気がして、僕は読んでいた本を机に伏せた。
無機生命体であるケータイも使い慣れてくると愛着がわくもので、早く出てやらないとなんて思う。
発光ダイオードの七色が僕を急かす。
椅子から体を伸ばして、見事到着。
そして同じ苦労をして、椅子にもどる。
部屋の空気が止まった。CDプレイヤーが、振動で止まったらしい。いいとこ聴いていたのに…
本もそうだ。マクベス、いいところだったのに。
ケータイを持ったまま日に焼けた背表紙をにらむけど、悲劇を読む気分じゃない。 …もういいや。
諦めて、はいはいと言った感じで画面を開くと、『受信メール1件』とのこと。
誰だろう、友達かな。
…僕が送らないとメールなんて滅多に来ないのに、珍しい。
乾いた笑いと、そのあとに長い溜息。
まぁ… そんな哀しいことはさておき、慣れた動作で僕はメールを開いた。
『Dollの皆様、裁きの時はやって参りました。只今からDollの皆様の処刑を開始いたします。
異端者には神の子による死を BLACK-MAILER』
…不幸の手紙?
そう。なんともない悪戯メール。
一件消去を選んで、消してしまえばいい。殺されるわけないんだから。
そう思ったけど、なにか引っかかる。 …妙におかしい。不幸の手紙らしく、ない。
『死ね』と書いてあるのはお約束だけど、何人に回せば大丈夫とか回避方法が書かれていない。
「はぁ…。無限にメールを回せと…?それとも、僕によっぽど死んでほしいのか…」
僕はケータイを持ったままベランダに出て、風にあたる。やはり、考えすぎなのだろうか。
自分が握り締めているものが、突然に怖くなる。
白白しい画面に映る文字が、僕の鼓動を加速させていく。
…何故か自分が、このメールの送り主に殺されるような気がしてならないのだ。
「まさか。まさか… ね。」
口に出す言葉とは裏腹に、ケータイを握る手は段々と震えてきた。
本当に、何故だろう。別に不幸の手紙とかの悪戯メールは、今回が初めてというわけでもない。
逆に慣れているといったほうがいいくらいだ。
でも何故か、このメールだけには反応してしまう。少し涼しい風が耳元を通った。
「風巳―、ご飯出来たから降りてらっしゃい。」
「お兄ちゃん、早く来ないと、おかず全部食べちゃうよー!」
ふと、意識が現実に戻された。
母さんと妹の声が、一階のリビングから聞こえてくる。
なんか、メールなんてどうでもよくなってきた。おなか減ったし、うん。
僕は意外にさっぱりしたところがあるとおもう。自称だけど。
それに… 大体、Dollとはなんなんだ?
ベランダの戸を閉めて、下のリビングに向かいながらそんな事を考えていると、なんか人事のような気がしてきた。
「母さん、今行くー。おかず残しておいてよー。」
僕の声は、妹まで届いてんのかなぁー?
早く行かないと、僕の分まで取られるんだから…
取られたら恨む程の好物はないけど、おかずなしで白米を食べつづけるのはやっぱり哀しい。
階段を足早に降る。フローリングを走るときは、滑らないように注意しながら。
僕は日常を進んでいく。それなりに楽しくて、つまらなくて。それなりに退屈で、窮屈でも。
日常はリフレインするものだから。 …メールなんて気にしない。
大体、僕は「ルリガキ カザミ」であって「Doll」とは何の関係もないんだ。
たわいもない にちじょうが ぼくは いちばん すき 。
主人公・風巳君はいかがだったでしょうか?
彼の日常はこんな感じです。
そして、これから崩れていきます。