表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/33

王さま

「あー、もうこんな時間か」

「何?どうしたの?」

「あともうちょっとしたら、出発の時間なんだ」

「えっ、もう?」

「うん。馬車の時間」

「まだもっと話したいことがあるのに!」

「仕方ないだろ。我儘言うな」

「だって…」

「出発する準備は出来てるのか?」

「うん。宿に戻ったら、いつでも出れるよ」

「それなら、もうちょっと喋れるよね!」

「そうだね。ギリギリまで、何か話そっか」

「やった!」

「いや、ギリギリだといろいろ危ないだろ。時間には、ちゃんと余裕を見とかないと」

「兄ちゃんは、響や光と一緒にお喋りしたくないの?」

「そういうわけじゃないけど、それとこれとは話が別だ。何かの事情で時間に間に合わなかったらどうするんだ。そのときになって、もう少し早く準備してたらと思うのでは遅いんだぞ」

「むぅ…」

「翔は真面目なんだね」

「真面目すぎて困るよ…」

「でも、本当に万が一ってこともあるから、早めに準備しておくっていうのには賛成だよ」

「もう…。ルウェまで…」

「じゃあ、これでお開きかな」

「えっ、見送りくらいさせてよ」

「してくれるの?」

「当たり前でしょ!」

「そっか。…ありがと」

「まあ、宿に戻るか、とりあえず」

「うん」


送別会の用意は片付けて、さっさと引き上げる。

弥生はぐずぐずしていたけど、時間を稼いでいるつもりだろうか。

…ギリギリまでやっていて馬車に乗れなくなったら、もっと落ち込むことになるだろうし。

気分良く見送ってやりたいしな。


「旅ってこれが嫌だよね…」

「まあ、仕方ないよ。別れも旅の一部なんだし」

「そうかもしれないけど…」

「また新しい出会いがあるよ、きっと」

「でも、その出会いにも別れが…」

「そういうネガティブな方向に考えないの」

「だって…。あっ、私たちも今日出発すれば…」

「そんな準備はしてないし、仮に出発出来たとしても、それも柚香とかこの街で会ったみんなとの別れになるだろ」

「うむむ…。そうか…」

「出発の段取りは、また決めればいい。でも、今日今すぐにっていうのは無理だ」

「柚香と別れることになるとは…」

「次は、二人はどこに行くの?」

「私たち?私たちはどうかな、兄ちゃん」

「ルイカミナの方面から来たから、ユールオ方面かな。カシュラでもいいけど」

「わたしたちはユールオだよね」

「うん」

「じゃあ、ユールオに行こう」

「お前な…」

「いいじゃない!王さまにも会いたいし!」

「そんなにすぐに会えるものなのかな…」

「灯の友達だって言えばすぐだよ!」

「灯は別に、フリーパスじゃないんだからな…」

「似たようなものでしょ。お姉ちゃんだって言ってたし」

「いやいや…」

「ねぇ、二人は王さまに会うの?」

「どうしよっか、光。全然考えてなかったけど」

「ちょうど、王さまの、都合が合えば、いいんじゃないかな」

「そうだね。謁見の期日とかもあるはずだし」

「いいな。私も王さまに会ってみたい」

「じゃあ、柚香のために、王さまに来てもらおう!」

「適当なこと言うな。無茶苦茶だし」

「だって、柚香が会いたいって言ってるんだよ」

「王さまに来てもらうのは、すごく畏れ多いかな…」

「国民が謁見を望んでいるんだから、それくらいして当たり前だよ!」

「謁見っていうのは、王さまに会いに行くことだ」

「同じでしょ」

「はぁ…。もう、こういう下らない話で体力を消耗させるのはやめてくれよ…」

「断固拒否!」

「あはは…。面白いね、二人とも…」

「俺はただの巻き添えだ。面白可笑しいのはこいつだけでいい」

「私は別に面白可笑しくないし!」


こいつは、変なところで変な風に突っ掛かってくるから面倒くさい。

柚香個人のために王さまに来てもらうなんて、普通に考えても無理だし、柚香自身も嫌だって言ってるのに。

でも、極端な負けず嫌いだからな…。

面倒だからと相手にしないと、それはそれで面倒くさいことになるし…。


「でも、王さまってどんな人なんだろうね」

「きっと、すごく綺麗で、格好よくて、なんでも出来て、すごい人だよ!」

「完璧超人だな…」

「それくらいでないと、王さまは務まらないよ」

「いやいや、そんなことないだろ」

「あるよ!いいなぁ。私も、王さまみたいな女の人になりたい!」

「会ったこともないのに…。しかも、たぶん、そんな完璧超人じゃないぞ」

「会ったことなくても分かるの!」

「また根拠のない自信を…」

「でも、王さまってホントにどんな人なんだろうね。言われてみれば、よく知らないし」

「灯に聞いてみれば、詳しく教えてくれるんじゃないか?」

「やっぱり、実際に会ってみないとねぇ」

「まあ、それはそうかもしれないけど」

「上手く、謁見出来たら、いいんだけどね」

「なかなか難しいんじゃないか?王さまだって、暇じゃないだろうし」

「えっ、王さまって暇じゃないの?」

「どんな王さまを想像してたんだよ…」

「優雅に蹴鞠とかして…」

「そんなわけないだろ、一国の王なんだから。そんな優雅な生活をしてるのなんて、平安時代の貴族くらいのものだろ」

「えぇ、そうだったんだ…」

「もっと学が必要だな、弥生には…」

「うっ…。学かぁ…」

「まあ、一国を、背負って、立つわけだからね。責任は、すごく、重大だと思うよ」

「光は、王さまになりたい?」

「えぇ?どうかな…。わたしは、そんな責任には、耐えられないかも」

「王さま!ってかんじがするのになぁ」

「どんなかんじだよ…」

「光なら、きっといい王さまになれるよ!」

「そ、それは、どうなのかな…」


また根拠のない自信というか、妄想だな。

だいたい、光がなんで王さまになるんだろうか。

そこからして分からない。

王さま!ってかんじというのも分からないし…。

弥生は、感性で話すことが多いからな…。

困ったものだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ