ピクニック
「ピクニック楽しいね」
「俺だけおにぎり弁当だけどな」
「自業自得だよ。ね、ルウェも楽しい?」
「うん、楽しいよ」
「そっか。よかった」
「初めましての人とピクニックなんて、正直イヤじゃない?」
「ううん、そんなことないよ。みんな優しくていい人だし」
「そうかな」
「お世辞を真に受けるなよ」
「真に受けてなんかないし」
「お世辞じゃないよ。今日ここに来て、本当によかったって思ってる」
「それならいいんだけど」
楽しんでくれてるならよかった。
せっかく、みんなで集まってるんだから。
俺一人がおにぎり弁当でも、それはそれで構わない。
「柚香も、わざわざごめんね」
「大丈夫だよ。誘ってくれてありがとう」
「お礼を言われるほどでもないよ。あんまり無理しないでね」
「うん」
「パーッと盛り上がっていこうよ!ジュースはないの?」
「お茶だけだよ」
「えぇ…。まあいいや。乾杯しようよ、乾杯!」
「あんまり騒がしくしてると叩き出されるぞ」
「乾杯くらい大丈夫だよ!ね、乾杯!」
「五月蝿いやつだな…」
「いいじゃない、一回くらい。ほら、みんな、お茶持って!」
「はいはい…」
「何に乾杯するの?」
「今日という日に!乾杯!」
「えぇ…。乾杯…」
弥生一人だけが盛り上がって、乾杯は終了した。
まあ、一回やらせておけば、しばらくは静かにしてるだろうし。
今日という日に乾杯とか全く意味が分からないけど。
「ピクニックって楽しいね!」
「テンション高いな、お前…」
「楽しいから!」
「まあ、楽しかったら楽しいよね」
「意味が分からないからな」
「旅もいいけど、こうやってみんなといるのも楽しいよね」
「それぞれの良さってのがあるから」
「友達みんなと一緒にいて、みんなといっぱい遊んで。そういうのもいいよね」
「そんな風がよかった?」
「…ううん。私は、今がすごく楽しいから。だから、今はいいかな。旅がもし終わったら、また考えてみる」
「そうだね」
旅の生活は、弥生にとってどういうものなんだろうか。
俺はもちろん、楽しくてやってるんだけど…。
女の子だし、まだまだたくさん遊びたい年代だろうし…。
弥生はいいって言ってくれるけど、やっぱり不安は不安だ。
「美味しいね、このお弁当。どこの?」
「宿の近くのお弁当屋さんのだよ」
「じゃあ、俺がこれを買ったのと同じところかもしれないな」
「そういえば、そんな安っぽいのもあったかもね」
「安っぽいって、おにぎり弁当をバカにするなよ」
「はいはい。おにぎり王子は黙ってなさい」
「響。そんな、冷たいこと、言っちゃ、ダメだよ」
「もとはと言えば、おにぎり王子が悪いんでしょ」
「俺はおにぎり王子じゃないぞ…」
「おにぎりもいいと思うよ。いろいろバリエーションもあって、美味しいよね」
「柚香、無理して兄ちゃんの肩を持つことないよ」
「肩を持ってるわけじゃ…」
「と、とにかく、楽しいピクニックなんだし、みんなで仲良くしようよ」
「そうだよ、響。いつまで、ヘソ曲げてるの?」
「曲げてないし!」
そう言って、俺に魚の醤油差しを投げ付けてくる。
まったく、なんだってんだ…。
まあ、別に何も言わないけどさ…。
「もっと楽しい話をしようよ!」
「そうだね。どんな話がいい?」
「んー、ルウェの旅の話とか」
「じ、自分の?そんな、大して面白くないよ…」
「そんなことないよ!旅って、どんなのでも面白いんだから!」
「う、うーん…」
「ね、聞かせてよ!」
「じゃあ、ちょっとだけ…」
「やった!」
「まったく…。ごめんな、ルウェ」
「ううん。大丈夫だよ」
「ねぇ、早く聞かせて!」
「うーん…。何がいいかな…。日向、何かあるかな」
「そう言われると、結構悩んじゃうね」
「そうだよね…」
「無理して話すことないんだぞ。弥生の我儘なんだし」
「あ、そうだ。龍王の話」
「リュオウ?」
「龍王って書いてリュオウって名前の子がいるんだけど、日向と同じでシェムなんだ」
「聖獣なのか?」
「ううん。こっちにもともといるシェムだよ」
「へぇ、そんなのがいるんだ…」
「うん。それでね、前にシェムの集落に行ったときに会ったんだけど、龍王って名前なのに、実は女の子なんだ」
「えぇ?もしかして、貴族の子供だったりする?」
「貴族じゃないけど、村長さんの家の子。お父さんが、どうしても男の子が欲しかったんだって。後継ぎとかじゃなくて、純粋に」
「それで龍王なんて付けたの?その子が可哀想だね…」
「そうでもないみたい。龍王、自分の名前がすごく好きだって言ってたし」
「ふぅん…」
「それなら、いいじゃない。やっぱり、自分が、どう思うかだよ」
「うん、そうなんだよね。それでね、龍王は、今は社会勉強のために旅をしてるんだ。またいつか、どこかで会えるかもしれないよ」
「こうやって話を聞いたのも何かの縁だろうしな」
「シェムの女の子かぁ。会ってみたいなぁ」
「日向もいちおう女の子だよ」
「女の子って歳じゃないけどね…。もうおばさんよ。二人も子供がいるし」
「えっ、二児のお母さんなんだ!」
「うん、まあね」
「すごーい!」
「弥生の判断基準って、たまによく分からないよね…」
「こいつの夢が、お母さんになることだからな。分からないことはない」
「なんとも乙女な…」
「見た目通りの子供だよ、こいつは…。お金には五月蝿いけど…」
「お金は大切だもん!」
「そりゃそうだけど…」
「まあ、お金の無駄遣いをするよりはいいでしょ。路銀がなくなるのは死活問題だし」
「分かってるけど、ちょっとしたものも買えないのはなぁ」
「必要ないものは要らないの!」
「こんな調子だよ」
「あはは…。でも、必要なものは、ケチらずに、ちゃんと買えるって、大切なことだよ。倹約倹約って言って、必要なものまで、削っちゃう人も、いるから」
「吝嗇家だな、そこまで行くと」
「リンショクカって何?」
「ケチの殿堂入り!爪に火を灯すっていうのを地でやるような人のこと!」
「えぇ…。それはイヤだなぁ…」
「だから、いくらなんでもそこまでやるなってことだよ」
「なるほど…」
「いや、吝嗇家は吝嗇家で、ひとつの生き方なんだし…」
「ケツの毛まで毟り取るような人間になっちゃダメ!」
「女の子がケツなんて言うなよ…」
「倹約はいいけど、吝嗇はダメ!」
「何かトラウマでもあるのか?」
「響は、自分の、好きにしたいような、人だから」
「あぁ…。まあ、倹約までならギリギリセーフってことか…」
「うん」
まあ、普通の人はそうかもしれない。
必要なものまで削って平気な人なんて、そうそういないだろうし。
「まあ、別の話をしよう。吝嗇の話をしてたって面白くないし」
「そうだね」
「じゃあ、私、柚香の話が聞きたいな」
「えっ、わ、私の?」
「うん。だって、こうやって会えたのも何かの縁だと思うし。私の話もしたでしょ?」
「うーん…。あんまり話すこともないような…。この街から出たこともないし…」
「それだったら、この街の話を聞かせてよ」
「え、えぇ…」
「なんでもいいから。ね?」
「じゃあ…どうしようかな…」
柚香はそのまま考え込んで。
そういえば、この街のことってあんまり知らないかもしれない。
宿の周りと、あの修理屋くらい。
…どんな街なんだろう。
柚香は、どんな話を聞かせてくれるんだろうか。