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夜明け前に

「おい、起きろ、翔」

「うーん…。なんだよ、凛…。まだ朝じゃないだろ…」

「朝の散歩だ」

「お前だけで行けよ…」

「光も来るぞ」

「俺はまだ眠い…」

「起きろ、ほら!」


布団を取り上げられ、ベッドから蹴落とされる。

なんとか上手く着地したけど、下の階の人に文句を言われても仕方ないレベルではある。


「まったく…。なんだよ…。弥生でも連れていけばいいだろ…」

「弥生は寝てる」

「俺も寝てた」

「翔はいいんだ。早く服を着ろ」

「意味が分からないから…」

「早くしろ!」

「はいはい…」


まったく、夜明け前から元気だな、こいつは…。

とりあえず、枕元に用意してあった服を着て。

まず、顔を洗って、いろいろしてだな…まあ、顔だけでいいか。

凛が五月蝿いし…。


「早くしろ」

「顔くらい洗わせてくれよ…」

「十秒だ!」

「はいはい…」


手拭いを持って、部屋を出る。

正面の部屋から少し灯りが洩れているから、光も行くというのは本当なのかもしれない。

…ぼんやりとした頭でそんなことを考えながら、洗面所に向かう。


「あっ」

「ん?光か?」

「ま、まだ、寝癖が、直ってないから…」

「…から?」

「こっち、見ないで…」

「別にいいじゃないか、寝癖くらい。お前も、凛に起こされたタチか?」

「ううん…。わたしは、響に…」

「ふぅん…。なんか怪しい気もするな、その組み合わせは…」

「やぁん…。寝癖が…」

「今の時間なんて、誰も見てないから大丈夫だって。そのうち直るし」

「か、翔が、見てるでしょ…」

「ん?あぁ、俺は気にしないよ。どうせ、俺も寝癖だらけだし」

「わたしは、気にするの!」

「はいはい…。まあ、早くしないと、凛にどやされるぞ」

「うぇーん…」


光は、奇妙な泣き声のようなものを発しながら、必死に櫛で髪を鋤いている。

可愛いな、こんな姿も。

…と、俺もこんなことしてる場合じゃないんだった。

顔を洗って、口を濯いで…。

ふと、隣の鏡に映る光の困った顔が見えた。

寝癖を庇って後ろを向いていても、鏡を通してなら正面から見れる。


「どうしたの、翔?」

「いや。光はやっぱり綺麗だなと思って」

「な、何を、急に…」

「…なんでもない」

「気になるなぁ…。あっ、何か、やらしいこと、考えてた?」

「なんでそうなるんだよ…。響の入れ知恵か?」

「うっ…。ごめんなさい…」

「別にいいけど。まあ、警戒するのは大切なことだ」

「警戒なんて、そんな…」

「とりあえず、早く寝癖直せよ」

「うぅん…」


光は、結んで誤魔化したりしないんだろうか。

弥生はあんまり長くないし、今まで寝癖も直したことがないから、よく分からないけど。

…もう少し、女の子らしくさせた方がいいんだろうか。

男の俺には分かりかねることだな…。


「…なぁ、光」

「何?」

「弥生、もっと女の子らしくさせた方がいいのかな」

「えっ?充分、女の子らしいんじゃ、ないかな?」

「そうか?寝癖で髪が逆立ってても無視してるし、まあ、尻尾の手入れはしてるけど…。早食いの大食いだし、風呂に入れなくて臭くても、あんまり気にしてないし…」

「臭いのは、ちょっと、ダメかな…。寝癖も、最初、翔が直してあげたら、弥生も、自分で、ちゃんと、やるようになると、思うよ」

「そうかな…」

「そうだよ」

「じゃあ、まあ、その辺から始めてみるかな…。臭いのはどうすればいいんだ?」

「お風呂に、出来るだけ、入れさせてあげたら、いいんじゃないかな」

「言って入るかな、あいつ…」

「翔と、一緒に、入ってるの?」

「ああ。もうそろそろ、一人で入りたいとか言い始める時期だと思うんだけど、全然だな。胸も膨らんできてるのに…」

「一緒に、入ってるんだったら、翔から、声を掛けてあげれば、いいんじゃないかな。それに、一緒に、入りたいって思うのは、別に、悪いことじゃ、ないでしょ。それだけ、翔のことを、信頼してるってことだよ」

「そうなのかな…。まあ、別にいいんだけど…」

「弥生の、身体の変化に、気付いてあげられるっていうのは、一緒に、旅をしてるんだったら、とっても、大切なことだよ。女の子の、身体の変化って、すっごく、重要だから」

「俺は男だから、その辺のことはよく分からないけど…。光、助けてくれるか?」

「もちろんだよ。お乳が、膨らんできてるってことは、生理が、まだ来てないんだったら、もうすぐ、始まるよってことだよ。私からも、いろいろ教えてあげるけど、やっぱり、翔から、ちゃんと、教えてもらう方が、弥生には、一番いいと思う」

「まあ、いちおう、旅に出る前に、弥生と行くんならってことで、いろいろ教え込まれたから、それなりには知ってるんだけどな…。でも、俺の身体で起こってるわけでもないし、ちょっと気恥ずかしいし…」

「恥ずかしがってちゃ、ダメだよ。弥生にとって、大切なことなんだから。もし、生理が、急に始まって、股のところから、血が出たって、弥生が、パニックになっちゃったら、どうするの?そのときに、これは、生理なんだよって教えて、ちゃんと、聞いてくれると思う?」

「そう言われると…」

「翔から、ちゃんと、教えてあげて」

「分かったよ…」

「うん。どうしても、分からないことがあったら、そのときは、わたしに任せて。どの生理用品が、いいのかとか、そういうのは、分からないでしょ?」

「まあ、それはな…」

「じゃあ、まずは、今日の、お風呂のときだね」

「でも、露骨すぎやしないか、それは…」

「他に、どこで、教えるのよ。一緒に、入ってるんだったら、ちょうど、いいじゃない」

「分かった分かった…。やってみるよ…」

「うん」

「…おい、お前ら。早くしろ」

「わっ!り、凛…。いつの間に…」

「翔の十秒はどれだけ長いんだ。待ちくたびれたぞ。光も早く来い」

「あっ、ちょっと待って…。まだ、寝癖が…」

「そんなのどうでもいい」

「よくないってば…。あっ、まっ、ちゃんと、直させてぇ…」


抵抗虚しく、光は凛に引き摺られていってしまった。

相変わらず強引なやつだ…。

とりあえず、光が持ってきたと思われるものを全部まとめて、俺も追い掛けることにする。

…保湿クリームに櫛、少し湿った柔らかいタオル、歯ブラシ、金属製のコップ。

これだけか?

なんか、もっと化粧品とかがあると思ったけど。

まあ、見当たらないしいいか。

光はあんまり化粧しないんだろう。

旅をしてるから、化粧をする習慣がないのかもしれない。


「………」


タオルから、光の匂いがする。

甘い、女の子の匂いだ。

…って、いやいや!

何をやってるんだ、俺は!

バカなことやってないで、早く二人に追い付かないと…。

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