表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/33

団子を食べ終わると、女三人連れ立って、ワイワイと買い物に出掛けてしまって。

いや、凛は嫌がってたか。

とりあえず、ミコトと二人、宿に取り残されてしまった。


(ねぇ)

「なんだ」

(暇)

「そうだな」

(なんか話してよ)

「何を話せばいいんだ?」

(面白い話)

「じゃあ、無理だな」

(むぅ…。ちょっとは頑張ってよ)

「お前、すぐにつまらないとか言うから嫌だ」

(何も喋らない方がつまんない!)

「我儘なやつだな…」


と言っても、俺だって退屈だから、何かないかと考えてみる。

うーん…。


「あ、そうだ」

(何?)

「暇なんだったら、仕事をしに行こう」

(えーっ!)

「嫌なら、お前はここで昼寝でもしてればいい。金はいくらあっても困らないからな」

(仕事バカだね、仕事バカ!)

「おぅ、仕事バカで結構。じゃあな。行ってくる」

(あぁっ!待ってよ!)


部屋を出ようとすると、結局ついてくる。

仕事をするよりも、暇な方が嫌らしい。

改めてきちんと戸締まりをしてから、部屋を出る。


「…しかし、お前も、たまには家に帰ったらどうなんだ?どうせ、向こうに行っても、カタラの集落とかに行ってるんだろ」

(まあ、そうだけど…。でも、イヤだよ。五月蝿いお兄ちゃんもいるし)

「薫だって、お前のこと、心配してるだろ」

(そりゃそうだけどさ…)

「それに、口煩いことに関しては、俺もあんまり変わらないだろ?」

(まだマシだよ。薫お兄ちゃんの口煩さは半端じゃないからね)

「そうだな…」

(あ、でも、千早はどうしてるかな。そっちは心配)

「あいつもたいがい内気だしな」

(うん…)

「まあ、心配なんだったら、一回帰ってみることだな」

(えぇ…)

「はぁ…。お前もたいがい強情だな…」

(う、五月蝿いなぁ…)


でもまあ、無理矢理にでも一度家に帰らせる算段を付けた方がいいかもな。

そうでもしないと帰らないだろうし。

…また薫に相談してみるか。


(仕事って、またあの工場に行くの?)

「工場…ではないな、あれは。ガレージだ、どちらかと言えば」

(どっちでもいいよ、そんなの)

「それで、何だ。あそこは嫌なのか?」

(嫌じゃないけど…)

「何だよ」

(油臭いし…)

「それはどうしようもないな」

(鼻が曲がっちゃうよ)

「そういう意味では、俺の方が辛いはずだけどな」

(お兄ちゃんはいいじゃん。油好きだもん)

「意味合いが変わってくるぞ、それ…」


宿の玄関を開ける。

昼近くの大通りは、大賑わいで。

上手く頃合いを見計らって、通りの真ん中を通ってきた馬車に便乗する。

乗客とも目が合ったけど、あんまり気にもしてないみたいだった。

ミコトは、先に飛んでいってしまったらしい。

…と、御者がこっちに振り向いて。


「ん?よぅ、坊主。無言で便乗とはええ度胸やな」

「どうも。便乗させてもらってます。前見ないと危ないですよ」

「せやな。お前、ちょっとこっちまで来い」

「はいはい…。どうも、前、失礼します。はい、すみません」


荷台の客の間を通って、御者台の隣に座る。

ムカラゥ弁の兄ちゃんは、チラリとこっちを見て、また前を向く。


「お前、御者台に乗ったことあるんか?」

「まあ、バイトでちょっとくらいは」

「ふぅん。旅しとんのか」

「いちおう」

「旅団は?ユンディナか?」

「はい」

「そうか」


首飾り、付けてるしな。

まあ、桐華さんも、これ見てたし。


「天照にも入っとるんか?その足輪」

「ん?まあ」

「ふぅん」

「何なんですか?」

「いや。オレも旅しとるんやけど、旅の連れが、えらい落としもんしよってな」

「天照に何か関係あるんですか?」

「ちょっとだけな」

「ふぅん…。あ、俺、ここで降りますんで」

「ほぅか。なんや早いな。まあ、またな」

「機会があれば。ありがとうございました」

「はいはい。今度は、出来たら料金払ってほしいんやけど」

「考えときます」

「ふん。まあええわ」


御者台から飛び降りると、馬車はそのまま行ってしまった。

客席のおっちゃんが一人、手を振ってくれたから、振り返しておく。

…それから、ガレージの方へ。

ガレージの前では、ミコトがそわそわしながら待っていて。


「なんだ。便所に行きたいのか?」

(違うよ!翔が人混みに紛れて見えなくなっちゃったから、心配してたんだよ!)

「はいはい。ありがとな」

(もう…)


ミコトの頭を軽く叩いてやって、それから中に入る。

相変わらず機械油の匂いが充満していて、ミコトは顔をしかめていた。


「おい、オヤジ。いるか?」

「…なんだ」

「仕事あるか?」

「昼飯は付かねぇぞ」

「あるんだな?」

「…そっちの二輪。どこが故障してるのか診ておけ」

「修理は?」

「お前には無理だ」

「そうか。それで、ミコトにも仕事が欲しいんだけど」

(別にいいよ、私は)

「…その辺の工具とかを片付けてジッとしてろ。お前みたいなでかいのに動き回られると、邪魔で仕方ない」

(むっ。私だって、役に立つこともあるんだから!)

「そうなんだったら、口よりも身体を動かせ。ここは弁論の場じゃねぇ」

(うぅ…。分かったよ!やればいいんでしょ!)

「雑な仕事はするなよ」

(分かってるよ!)


と言いながら、早速ガチャガチャと雑な仕事を始める。

オヤジはそれを見越していたんだろう、全く無視して作業を続ける。

…まあ、とりあえず、俺も始めるか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ