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三日目の朝

強い光を感じる…。

眩しさを我慢しながら目を開けると、窓から朝の日射しが入ってきていた。

…ちゃんと閉めたよな?

誰かが開けたのか?

弥生…ではなさそうだけど…。

まさか、またあのサンっていう子が…。

まあ、何も盗られてないみたいだし、別にいいけど…。

とにかく、ちゃんと閉めておく。

二人はまだ寝てるから、起こさないように部屋を出て。


「よっ。早起きだね」

「お前もな」

「あはは。そうだね」

「よく眠れたか?」

「まあね。寝つきの良さは折紙付きだよ」

「そうか」

「光?光はまだ寝てるよ」

「何も聞いてないんだけど」

「まあまあ。聞く気だったんでしょ?」

「全然。だいたい、扉が全開だから全部見えてるし」

「あはは、こりゃ失敬」


そう言いながら、響は後ろ手にドアを閉めて。

…光、黒い寝間着を着てたな。

愛は昨日のままだったけど。


「女の子の部屋を覗いてさ、変な妄想ばっかりしてちゃダメだよ」

「いや。別に、何も考えてなかったけど」

「嘘だぁ」

「はぁ…。とりあえず、お前はもっとピシッとした格好をするべきだな」


響の着物の襟元を正して、きちんと裾を引っ張っておく。

うん、まあ、こんなもんだろ。


「ん?どうした?」

「………」

「なんだ」

「バ、バカじゃないの!」

「はぁ?」

「もう知らない!」


響はクルリと後ろを向くと、階段の方へ走っていった。

…なんだってんだ。

よく分からないけど。

まあ、とりあえず、俺も下に行くか。

顔を洗いに。


「ふぁ…」


今日するべきことは…。

光に天照に入ったことを伝えて…まあ、そんなところか。

この街に滞在するのも、今日で三日目だったか。

仕事も入れてない滞在では、珍しく長い方だよな。

…三日だけど、三日じゃない気もする。

いろんなことがあったから。


「あっ!」

「あ、おい、さっきはなんで…」

「ふん!バ翔!」


階段を降りたところですれ違った響は、まともに会話することもなく、バタバタと階段を上がっていってしまった。

…バ翔ってなんだよ。

くっつけるなよ。

しかし、何が気に食わなかったんだ?

服装を正したことか?

弥生にも、自分で出来るからってよく怒られるけど。

なんにも言わないんじゃ分かんねぇっての。


「はぁ…」


とにかくだ。

弥生がいつ出発するって言い出すか分からないけど、一日休んだんだし、ちょっとくらい仕事を入れておくか。

オヤジ、いつでも来いって言ってたしな。

とりあえず、光に伝えるのと、オヤジのところに行くのと。

まずは、このふたつだな。



朝の散歩がてら、オヤジの店を覗いてみる。

ガレージのところには誰もいなかったけど、奥の方で音はする。


「お邪魔しま~す…」


機材やらスクラップやらをよけて、音のする扉の前まで行く。

扉の向こうから聞こえてくる音は、何かを修理してる…といったかんじではなく、ただ料理をしているような音。

外では、他のところもそうだったから分からなかったけど、この奥からも確かに美味そうな匂いがしていた。

ノブに手をかけてみると、鍵は掛かってなかったから、そのまま中に入る。


「おぅ。今日は早かったな。まあ、そこに座れや」

「はぁ?何言ってんだ?」

「ん?なんだ、お前か…。まあいい。話は食事をしながらするから、そこに座れ」

「ん。…って、ちょっと待て、オヤジ」

「あぁ?なんだよ」

「それ、溶接用のバーナーなんじゃないのか?」

「それがどうしたんだ」

「溶接用のバーナーは溶接に使えよ!なんで、素知らぬ顔で肉焼いてんだよ!」

「うるせぇな。これはな、古くなって溶接では使えなくなったバーナーを、料理用に改造したもんだ。うちにはガスコンロがねぇからな」

「ガスコンロくらい買えよ…」

「文句言うなら食うな」

「はぁ…。分かった分かった…」


ため息をつきながら、適当に席に着く。

それにしても、再利用にも限度ってもんがあるだろ…。

そりゃ、表面を炙るためにバーナーを使うってところもあるみたいだけど…。

でも、それは料理用バーナーであって、溶接用バーナーじゃないはずだ。


「はぁ…」

「ため息ついてんじゃねぇよ」

「はいはい…」


しかし、朝ごはんを断ってきて正解だったな。

まさか、こんな形でご馳走してもらうとは思わなかったけど。

新しく肉を出してきて、それをまたバーナーで焼くオヤジの手元をぼんやりと見ながら。


「そういやさ」

「あぁ?」

「誰を待ってたんだ?」

「ふん。誰でもいいじゃねぇかよ」

「教えてくれたっていいだろ」

「…そのうち来る。ごちゃごちゃ言わないで、黙って座ってろ」

「へいへい…」


誰なんだろうか。

隠されると余計気になるけど。

まあ、そのうち来るんだったら、待ってればいいか。

朝っぱらから肉を焼いて待ってるってことは、男だろうか。

しっかし、かなりいい肉じゃないか、あれ?

あんな肉、高級旅館のメインでしか見たことないぞ。

俺は運ぶばっかりだったけど…。

弥生やミコトにも食べさせてやりたいな…。


「うひゃあ、油くさっ!鼻が曲がっちゃうよ…!」

「おぅ、来たか」

「もう…お父さん、まだしみったれた修理屋なんてやってんの?」

「ふん。俺のやりたいことをやって、何が悪い」

「あれ?この人は?お弟子さん?」

「…似たようなもんだ」

「おはよ。あなた、お名前は?」

「あ、うん…。翔だけど…」

「ふぅん。翔ってんだ。私は灯だよ。よろしくね」

「よろしく…」

「ほれ、出来たぞ。朝ごはんだ。食べるだろ?」

「うん…って、はぁ?何これ。もしかして、朝ごはんのつもり?」

「嫌なら食うな」

「いやいやいや。おかしいでしょ!朝から何ヘヴィーなもの食べさせようとしてるの?こんなの食べたら、一日中胃もたれで再起不能になるよ!」

「嫌なら食うな」

「しかも、無駄にいいお肉使っちゃって…。ていうか、お父さん。毎日こんなのばっかり食べてんじゃないでしょうね?」

「………」

「あ、食べてんだ!もう…。お母さんが聞いたら、すっごく怒るよ?それとも、早死にしたいわけ?お姉ちゃんは何も言わなかったの?」

「…あいつは、ここでは何も食べてない」

「出たよ、これ!あんのバカ姉、何のためにここに来たのか分かりやしない!」

「………」

「と、とにかく。俺も腹減ったし、食べないか?」

「お父さん、野菜は?」

「…冷蔵庫の中」

「なんだ、あるんじゃない!翔、もうちょっと待っててね」

「あ…うん…」


返事を聞くか聞かないかのうちに、灯は冷蔵庫の方に走っていって。

それから、戸を勢いよく開けると、野菜を適当に見繕って取り出していく。


「…誰なんだ、あれは?」

「…俺の娘だ」

「えっ!娘さん?」

「ん?どうしたの?」

「いや…」

「さっきから、お父さんお父さんと言ってただろ…」

「そうだけど…」

「今は、ユールオの城で料理人をやってるよ…」

「ふぅん…。お姉さんってのは?」

「お姉ちゃん、最近、お母さんから衛士長を継いでさ。今、すっごい忙しいんだよ」

「えっ?衛士長?お母さんも…?」

「そうだよ。はい、簡単で悪いけど、サラダね。ご飯も炊いてあったから、こっちもどうぞ」

「あ、あぁ…。ありがと」

「じゃあ、食べよっか」

「そうだな。いただきます」

「いただきま~す」


なんか、気になる話が満載だったけど。

まあ、まずは朝ごはんだな。

…ていうか、灯、胃もたれするとか言いながら、結局食べるんだな。

しかも、結構ガッツリと。


「ん?どうしたの?」

「あ、いや…。美人だなと思って…」

「えぇ~?もしかして、口説いてる?」

「いや、全然」

「えぇ…。なんだ、つまんないの…。しかも、即答って…」

「でも、白狼には美人が多いってのは本当だったんだな」

「またまたぁ。嬉しいこと言っちゃってさぁ」

「いや…。ただ、噂通りだったなってだけで…」

「んー。思ってたんだけど、翔ってさ、結構格好いいじゃん?」

「口説いてるのか?」

「そうだとしたら?」

「あんまり、女が男を口説くものじゃないぞ」

「もう…何それ。昔の人みたい」

「あ、そうだ」

「えっ?」

「この肉、貰って帰ってもいいか?」

「………」

「おい、オヤジ!」

「ん?あ、あぁ…なんだ」

「この肉、貰って帰ってもいいかって聞いてんだよ」

「…好きなだけ持って帰れ」

「おっ、ありがと」

「何?誰かに食べさせてあげるの?」

「ああ。妹にな」

「妹?どんな子?可愛い?」

「可愛いかどうかは知らないけど…。まあ、優しい子だな。ケチだけど」

「あはは、ケチかぁ。そりゃ参ったねぇ」

「あと、もう一人は、聖獣のクルクスだ」

「へぇ。契約してんだ」

「まあな」

「私も誰かと契約しよっかな」

「まあ、どうぞご勝手に」

「ねぇ、紹介してよ」

「生憎、友達が少ないんでな」

「なぁんだ。つまんない」

「つまらなくて結構だ」


肉を三つに分けて、二切れを横に分けておく。

せっかくいい肉なんだ。

やっぱり、二人にも食べさせてやりたい。

…それにしても、灯に怒られてから、ずっと黙ったきりだな、オヤジ。

大丈夫か?

ボソボソとではあるが、朝ごはんはちゃんと食べてるあたりからすると、見た目ほどはダメージはないみたいだけど。

まあ、灯も気にしてないみたいだし、別にいいのかな?

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