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名前

「ビックリしたよ。ホントに」

「平気の平座みたいな顔してたじゃないか」

「わたし、顔に出さないんだよ」

「はぁ…。とにかく、光はこいつのことを聖獣だと思ってるみたいだけど、どうするんだよ」

「別にいいんじゃない?似たようなものだし」

「似たようなもの?こいつは何なんだ?」

「影だよ、影。聖獣の対となる存在」

「はぁ?なんだ、それ?聞いたことないぞ」

「聖獣に比べて、あんまり知られてないしね」

「ふぅん…。よく分からないな」

「まあ、そういうのがいるってことだけ理解してくれたらいいよ。別に、とやかく心配するようなことでもないし」

「そうか。しかし、さっきから黙ったきりだけど、どうしたんだ?腹でも痛いのか?」

「………」

「いつもはお喋りなのにね」

「そういえば、なんであの世界にいたんだ?俺も、わけも分からないうちにあそこにいたんだけどさ。影はお前一人じゃないんだろ?」

「………」

「この子はあそこの番人なんだよ。誰も来なくなった今でもずっとね」

「番人?」

「黄昏の世界は、いわば交流の地だったんだけどね。ずっと昔に何かあって、扉を閉めちゃったらしいんだ。それからは、人の往来もぱったり。みんなの記憶からも消え去ったってわけ」

「扉が閉まってるのに、なんでお前や俺が向こうに行けたんだよ」

「さあね。隙間から無理矢理入ったんでない?」

「適当だな…」

「あはは。みんなたいがいそんなもんだって」

「でも、ほとんど牢獄だよな。誰も来ない場所に閉じ込められてさ」

「うん、まあね」


クルちゃんは、ずっと俯いたままだった。

一言も喋らずに。

…と、もう一度、耳を澄ませてみる。

うん。

弥生もミコトも、ぐっすり眠ってるみたいだな。

響の方を見てみると、静かに頷いて。

光も、ちゃんと眠ってるらしい。

話を続けることにする。


「それで、クルちゃんの本当の名前って何なんだよ」

「さあね。知らない。面倒くさいし、クルちゃんでいいんじゃない?」

「………」

「でも、光も早く名前を付けてやれって五月蝿かったじゃないか」

「だって、クルちゃんが話してくれないとねぇ?」

「わたしは…」

「ん?」

「わたしは、真名しか持ってないから…」

「真名でいいじゃない」

「真名は…教えちゃいけないって…」

「何それ」

「魔術師に悪用されるとか、そういう地方とか宗教の言い伝えはあるな」

「えぇ…。別にいいじゃない。わたしたちは魔術師じゃないんだしさ」

「どこで知られるか分からないからな。こういうところは、真名ともうひとつの名前を貰って、普段呼ぶときは真名じゃない方で呼んで、結婚相手とかにだけ真名を伝えるってことになってるはずなんだけどな。なんで、真名しかないんだ?」

「呼び名は…思い出せない…。ずっと遠くに置いてきたから…」

「どういう意味だ?」

「番人だから…」

「あーもう!面倒くさいなぁ。呼び名がないんだったら、もう一回付ければいいのよ!」

「シーッ。静かにしろ。夜中だぞ」

「はぁ…。そもそも、なんでこんなコソコソしないといけないの?普通に話せばいいじゃない。聞かれて不味い話でもないでしょ?」

「夕焼けの世界だとか、影だとか、にわかには信じ難い話をすれば、みんなのこいつに対する不信感を強めるだけだろ?夕飯の席ではみんなと上手くやれたんだから、そういうのはしばらくやめておいた方がいいんじゃないか?」

「そうかな?」

「分からないけど」

「はぁ…。何、それ…」

「人がどう考えるかなんて分からないじゃないか。そんな話を聞いても普通に接してくれるかもしれないし、不信感を強くするかもしれない。それなら、悪い方へ行かないように、慎重に事を進めていくべきだろ?こいつに対する信頼が固まってから話すべきだと、俺は思う」

「うーん…。そうかもしれないけどさぁ…」

「なんだよ」

「やっぱり、隠し事はダメだと思うんだよね。わたしは、光には隠し事をしたくないんだよ」

「そうか」

「光に喋っちゃうかもしれないよ?」

「好きにすればいい。でも、こいつに対するリスクもあることを忘れるなよ」

「そう言われると、言いにくいでしょ」

「じゃあ、言うなよ」

「………」

「そう睨むなって。光だって、何か隠してるってことくらいすぐに分かるだろ。聞かれたら話せばいい。そのときには、覚悟も出来てるだろ。覚悟するようなことでもないけど」

「はぁ…。分かったよ…」


響はやれやれという風に。

まあ、たぶん、これでいい。

隠し事は確かによくないけど…。


「それでさ、この子の名前だけど」

「考えたのか?」

「まあね」

「…俺の話はちゃんと聞いてたんだろうな?」

「半々くらい」

「お前なぁ…」

「いいじゃん、どうでも。それよりさ、真名しかないって言ってて思い付いたんだけど、マナって名前はどう?字はさ、愛とかで」

「愛か。お前はどう思うんだ?」

「えっ…?」

「話、聞いてたか?」

「ごめんなさい…。あんまり…」

「あなたの呼び名をね、愛って書いてマナって読むのはどうかって話をしてたの。わたしが考えたんだよ、わたしが」

「恩着せがましい言い方をするな。それで、どうだ?」

「…いいと思うよ」

「じゃあ、決まりだね」

「…うん」


愛は、小さく頷いて。

よし。

じゃあ、この話はここまでだな。


「さて。もう遅いし、寝るか」

「そうだね」「…うん」

「じゃあ、お休み」

「あ、ちょっと待って」

「なんだ」

「翔ってさ、いつ発つんだっけ」

「いつとは決まってないけど、遅くとも二、三日後には出ると思う」

「そっか。うん、分かった」

「どうしたんだ?」

「ううん。光がさ、なんか気にしてたみたいだから」

「ふぅん…。あ、そうだ。俺たち、旅団天照に入団させてもらったんだ」

「へぇ、そうなんだ」

「ああ。それで、天照経由で手紙のやり取りとかも出来ると思うんだ。だから…」

「待ちなよ。それは光に直接言ってあげてよ。なんで、わたしに言うのさ」

「…そうだったな。ごめん」

「謝ることでもないって。けど、明日になったらすぐに言うんだよ」

「分かってる」

「…じゃあ、お休み。今度こそ」

「ああ。お休み。愛も」

「…うん、お休み」


それから、二人が部屋に戻るのを見送ってから、自分も部屋に戻る。

暗闇の中から、弥生とミコトの寝息が聞こえた。

…こいつらは、愛のことを今話したら、どんな反応をするんだろうか。

まあ、ダメだと言っておいて、俺から約束を破るようなことは出来ないけど。


「………」


こいつらなら、ちゃんと理解してくれるだろうな。

響も、光に対して同じことを思ったんだろう。

…でも、念には念を、だ。

やっぱり、少しだけ様子を見てみることにしよう。


「よっ…と」


そうとなれば、今日はもう寝よう。

いや、二人を起こしてまで言うようなことではないんだけど。

…とりあえず、寝よう。

お休み…。

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