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ゆっくりと

弥生を見つけてしまった。

向こうは気付いてないけど、気付くのも時間の問題だろう。

横に誰か女の子を連れて、楽しそうに話していた。

あの子が、友達なんだろうか。

そしてミコトは、その後ろをついていってて。


「翔。これ、どうかな」

「ん?んー、いいんじゃないか?」

「どうしたの?」

「何が?」

「誰か、気になる子が、いるの?」

「んー…ちょっとな…。あそこに妹がいるんだよ…」

「妹?」

「ほら、あそこ。黒い龍を引き連れてる、ちっこい方」

「あ。あの子、朝に、部屋で見た」

「そりゃ、俺たちの部屋だったからな…」

「あ…」


光は顔を真っ赤にさせて、また俯いた。

…この話はダメだな。


「まあ、俺がここにいると分かったら、向こうの楽しさが失せるんじゃないかって思って見てたんだけど…」

「あっ!お兄ちゃん!こっちこっち!」

「あはは…。ちょっと、遅かったみたいだね…」

「そうだな。…とりあえず、行こうか」

「うん…」


光の手を掴んで、人混みを掻き分けて進んでいく。

なるべく光が楽に進めるように、広く道を開けさせて。

そして、やっと弥生の下に辿り着いた。


「お兄ちゃん!この子!お友達!」

「大きな声を出すな。充分聞こえてる。それで、名前は?」

「あ、はい。柚香です」

「柚香か。弥生、迷惑ばっかり掛けてると思うけど、仲良くしてやってくれ」

「お兄ちゃん!」

「ふふふ。はい、分かってます」

「よろしくな」

「ん?あれ?お兄ちゃん、その人は?」

「光だ。同じ宿に泊まってる。まあ…俺の彼女だよ」

「えぇっ!嘘っ!なんでお兄ちゃんなんか好きになったの?可哀想に…」

「お前、いろいろ酷いな」

「えっと、わたしは、昨日、翔を櫛屋さんで見て…」


そこまで言って、光はまた顔を赤くして。

言葉が喉に詰まって、全然出てこないようだった。


「ふぅん、そっかぁ。でも、よく考え直した方がいいよ?」

「は、はぁ…」

「まあ、お兄ちゃんくらい、いつでもその辺に捨てといてくれていいからね。気に入らなかったら、そうして」

「は、はい…。分かりました…」


なんで、光が弥生に敬語を使ってるんだろ。

ていうか、弥生の態度が大きすぎるのか。


「それより、柚香。お前、もしかして月光病か?」

「はい。お昼には目が見えなくなって、夜には声が出なくなるんです」

「そうか…。弥生に連れ回されて大変じゃないか?」

「いえ。私が、連れていってほしいって頼んだんです。この前、外出許可が下りたので」

「この前って、じゃあ、もしかして、まだ様子見の時期なんじゃないのか?こんな人混みに来て大丈夫なのか?」

「さっき出る前に、長之助さんに聞いたら、一時間くらいなら大丈夫だって。それで、今、ちょうど三十分くらいです」

「柚香ちゃん、時間が、分かるの?」

「はい。昔から、時間の感覚だけは正確なんです」

「へぇ~」

「あ、でも、今こうやってる間にも時間は過ぎてるか。ごめんな。邪魔して」

「いえ。弥生ちゃんのお兄さんが優しい人なんだって分かってよかったです。たぶん、光は、それが直感的に分かったんだよね」

「…うん。たぶん」

「…なんか照れるな」

「調子に乗っちゃダメだよ、お兄ちゃん!」

「乗らないよ…」


弥生は、しつこく、何回も注意してきて。

まったく…。

分かってるっての。

…そういえば、ミコトは何も喋らないな。

どうしたんだろ。

腹でも減ったのか。

不機嫌そうな顔をしてるから、たぶんそうなんだろうな。



柚香の買い物が済み、時間切れとなってしまったので、柚香の家の近くらしい公園へ。

街の喧騒からは離れて、ここは静かだった。

他にもたくさん休んでる人はいるけど、公園自体かなり広いから、実際は充分すぎるくらいの間合いが確保されていた。


「はい、どうぞ。お弁当、作ってきたよ」

(お弁当!)

「お前、喋らないと思ったら、やっぱり腹が減ってたんだな」

(当たり前だよ!喋って余計な体力使ったら倒れちゃうよ!)

「それだけ元気なら大丈夫だろ…」

「あはは。まあ、とにかく、いっぱい、あるから、いっぱい、食べてね」

(いただきます!)

「はぁい」


早速、ミコト用に作られた弁当にがっつく。

こいつは、まったく…。


「はい、どうぞ」

「あ、うん」

「…隣、いい?」

「ああ」


光は隣に座ると、少し居心地が悪そうにモジモジとする。

そして、震える手で弁当の蓋を開けて。

落としそうだったので、光の手を支える。


「あっ…」

「しっかり持てよ。落とすだろ?」

「うん…」

「ちょっと緊張しすぎだ」


光の頭を撫でてやると、少し笑顔を見せてくれた。

…でも、やっぱりまだ固いな。


「美味しい!光お姉ちゃんって、料理が上手いんだね!」

「それほどでも、ないよ。それに、出来合いのものを貰って、入れてきただけだし」

「えっ?でも、この卵焼き、温かいよ?」

「それは、わたしが、作らせてもらったんだけど…」

「へぇ~。こんなに上手く巻いてるのなんて、見たことないよ」

「俺のは雑で悪かったな」

「うん。雑」

「お前は巻くことすら出来ないだろ…」

「そんなこと…ないもん…」

「あはは…。ちょっと、コツを掴めば、簡単に出来るよ」

「そうなの?じゃあ、また今度教えて!」

「うん、もちろんだよ」

「えへへ、ありがと」


卵焼きだけ上手くなっても仕方ないんだけどな。

まあ、卵焼きだけでも上手くなってほしいけど。


「お兄ちゃんが光お姉ちゃんと結婚したら、毎日教えてもらえるね!」

「えっ、け、結婚!?」

「まだ早いだろ…」

「そうかな?」

「お前、ついさっき、しっかり考え直せとか言ってたくせに…」

「でも、料理は教えてほしいもん」

「それだけのことで、結婚だなんて言い出したのか…」

「重要問題だよ!」

「はぁ…」


結婚…か。

俺も、もう十七だし、そろそろそんな言葉も出てくる頃か…。

でも、あっちへフラフラ、こっちへフラフラの放浪生活だ。

そんな状態で、嫁を貰うわけにはいかない。

せめて、どこかの旅団に入るとかしないと…。


「真剣な顔して。どうしたの?」

「いや、ちょっと結婚のことで考えてた」

「結婚?光と?早くない?」

「俺もそう思うけど、卵焼きは取るなよ」

「ケチ」

「ああ、ケチだ。しかし、お前は神出鬼没だな」

「まあね」

「ん?わっ、誰?」

「響だよ。光と一緒に旅してるんだけど」

「い、いつの間に…」

「さっき来てたよ。良い匂いがしたから、すぐに分かった。弥生ちゃんは分からなかった?」

「柚香みたいなことは出来ないなぁ…」

「そう?」

「弥生は注意散漫なんだろ。ミコトは未だに気付いてないけどな」

「ていうか、お弁当を食べた前後で人数が変わってるなんて気付かないでしょ」

「たぶんな」


そういう、おとぼけたかんじがミコトの良いところでもあるんだけど。

でも、もう少しくらい、しっかりしてくれてもいい気がする。


「ん?あれ?光?」

「わ、わたし、まだ、そんな、結婚とか考えてなくて、えっと、その…」

「頭、大丈夫?」

「え?ひ、響?」

「そ。響」

「なんで、ここに…」

「どこにいてもいいでしょ。あと、その話は終わってるからね」

「えっ…」


どんどん赤くなる光の顔を、楽しそうに突つく響。

なんだか、もう本当に火が出るんじゃないかってくらい赤くなってるけど…。

大丈夫かな…。

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